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知財判例データベース 人体への有害性が認められた植物抽出物を含有する食品組成物は、公衆の衛生を害するおそれがあるため特許を受けられない

基本情報

区分
特許
判断主体
特許法院
当事者
原告A社 vs 被告特許庁長
事件番号
2020ホ1618拒絶決定(特)
言い渡し日
2020年08月13日
事件の経過
上告なしに確定

概要

センニンソウ(Clematis terniflora)抽出物を含む食品組成物に関する出願発明について、センニンソウの根は食品医薬品安全処告示において健康機能食品に使用することができない原料として指定されており、国内外の学術誌などで人体に有害であると報告されているところ、出願発明のセンニンソウ抽出物はその根を含む抽出物であるため、特許法第32条の公衆の衛生を害するおそれがある発明に該当して特許を受けることができない。

事実関係

原告は、2016年に発明の名称を「疲労予防及び改善用組成物」とする発明を出願した。特許庁の審査官は2018年に出願発明が公衆の衛生を害するおそれがある発明に該当し、かつ進歩性が欠如するため、特許法第32条および第29条第2項の規定により特許を受けることができない旨の意見提出通知をし、原告は意見書及び補正書を提出したが、同一の理由により拒絶決定がされた。原告は2019年に特許審判院に拒絶決定に対する不服審判を請求し、これに対して特許審判院は、「本件第5項の発明(以下「出願発明」と言う)は公衆の衛生を害するおそれがあるため、特許法第32条の規定により特許を受けることができず、いずれかの請求項であっても拒絶理由があるのであれば、その出願は一体として拒絶されるべきである」との理由により審判請求を棄却する審決をした。原告は、上記審決を不服として特許法院に審決取消訴訟を提起した。

本件出願発明の請求項1と5は、次の通りである。

【請求項1】センニンソウ抽出物を含み、抗疲労活性を有し、ドーパミンを抑制し、セロトニンが抑制されることを防止して抗ストレス活性を有するものである疲労予防及び改善用組成物。

【請求項5】第1項による疲労予防及び改善用組成物を含むものである食品組成物。
原告は、特許法第32条違反による審決の理由に対し、出願発明が登録されたとしても製品として上市されるためには、所定の安定性などを証明した上で食品医薬品安全処から別途の許可を受けなければならない点、センニンソウ抽出物を含む食品組成物について登録された特許が既に存在する点等に鑑みて不当性を主張した。これに対して特許法院は、下記の通り判示して原告の請求を棄却した。

判決内容

まず特許法院は、関連法理として下記を掲げた。

『特許法第32条によれば、公衆の衛生を害するおそれがある発明については、特許法第29条第1項にかかわらず、特許を受けることができない。従って、特許法第32条、第62条に鑑みて特許出願が公衆の衛生を害するおそれがあるときは拒絶決定をすべきであるため、発明が公衆の衛生を害するおそれがあるか否かは特許手続において審理されるべきものであり、これは単に発明の実施段階において製品に対する食品衛生法等の関連許可法規のみにおいて扱う問題ではない(大法院1991年11月8日言渡91フ110判決など参照)。

一方、健康機能食品に関する法律第24条第2項、第3項によると、健康機能食品を販売する目的により製造若しくは輸入し、又は販売する業を営む者は、医薬品の用途にのみ使用される原料を用いて健康機能食品を製造する行為、配合・混合比率・含量が医薬品と同じであり、又は類似の健康機能食品を製造する行為及び毒性があり、又は人体に副作用を引き起こす原料などを用いて健康機能食品を製造する行為などをしてはならないが、上記原料等に関する具体的な基準と範囲は、食品医薬品安全処長が定める。』

続いて、出願発明に関連して特許法院は次の事実を認定した。

①健康機能食品に関する法律によって食品医薬品安全処が告示した「健康機能食品に使用することができない原料等に関する規定によると、威霊仙(センニンソウの根)は健康機能食品に使用することができない原料中の一つに指定されている。

②食品衛生法によって食品医薬品安全処長が告示した食品公典の「食品に使用することができる原料」の目録によると、センニンソウの「葉」の部位は食品に使用することができる原料として指定されている。

③食品医薬品安全処が提供する食品安全情報に関するポータルサイトである「食品安全の国」によると、健康機能食品の原料別情報において威霊仙は使用不可原料として表示されている。

④「威霊仙の毒性に関する文献的考察」という論文によると、威霊仙を過量に服用する場合、中毒を引き起こすことがあり、深刻な場合、10時間余りのうちに死亡し得ると記載されている。

⑤香港医院管理局が発行した有毒植物図鑑によると、威霊仙を中毒になるほど摂取する場合、吐気、嘔吐、下痢、腹痛、めまい、胃腸管出血が発生し得、甚だしい場合、死亡することもあり、中国において威霊仙中毒によって死に至った事例が報告されていると記載されている。

上記認定事実に基づいた上で、特許法院は下記の旨により、出願発明の「センニンソウ抽出物」を含む食品組成物は公衆の衛生を害するおそれがあると判断した。

1) 特許請求の範囲に記載された事項は、その文言の一般的な意味に基づきながらも、発明の詳細な説明及び図面などを参酌し、その文言によって表現しようとする技術的意義を考察した上で、客観的・合理的に解釈すべきであるため(大法院2007年10月25日言渡2006フ3625判決など参照)、明細書では「センニンソウ抽出物」についてセンニンソウの「植物」を溶媒により抽出したものと記載されている点、「センニンソウ抽出物とは別途にセンニンソウの食用部分を選別して粉砕した後(中略)センニンソウの食用部分抽出物を製造した」と記載しており、センニンソウ抽出物とセンニンソウの食用部分を明示的に区別している点などを参酌すると、出願発明の「センニンソウ抽出物」はセンニンソウの根、すなわち威霊仙が含まれたセンニンソウの植物抽出物と解釈される。

2) ①センニンソウの根は、センニンソウの葉とは異なり食品医薬品安全処長の告示において、健康機能食品に使用することができない原料として指定されている点、②威霊仙は、国内の関連データベースにおいて、有害性を認め、食品に使用することができないものとされており、国内外の学術誌及び報告書において、人体に有害であると報告している点、③出願発明にはセンニンソウ抽出物の含量に対する何らの限定もない点まで含めて考慮してみると、センニンソウの根(威霊仙)を含むセンニンソウ抽出物を含有している食品組成物は、公衆の衛生を害するおそれがあると言うのが相当である。

特許法院は、原告の主張に対しても下記の通り理由がないと判断した。

1) 原告は、特許出願手続において特許法第32条を適用するものとすれば食品医薬品安全処の許可のための段階に移行することができる仕組みが設けられなくなり、また安全性のために食品医薬品安全処の認証を先に受けて特許出願をすれば許可期間が長くなって秘密維持が難しい問題が発生し、健康機能食品の製品上市の許否は食品医薬品安全処において判断するものであるため、特許庁において特許登録の可能性の定規により判断できる事項ではない旨を主張する。しかし、特許法第32条、第62条によって特許出願が公衆の衛生を害するおそれがある以上は拒絶決定をすべきであるため、原告の主張は理由がない。

2) 原告は、登録特許公報第721508号の実験例8においては、威霊仙抽出物を含有する薬学組成物に対する動物実験の結果、威霊仙抽出物の過多投与時にも毒性の問題がないことが確認された旨を主張する。しかし、医薬品の場合、医師の処方などを通じて厳格な統制を受けるため、同一の成分が医薬として安全性が確保されたとしても、それが食品として安全であると断定し難いだけでなく、上記特許発明の実験例8によっても食品組成物が「人体」に安全であることを証明したものとは言い難い。

3) 原告は、特許実用新案審査基準には、食品医薬品安全処告示で定めた健康機能食品の使用不可原料に対して特許法第32条を適用できる点が明示されておらず、これを理由として特許出願を拒絶することは「WTO貿易関連知識財産権に関する協定(以下「TRIPs」と言う)第27条第2項ただし書に反するとの趣旨で主張する。しかし、上記TRIPsの規定は「会員国は、自国領土内における発明の商業的利用の禁止が人の生命又は健康の保護などに必要であると認められる発明について特許対象から除外することができ、単に上記商業的利用が自国法令により禁止されているとの理由のみによりなされるものであってはならない」としており、出願発明は、特許法第32条違反により拒絶決定を受けたものであって、単に食品医薬品安全処長の告示のみを理由として特許対象から除外したものではないため、原告の主張は理由がない。

4) 原告は、威霊仙を含む食品組成物に対する登録特許が多数存在するにもかかわらず、出願発明のみ特許法第32条の要件を満たせないとすることは不当である旨も主張する。しかし、特許庁はそれぞれの出願について特許法により定められた要件に適合するかを個別に審査して登録可否を決定するため、上記特許発明が登録されている事情のみにより出願発明について特許法第32条を適用して拒絶決定をしたことが違法であると言うことはできない。

専門家からのアドバイス

健康増進や疾病予防などの機能を有する組成物に関する発明の場合には、発明及び出願の段階において医薬に関する発明と機能性食品に関する発明のいずれに区分されるのかが明確でなく、その両方ともに発明として特許出願がされる場合もある。この場合、医薬組成物に関する発明であれば安全性に対して出願審査の段階で検討されないが、食品組成物に関する発明については本件のように食品に使用できない原料であるか否かが検討され、公衆の衛生を害するおそれがあると判断されれば出願が拒絶され得る。

参考例として、本件と類似の判決として、ナノ粒子を利用してキムチの流通期間を延ばし抗菌効果がある機能性キムチに関する発明が、食品に使用することができない原料である銀を含むことを理由として拒絶された事件がある(特許法院2016年7月8日言渡2016ホ229判決)。その他にも、食品医薬品安全処において規定した有害食品を含むことを理由として健康機能食品に関する発明が拒絶決定に至った事例もある。

医薬に関する発明とは異なり食品に関する発明においては、その原料が有害であると知られているか否かについても出願前に事前に検討しておく必要があると言える。

ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム

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