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知財判例データベース 特許法院において補正却下の決定は適法であるとしながらも、補正前の明細書に基づいて出願発明の進歩性が否定されないとした事例

基本情報

区分
特許
判断主体
特許法院
当事者
原告 A vs 被告 特許庁長
事件番号
2019ホ7269拒絶決定(特)
言い渡し日
2020年10月22日
事件の経過
審決取消(上告せず確定)

概要

原告は、特許拒絶決定に対する不服審判を請求したが、特許審判院は、補正却下の決定は適法であり、出願発明は先行発明によって進歩性が否定されるという理由で審判請求を棄却する審決をした。原告はこれに対して審決取消訴訟を提起し、特許法院は、再審査請求時の補正(以下「再審査補正」という)は新規事項の追加に該当し不適法であるとしながらも、補正前の請求項により進歩性を判断しても出願発明の技術的思想が先行発明に全く示されておらず、先行発明は出願発明の技術的構成については全く示唆又は暗示していないので、出願発明の構成は先行発明から容易に導き出すことができず、出願発明の効果も先行発明から予測できないという理由で進歩性が否定されるという審決を取り消した。

事実関係

原告は、2016年に「多機能粘土組成物」という名称の発明を出願した。2017年に特許庁の審査官は、出願発明が先行発明1〜3によって進歩性が欠如する旨の意見提出通知をし、これに対して原告は意見書及び補正書を提出したが、同一の理由により拒絶決定をした。原告は、2018年に請求項1を補正しながら再審査請求をしたが、審査官は、再審査請求時の補正が最初の明細書に記載されていない新規事項を追加したものであるため特許法第47条第2項の補正要件に違反するという理由で補正却下の決定をし、依然として先行発明によって進歩性が否定されるという理由で拒絶決定をした。原告は、特許審判院に拒絶決定に対する不服審判を請求したが、特許審判院は、補正却下の決定は適法で、出願発明は先行発明によって進歩性が否定されるという理由で審判請求を棄却する審決をした。原告は、審決を不服として特許法院に審決取消訴訟を提起した。

出願発明の再審査補正前の特許請求の範囲は、以下のとおりである。

【請求項1】体質剤;架橋可能な水溶性樹脂又は化合物を含む結合剤;2官能以上のヒドロキシ基を有する化合物を含むか、水溶媒中で2官能以上のヒドロキシ基を有するイオンを形成する多官能架橋剤;ワックス;及び顔料を含み、前記結合剤は、セルロース系高分子とPVA系高分子を共に含み、上記多官能架橋剤は、水溶媒中でボレート系イオンを形成するボレート系塩化合物又は錯体を含む多機能粘土組成物。

原告は、以下の補正事項により請求項に下記括弧部分を追加する補正が、出願発明の出願時の技術常識から判断して、当業者が出願発明にそのような記載があるも同然として理解できる事項に該当するので、補正却下の決定は違法であると主張した。 補正事項:前記結合剤は「組成物の固形分総重量を基準として、3〜10重量%の」セルロース系高分子と「3〜30重量%の」PVA系高分子をともに含み、上記多官能架橋剤は水溶媒中でボレート系イオンを形成するボレート系塩化合物又は錯体を含む多機能粘土組成物」 一方、出願発明の進歩性については、出願発明と先行発明1の構成要素を対比すると、下記のとおりである。

出願発明と先行発明1の構成要素を対比

被告である特許庁は、上記差異2について、結合剤としてセルロース系高分子とPVA系高分子を組み合わせる構成は、ⅰ)結合剤としてPVAを使用する構成が先行発明1に開示されており、ⅱ)先行発明3には、水溶性高分子の例として複数のセルロース系高分子を使用するPVA高分子がともに記載されており、これらの組み合わせの可能性についても明示されているだけでなく、ⅲ)粘土組成物の分野でセルロース系高分子、PVA系高分子、又はこれらの組み合わせを結合剤として使用できるという点は当該技術分野の技術常識に該当するものであるため、構成の困難性があるとは認め難いと主張した。また被告は、差異3について、多官能架橋剤としてボレート系塩化合物を採用する構成は、先行発明1に粘土組成物のPVA架橋剤としてホウ酸が使用されてきたと記載されており、粘土組成物の分野でホウ酸又はホウ砂などをPVA架橋剤として使用できるという点がよく知られているため、先行発明1のホウ酸をボレートアニオンに置き換えることは当業者にとって自明なものであり、構成の困難性があると認め難いと主張した。

判決内容

特許法院は、補正却下の決定は適法であるとした一方、再審査時の補正前の出願発明は先行発明1〜3によって進歩性が否定されないと判断した。特許法院の具体的な判断は、下記のとおりである。

(1)補正却下の決定は適法である

補正は、結合剤を構成する成分であるセルロース系高分子とPVA系高分子の含有量の比率を「組成物の固形分総重量基準として」それぞれ「3〜10重量%」及び「3〜30重量%」に限定したものである。本件出願発明の最初の明細書等には、結合剤は粘土組成物の固形分総重量を基準として結合剤の3〜40重量%含むことができ、実施例では、エチルセルロース10重量%とPVA水溶液30重量%添加されていると記載されているだけで、組成物の固形分総重量を基準にしたセルロース系高分子とPVA系高分子の含有量の比率は全く記載されていない。さらに、出願発明の実施例ではPVA水溶液の場合、PVA水溶液の濃度が示されておらず、PVA水溶液30重量%が組成物の固形分総重量を基準として何重量%に該当するか不明などであることから、補正事項は当業者が本件の出願発明の最初の明細書等に記載されているも同然であると理解できる事項であるともいえない。

(2)再審査補正前の出願発明は、先行発明1〜3によって進歩性が否定されない

再審査補正が不適法な補正であるため、再審査段階前の明細書に基づいて出願発明の進歩性が否定されるか検討する。

(イ)差異1は、容易に導き出すことができる

出願発明と先行発明1の差異1(ワックスを含むこと)は、先行発明1と同様の技術分野に該当する先行発明2の発明の内容に棒状工作用粘土の製造時にワックスを含む構成が記載されているため、先行発明2のワックスの構成を先行発明1の人工粘土組成物に単に適用させることができ、効果も予測可能な程度に相当する。

(ロ)差異2は容易に導き出すことができない

下記に示すように、先行発明1〜3には、出願発明の技術的思想が全く示されておらず、出願発明の技術的構成については全く示唆又は暗示していない。

1)出願発明の明細書の記載と追加実験の結果によれば、出願発明の粘土組成物は、「乾燥前には様々な工作が可能な粘土として使用でき、乾燥後はクレヨンのような筆記具として使用できる多機能粘土組成物を提供」することを技術的課題とし、そのために「結合剤としてセルロース系高分子とPVA系高分子をともに含み、架橋剤としてホウ砂のような水溶媒中でボレート系イオンを形成するボレート系塩化合物又は錯体を使用すること」を、その技術的特徴とするものであることが分かる。

2)出願発明の明細書には、「…(中略)…発明の一実施形態に係る多機能粘土組成物は、主成分として、上記粘土系体質剤とともに架橋可能な水溶性樹脂又は化合物を含む結合剤を含む。これらの結合剤は、基本的に粘土組成物の成分として含まれ、後述する多官能架橋剤と架橋されて前記粘土組成物が適切な水準の柔らかさと粘度を持つようにすることができる」と記載されている。出願発明の明細書には、関連実験で結合剤としてエチルセルロース(又はカルボキシメチルセルロース)とPVA水溶液を使用し、架橋剤としてホウ砂水溶液を使用する構成などを含む粘土組成物の場合、乾燥前に粘土組成物に準ずる針入度(柔らかさ)を示しながらも、乾燥後にはクレヨンに準ずる摩耗性(低摩擦係数)を有する実験データが示されている。

3)原告は追加実験データで、ⅰ)エチルセルロース又はPVA水溶液をそれぞれ単独で使用した場合(追加比較例1、2)、ⅱ)架橋剤を使用しない場合(追加比較例3)、ⅲ)架橋剤としてホウ砂の代わりにホウ酸を使用した場合(追加比較例4)についての実験結果を提出した。上記データによると、追加比較例1、2、3の場合は、乾燥前に粘土として使用時に針入度(柔らかさ)が大きいため手に付きやすく、乾燥後には曲げ強度が弱いためとても曲がりやすく砕けやすいのでクレヨンなどの筆記具として使用できず、摩擦係数が高くて耐摩耗性が低いため紙への筆記性が低くなるという問題が発生することが分かった。また、追加比較例4の場合も針入度(柔らかさ)が小さいため固く、工作性が劣悪で粘土として使用しにくく、乾燥した後、曲げ強度が弱いためとても曲がりやすく砕けやすいので、クレヨンなどの筆記具として使用できない問題が発生することが分かった。

4)先行発明1は、接着性に優れ、弾性が高く、軽量で、色表現力と引張性に優れ、硬化時間が長い人工粘土を提供することを目的とし、人工粘土の構成成分と含有量を限定している。先行発明2は、工作時に容易に利用されるように棒のような形状をし、良好な押出成形性及び形状保持性、優れた成形性を有し、べたつきや粘着などの問題が生じない棒状工作用粘土を提供することを目的とし、ワックス、体質顔料、着色剤を特定の含有量で含むことを技術的構成として採用している。先行発明3は、描画性、色彩の鮮やかさ、及び多色画像の密着性の組み合わせが優れた多色クレヨン又はクレパスを提供するなどの目的でクレヨンやクレパス材料からなる連続マトリックスとこのマトリックス中に分散された複数種の着色粒子状を含むことを技術的構成として採用している。

5)先行発明3の明細書には、バインダー成分として使用される水溶性高分子としてエチルセルロース、ポリビニルアルコール(PVA)などがあり、これらの水溶性高分子は、2種以上の組み合わせでも使用できると記載されている。上記高分子のうちノニオン系高分子として羅列された22種の高分子中にエチルセルロースとポリビニルアルコール(PVA)が含まれているところ、当業者が先行発明3の多数の高分子の組み合わせの中からバインダー成分としてエチルセルロース及びポリビニルアルコール(PVA)の2種にのみ注目して、これを選択して使用するとは考えにくい。また、架橋剤としてホウ砂のような水溶媒中でボレート系イオンを形成するボレート系塩化合物又は錯体を選択して使用できるような技術的動機も示されていない。

先行発明1〜3には、出願発明の技術思想が全く示されていないため、乾燥前には従来の粘土組成物に準ずる柔らかさを有し、様々な形に成形可能な粘土組成物として適切に使用することができながらも、乾燥後には高い硬度や耐摩耗性などを有してクレヨンに準ずる筆記具として使用できるようにするために、結合剤としてセルロース系高分子とPVA系高分子をともに含みながら、架橋剤としてホウ砂のような水溶媒中でボレート系イオンを形成するボレート系塩化合物又は錯体を使用する技術的構成を採用する動機があるとはいい難い。仮に先行発明1〜3を組み合わせても、結合剤としてセルロース系高分子とPVA系高分子をともに含み、架橋剤としてホウ砂のような水溶媒中でボレート系イオンを形成するボレート系塩化合物又は錯体を使用する技術的構成が導き出されるともいい難い。

(ハ)効果の顕著性が認められる

出願発明は、成分の組合せに特徴がある組合せ物の発明であり、出願発明の明細書と追加実験資料の実験結果は成分の組合せによる効果の違いを示しており、その効果は先行発明から予測できないので効果の顕著性が認められる。したがって、出願発明の明細書の実験結果と追加実験資料に記載された物性が出願発明の全範囲で示される効果といい難いので、顕著な効果が認められないという被告の主張は受け入れ難い。

専門家からのアドバイス

本件は、特許法院が本件審決における補正却下の決定は適法であるとしながらも、補正前の明細書に基づいて出願発明の進歩性は否定されないと判断したものであった。特許法院が審決の判断を覆して本件出願発明の進歩性を認めた理由は何であっただろうか。

本件出願発明である多機能粘土組成物は、上述したとおり先行発明1に対して、結合剤に関する構成(差異2)と架橋剤に関する構成(差異3)を含んでいる。かかる出願発明の進歩性判断に関連して、被告である特許庁は、先行発明1と3に出願発明の結合剤の構成が開示されており、粘土組成物の分野で結合剤としてセルロース系高分子とPVA系高分子を組み合わせた構成が使用され得るという点は技術常識に該当すること、および、粘土組成物の分野でホウ酸又はホウ砂などをPVA架橋剤として使用することができるという点がよく知られているため、架橋剤として先行発明1のホウ酸をボレートアニオンに代えることは自明であるという理由により、出願発明の構成の困難性を否定した。

これに対し特許法院は、たとえ粘土組成物の分野で結合剤のセルロース系高分子とPVA系高分子を共に使用することや、ホウ酸又はホウ砂がPVAの粘度を増加させるか又はゲル化させ、ホウ酸とホウ砂がPVAの架橋剤として同等に使用されることが本件出願発明の出願前に広く知られていたとしても、先行発明1〜3や公知技術に出願発明の技術的思想が全く示されておらず、出願発明の技術的思想に基づいて結合剤と架橋剤の技術的構成を採用する動機があるといえないため、出願発明の構成を先行発明から容易に導き出すことができないと判断した。

出願発明の進歩性を主張するのにおいては、出願発明の構成を複数の先行発明と単に対比することは避け、出願発明の技術的思想を考慮しながら先行発明から当該構成を採用する動機があるかといったことを検討することが重要であり、そうした進歩性判断のために本件の判示事項は参考になる。

ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム

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