知財判例データベース 共同開発契約に違反して一方が特許登録して実施した場合にも、契約内容上、損害賠償請求等が成立しないとされた事例

基本情報

区分
特許
判断主体
特許法院
当事者
原告 A社 vs 被告C社及び代表理事D
事件番号
2018ナ1886損害賠償(知)
言い渡し日
2020年02月06日
事件の経過
確定日確認不可

概要

原告(A社)と被告C社の共同開発契約に違反して被告C社が単独で特許登録を受けて実施し、これについて原告は被告らに対して不法行為による損害賠償請求、共同開発契約による利益分配請求、不当利得返還請求、又は、通常実施料相当の損害賠償若しくは不当利得返還請求を選択的に主張した。特許法院は、契約内容上、被告C社の実施を制限する規定がなく、利益分配約定もないという理由でこれらの請求を全て棄却した。

事実関係

原告は、運搬産業設備、熱使用機資材などの製作及び販売業を営む会社であり、被告C社は、畜産機器の製造及び販売、畜産糞尿処理関連業務を営む会社である。原告と被告C社は、畜糞専用ボイラーを共同の費用で開発し、原告は今後3年間開発されたボイラーを量産して被告C社に納品するという内容の共同開発契約(「本件契約」)を2009年2月12日に締結した。原告は2009年4月頃、畜糞専用ボイラーの開発を完了し、6台のボイラー完製品を被告C社に納品した。被告Dは被告C社の単独名義で3度の出願を行ったところ、第1出願は進歩性の欠如により特許拒絶決定を受け、第2出願及び第3出願は特許登録を受けた。一方、原告の代表理事Bは、本件契約によって原告が開発した技術を原告と被告C社の共同名義で出願する任務に違反したという理由で被告C社の代表理事であるDを背任などの疑いで告訴し、被告Dは背任未遂及び背任の疑いで有罪判決を受けて当該判決は確定した。また、Bは、第3出願の特許発明について、特許を受けることができる権利が共有の場合には、共有者の全員が共同して特許出願しなければならないとする特許法第44条に違反することを理由として無効審判を請求したところ、これに対する特許審判院の無効審決が大法院の上告棄却により確定した。

上記のような事実関係に基づいて、原告は被告らに不法行為による損害賠償請求、本件契約による利益分配請求、不当利得返還請求を選択的に請求したが、1審判決は原告の請求を全て棄却した。1審判決に対して原告は控訴し、上記3つの請求に通常実施料相当の損害賠償若しくは不当利得返還請求を追加した。

判決内容

特許法院は、1審判決で判断された3つの請求に対しては1審判決をそのまま認容して支持し、また、控訴審で追加された通常実施料相当の損害賠償若しくは不当利得返還請求に関する原告の請求を棄却する判断をした。各請求に関する具体的な判断は次のとおりである。

イ.不法行為による損害賠償請求に対する判断

被告Dが特許発明を被告C社単独名義で出願して登録を受けた行為は、原告の被告C社と共同で特許を受けることができる権利を侵害する行為として、原告に対する背任の不法行為に該当する。
一方、原告は、特許発明が原告と被告C社の共同名義で登録されていた場合、原告は被告C社の特許発明に関連して発生した営業利益を分配されたはずなので、原告の損害は被告C社の特許発明による営業利益として推定される金員に原告の寄与度50%を反映させた金員として算定されると主張している。しかし、被告Dの不法行為と原告により主張された損害間の相当因果関係があるとはいい難い。その理由としては、特許権が共有の場合でも契約により特定した場合を除いては他の共有者の同意を受けずに特許発明を実施できるところ(特許法第98条第3項)、本件契約に被告C社が原告とボイラーの販売などによる利益を特許権持分に応じて配分するように約定する等の内容が現れていないことから、たとえ特許発明が共同名義で登録されたとしても被告C社は特許発明を独自に実施して利潤が得られるという点、および、信義誠実の原則に照らして原告において特許発明の実施を阻止することが許容されると見るのは困難であって、原告は被告C社にボイラーを納品することによって特許発明の実施による利益を得ることができたので、被告C社が特許発明を単独名義で登録を受けたからいって原告における特許発明に基づいた営業利益の創出機会を剥奪したとか侵害したものと断定することはできないという点を挙げることができる。

ロ.契約による利益分配請求に対する判断

本件契約には被告C社がボイラーを販売することによって得た利益を原告と直接分けるようにする内容を置いておらず、原告と被告C社が契約の締結過程でボイラーによる被告C社の利益を分配することに合意した事情は確認されない。従って、本件契約はボイラーなどを販売することによって得た利益の一部を原告に支払う義務を負わせていると解釈することはできないので、契約上、被告C社に利益分配義務があることを前提とする原告の請求は理由がない。

ハ.不当利得返還請求に対する判断

不当利得が成立するためには、利得の取得とそれによる他人の損害発生以外にも、このような利益の取得を正当化することができるような法律上の原因が欠如していることが必要とされる。ところが、①特許発明が原告と被告C社の共同名義で登録されたとしても、被告C社は依然として特許発明を実施することによって利潤が得られる点、②特許登録が無効になっても、被告C社は特許発明を独占的に実施できなくなるだけで、原告の許諾なしに実施することができなくなるわけではない点、③契約内容によると、ボイラーの開発過程で発生する知的財産に関する権利は被告C社にも共同で帰属することから、被告C社は被告Dの不法行為と無関係に特許発明を実施できたという点に照らして、被告C社が特許発明を実施することによって得た利益の相当額に何らの法律上の原因がないとはいえない。従って、原告の請求は理由がない。

ニ.通常実施料相当の損害賠償若しくは不当利得返還請求に対する判断

原告は、原告が共有特許権者となっていたとすれば、被告C社は原告の許諾なしでは特許発明を実施できなくなり、その場合、被告C社は原告から通常実施権の付与を受ける形で実施せざるを得ないはずであるので、特許法第128条第7項(損害額の立証が困難な場合、弁論全体の趣旨と証拠調べの結果に基づいて相当な損害額を認定)を類推適用して原告に特許発明の実施による通常実施料相当の金額を支払う義務があると主張している。
原告の主張は、特許権が共同名義で登録された場合、共有特許権者の一方は他方の同意なしでは特許発明を業として実施できないということを前提とする。しかし、特許権が共有の場合には、各共有者は契約により特に約定した場合を除いては他の共有者の同意を受けずにその特許発明を自らが実施できるところ(特許法第99条第3項)、本件契約は被告C社が特許発明を実施するのを制限するための内容が含まれたものと解釈することはできず、他にこのような約定が締結されたことを認める何らの資料もないので、被告C社は単独で本件特許発明を業として実施できるものといえる。従って、原告の請求は理由がない。

専門家からのアドバイス

本件は共同開発契約を結んだ一方の契約当事者のみが特許登録をしていた事例であったのだが、もし契約に基づいて両当事者が共同で特許権を取得していたのであれば、韓国の特許法では、共有特許権に対し、契約で特別に約定した場合を除き、各共有者は他の共有者の同意なしに共有特許発明を実施できるものとされている(特許法第99条第3項)。

これについて本件では、共同開発契約において各契約当事者が共有特許発明を実施することを制限する約定を別途に置いていなかったため、契約上、共有特許発明について原告の同意がなくとも被告C社は単独で特許発明の実施をすることが可能であると解釈されている。こうした解釈を主な根拠として、本件では被告の不法行為と原告の損害との間に相当の因果関係を認めなかったため、不法行為による損害賠償請求は認められなかった。さらに本件では、被告C社の利益に法律上の原因が認められるということを根拠として不当利得返還請求についても認められず、また、その他の原告による各請求についても認められることはなかった。

今回の判決は、共同開発契約に違反した場合に法的責任があるか否かが問われたものではなく、各共有者(すなわち被告)は他の共有者(すなわち原告)の同意なしに共有特許発明を実施できるという点に基づいて、被告の行為による損害賠償や不当利得についての法的判断が明確に示されたという点が参考になろう。こうした本判決の内容も考慮した上で、共同開発の契約締結の際には、実施制限の約定や利益分配の約定などを設ける必要がないかについて綿密に検討する必要があるといえよう。

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