知財判例データベース 確定した審決後に請求された無効審判事件で新たに提出した証拠が確定審決を覆すだけの有力な証拠であると認めることができない場合は、一事不再理の原則に違背する

基本情報

区分
特許
判断主体
大法院
当事者
原告、上告人(審判請求人) vs 被告、被上告人(特許権者)
事件番号
2019フ10975登録無効(特)
言い渡し日
2020年05月14日
事件の経過
上告棄却(確定)

概要

確定した審決後に請求された無効審判事件で新たに提出された証拠が確定した審決を覆すだけの有力な証拠であると認めることができないという理由で一事不再理の原則に違背するとした審決の判断に対し、特許法院は実体的な審理(発明の進歩性の判断)をした上で審決と同一の結論を下し、大法院でも(原審の判断理由説示に一部不適切な部分があると指摘しつつも)審決と同一の結論を維持した。

事実関係

被告の特許発明は「仮想ゴルフシミュレーション装置」に関し、スクリーンに映るシミュレーション映像でゴルフショットがなされる地形(フェアウェイまたはラフ)別に予め設定された飛距離減少率に対して、実際に使用者の打撃がなされる打撃マット上の領域(フェアウェイまたはラフ)別に予め設定された補正値を適用し、シミュレーション結果の精度を向上させるようにしたものである。

本件無効審判が請求される前に訴外G社が無効審判を請求したが、棄却されて審決が確定した(以下「確定審決」)。

審決が確定した後に、原告は、確定審決で提出されていない証拠を新たに提出しながら本件無効審判を請求した。原告が提出した先行発明1は特許文献であり、先行発明2は訴外H社のゴルフシミュレーション装置に関するユーチューブ動画である。

特許審判院は、先行発明1と先行発明2を結合したとしても本件特許発明を導き出すことは容易でないと判断するとした上で、「確定審決で提出された証拠以外に新たに提出された証拠(先行発明1、2)があるとしても確定審決を覆すだけの有力な証拠であると認めることができないため、本件無効審判請求は一事不再理の原則に違背して不適法であって審判請求を却下する」という却下審決を下した。

これに対して原告は審決取消訴訟を提起し、本件無効審判で提出された先行発明は確定審決で提出された先行発明といずれも異なるため本件無効審判請求は一事不再理の原則に違背せず、本件特許発明は先行発明1と先行発明2の結合により進歩性が否定されると主張した。一方、被告は、本件無効審判請求で提出された先行発明は確定審決で提出された先行発明と形式的にだけ異なり、内容においては実質的に同一の証拠に基づいたものであるので、一事不再理の原則に違背すると主張した。また、被告は先行発明2であるユーチューブ動画について、その掲示の時点を信頼することが困難なため先行発明としての資格がないと主張した。

これに対し、原審判決の判断は以下のとおりであった。

 先行発明2(ユーチューブ動画)は、先行技術としての地位が認められるか否か
先行発明2は、2009年7月26日、ウェブサイトユーチューブ(http://www.youtube.com)に掲示された動画であるが、ユーチューブに一旦動画をアップロードした後、動画の一部を削除したり色相を修正したりする等の編集をすることはできるが、動画自体を交替させる場合には新たなURLが付与されるため、既存のURL及び掲示日の変更なしに動画を交替させることはできない。また、ユーチューブに掲示された動画は、通常、誰でも容易に当該サイトに接続し、その内容を確認することができるように公開されているので、先行発明2の場合、その内容が株式会社Eのゴルフシミュレーション装置を広報するものであって、会社の製品を案内または広報する内容であるという点を考慮すると、これらは最初のアップロード当時から一般人がアクセスし、その内容を確認することができるように公開状態で設定されていたと見ることが合理的である。実際に先行発明2の場合、照会数が4,972回に至っている。結局、先行発明2はユーチューブに最初にアップロードしたときから一般人が自由にアクセスし、その内容を確認することができるように公知となっていたものであって、本件特許発明の出願前に公知となっていたと見るべきである。

 先行発明1, 2の結合により進歩性が否定されるか否か
本件特許の請求項1は、通常の技術者が先行発明1に先行発明2を結合するとしても容易に導き出すことができないので、先行発明1、2によってその進歩性が否定されない。

 一事不再理の原則に違背するか否か
本件特許発明のうち請求項1~4、6~9は先行発明によってその進歩性が否定されないところ、これを前提として本件審判請求が一事不再理の原則に違背すると判断した本件審決には原告の主張のような違法事由が存在せず、その取消しを求める原告の請求は理由がない。

これに対して原告が上告を提起した。

判決内容

原審は、本件第1~4、6~9項の発明は、その技術分野で通常の知識を有する者が先行発明1、2の結合などによって容易に導き出すことできるとは認められず進歩性が否定されないと判断し、これを前提として本件審判請求が一事不再理の原則に違背すると判断した。

原審の判決理由を関連法理と記録に照らして詳察すると、原審の理由説示に一部不適切な部分があるものの、原審の判断には、上告理由の主張のように進歩性の判断に関する法理を誤解するとか必要な審理を尽くさないなどにより判決に影響を及ぼした誤りがない。

専門家からのアドバイス

韓国の大法院は、過去の判決において、確定した審決に対して同一の事実及び同一の証拠に基づいて再び審判を請求することを禁止する、いわゆる一事不再理の原則を規定した特許法第163条について、「同一の証拠」とは既に確定した審決の証拠と同一の証拠だけでなく、その確定した審決を覆すことができる程度に有力でない証拠が付加されることも含むと判示している(大法院2000.10.27.言渡2000フ1412判決)。

これに関連し、本件の原審において特許法院は、被告が提出した先行発明が確定審決で提出された先行発明と異なっていても確定審決(進歩性肯定)を覆すだけの有力な証拠であると認めることができないとの理由で一事不再理の原則に違背すると判断しており、大法院も、原審の理由説示について結論としては違法でないとの判断をしている。このような一事不再理の原則に違背するかの判断には、確定した審決後に新たに提出された証拠が確定審決を覆すことができる程度に有力か否かについての審理が必要となることから、結局のところ、その審理は実体的な審理とならざるを得ない側面がある。 なお、本件では、ユーチューブ動画に先行技術としての地位が認められるか否かについても争点の1つであった。この争点について原審判決で考慮された事実関係は、インターネット上の動画等を先行技術とする場合の取り扱いについて、実務上、参考になるであろう。

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