知財判例データベース 物品の機能を確保できる選択可能な代替形状が存在する場合、デザイン類似判断時に、その部分の重要度を低く評価することはできない

基本情報

区分
意匠
判断主体
大法院
当事者
原告 A社 vs 被告 個人B
事件番号
2016フ1710
言い渡し日
2020年09月30日
事件の経過
上告棄却(原審確定)

概要

大法院は、本件登録デザインである「貨物車両用工具箱」の類否判断において、単純に先行デザインとの共通した形状が機能と関連する部分であるとか、または装着後に視認できない部分であるという理由だけでデザイン類似判断時にその重要度を低く評価することはできず、該当部分までを含んで全体として観察して感じられる審美感によりデザインの類否を判断しなければならないとし、さらに両デザインの共通する部分は従来の貨物車両用工具箱デザインではありふれて見られるものではない斬新な形状であり、物品全体の外観に占める割合が大きく、デザインの構造的特徴をよく表す部分であるため需要者の注意を引きやすい部分に該当すると判断した上で、本件登録デザインは先行デザインとは全体的にみたとき審美感が類似し類似のデザインに該当するため、その登録が無効にされるべきであると判断した。

事実関係

原告は、本件登録デザインは先行デザインと類似するためその登録が無効にされるべきと主張して登録無効審判を請求した。特許審判院は、本件登録デザインは先行デザインと形状が同一・類似でないだけでなく、先行デザインから簡単に創作できるデザインとは認められないため登録無効理由に該当するとはいえないと判断した。

これに対し原告は審決取消訴訟を提起したところ、特許法院は、本件登録デザインと先行デザインは支配的な特徴が同一・類似であり、全体的に観る者にとって類似の審美感を感じさせる類似デザインといえるため、本件登録デザインはその登録が無効にされるべきであると判断した。 本件登録デザインと先行デザインの概要は、下表のとおりである。

本件登録デザインと先行デザイン

判決内容

1. 関連法理

デザインの類否は、これを構成する各要素を分離して個別的に対比するのではなく、その外観を全体的に対比観察して、観る者にとって相違する審美感を感じさせるか否かにより判断すべきであり、その支配的な特徴が類似であれば、細部が多少相違していても類似とみるべきである。この場合、デザインが表現された物品の使用時だけでなく取引時の外観による審美感も併せて考慮しなければならない。

一方、両デザインの共通する部分が物品の機能を確保するのにおいて不可欠な形状である場合にはその重要度を低く評価しなければならないため、このような部分が類似するという事情だけをもって直ちに両デザインが互いに類似であるということはできない。しかし物品の機能を確保できる選択可能な代替形状が存在するときは物品の機能を確保するのにおいて不可欠な形状ではないため、この場合は単純に機能に関連した形状であるという理由だけをもって、デザインの類否判断においてその重要度を低く評価してはならない。

2. 本件登録デザインが先行デザインと類似のデザインであるか否か

イ.両デザインは①本体部の左側上部の角に直方体形状の切開溝が形成され、②前面に形成された長方形の開閉扉は左側上部が45°の角度に切り取られており、③開閉扉の上部に位置する本体の上段右側に長い傾斜面が形成され、④本体部の右側面後方中央に半球形状の凹入溝が傾斜するように形成され、⑤本体の背面右側に中間部位まで下向きの傾斜面が形成され、⑥本体の背面中央に垂直の凹入溝が形成されているという点で共通する。

ロ.両デザインの共通する部分は、貨物車両用工具箱の機能を確保するにおいて不可欠な形状とは認めがたい(注1)。また、貨物車両用工具箱の取引時、需要者は上記のような共通する部分の特徴を含んだ物品全体の外観による審美感を考慮して物品を取引きするものとみられる。
したがって、単純に両デザインの共通する形状が機能に関連した部分であり、または装着後に見えない部分であるという理由だけをもってデザイン類否判断時にその重要度を低く評価することはできず、その部分までを含んで全体として観察して感じられる審美感によりデザインの類否を判断しなければならない。

ハ.ところで、両デザインの共通する部分は従来の貨物車両用工具箱のデザインではありふれて見られるものではない斬新な形状であり、物品全体の外観に占める割合が大きく、デザインの構造的特徴をよく表す部分であるので、需要者の注意を引きやすい部分に該当する。一方、両デザインは、本体部および開閉扉の部分に陽刻または陰刻で形成された模様の位置および形などに一部相違点があるものの、このような相違点が両デザインの支配的特徴の類似性を相殺し審美感を異ならせるほどであるとは認めがたい。

ニ.したがって、本件登録デザインと先行デザインは全体的に見るとき審美感が類似し互いに類似のデザインに該当するため、本件登録デザインはその登録が無効にされるべきである。

専門家からのアドバイス

物品のデザインにおいて物品の機能に関連する形状が含まれる場合、その部分はその物品の機能を確保するために似た形状になりやすい。そうした場合であっても、物品の機能を確保することができる選択可能な代替形状が存在するときは物品の機能を確保するのにおいて不可欠な形状とはいえないため、単純に機能と関連する形状であるという理由だけをもってデザインの類否判断時にその重要度を低く評価してはならないというのが、これまで判例により確立された法理である。

今回の大法院判決では、物品の機能に関連する形状部分について上記の法理を再確認するとともに、物品の設置がされた後に見えなくなる部分についても、デザインの類似判断時に画一的にその重要度を低く評価することはできないものとしている。その一方で、本判決は、需要者の注意を引きやすい部分に該当するか否かを判断するのにおいて、①両デザインの共通する部分が従来ありふれて見られるものではない斬新な形状に該当するか、②物品全体の外観に占める割合がどの程度か、③デザインの構造的特徴をよく表す部分に該当するか、といった判断を具体的に提示している点が有意味であって、本判決は韓国におけるデザインの類似判断を示す具体的事例として参考にできる。

ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム

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