知財判例データベース 特許発明の構成要素の一部を省略して他の構成を付加した確認対象発明 に対し、特許発明との利用関係を否定した事例

基本情報

区分
特許
判断主体
特許法院
当事者
原告(特許権者、審判請求人) vs 被告(確認対象発明の実施者)
事件番号
2019ホ6785権利範囲確認(特)
言い渡し日
2020年07月03日
事件の経過
請求棄却、確定

概要

先の特許発明と後発明(本件の確認対象発明(注1))が利用関係にある場合には、後発明は先の特許発明の権利範囲に属するようになる。ここで利用関係にある場合というのは、後発明が先の特許発明の要旨を全て含んでこれをそのまま利用し、後発明内で先の特許発明が発明としての一体性を維持する場合をいい、これは先の特許発明と同一の発明だけでなく均等な発明を利用する場合も同様である。

事実関係

原告は、被告が実施する確認対象発明が原告特許の請求項1の発明(以下「特許発明」)の権利範囲に属するという確認を求める積極的権利範囲確認審判を請求した。原告の特許発明は「クリーンルーム用ヒンジ」に関するもので、ヒンジ軸(10)と結合する固定ブラケット(20)および回転ブラケット(30)にそれぞれ複数の磁石(41,42,43)を備え、磁石によりヒンジ作動時の摩擦の軽減及び金属粉塵の吸着を図る発明である。請求項1には「上記複数の磁石のうち少なくとも1つ以上を収容した状態で上記ヒンジ軸(10)と結合する固定ブラケット(20)と;上記複数の磁石のうち少なくとも1つ以上の磁石とベアリング(51,52)を収容した状態で回転可能に上記ヒンジ軸(10)と結合する回転ブラケット(30)と」という構成が記載されている。

被告が実施する確認対象発明は、固定ブラケット(10)には磁石(51,52)が備えられているが、回転ブラケット(20)には磁石が備えられておらず、ヒンジ作動時の摩擦軽減のためにヒンジ軸に段部を備えた構成が付加されている。

特許発明と確認対象発明

原告は、確認対象発明において固定ブラケットにのみ磁石が備えられて回転ブラケットには磁石が備えられていないとしても、磁石の作用により金属粉塵を吸着するという点で特許発明と課題解決原理及び作用効果が同一であるため、確認対象発明は特許発明と均等な構成を利用した利用関係にあるので、特許発明の権利範囲に属すると主張した。

判決内容

後出願により登録された発明を確認対象発明として、先出願による登録発明の権利範囲に属するという確認を求める積極的権利範囲確認審判は、後登録された権利に対する無効審判の確定前にその権利の効力を否定する結果になるので、原則的に許容されない。ただし、例外的に両発明が特許法第98条で規定する利用関係にあり、確認対象発明の登録の効力を否定せずに権利範囲の確認を求めることができる場合には、権利対権利間の積極的権利範囲確認審判の請求が許容される(大法院2002年6月28日言渡99フ2433判決、大法院2016年4月28日言渡2015フ161判決参照)。

一方、先の特許発明と後発明が利用関係にある場合には、後発明は先の特許発明の権利範囲に属するようになる。ここで両発明が利用関係にある場合というのは、後発明が先の特許発明の技術的構成に新たな技術的要素を付加するものであって、後発明が先の特許発明の要旨を全て含んでこれをそのまま利用し、後発明内で先の特許発明が発明としての一体性を維持する場合をいい、これは先の特許発明と同一の発明だけでなく均等な発明を利用する場合も同様である(大法院2001年8月21日言渡98フ522判決、大法院2016年4月28日言渡2015フ161判決参照)。

原告の特許発明は、回転ブラケットが複数の磁石のうち少なくとも1つ以上の磁石を収容する構成であるのに対し、確認対象発明は、回転ブラケットがベアリングのみ収容するだけで磁石を収容しない点で差がある。これについて、原告は、固定ブラケットと回転ブラケットにいずれも磁石を配置するか、確認対象発明のように固定ブラケットにのみ複数の磁石を配置するかは当業者が容易に変更乃至置換できる単純な設計変更に該当するので、特許発明と確認対象発明は実質的に同一であるという旨の主張をしている。

しかし、請求項1の記載から特許発明は、回転ブラケットに必須として磁石が収容乃至配置されることを前提とする構成であって、原告の主張のように「固定ブラケットにのみ複数の磁石を配置する構成」も含むものと解釈することはできない。従って、特許発明と確認対象発明の対応する構成は文言的に同一ではない。

一方、特許発明と確認対象発明が均等な構成要素を有するというためには、特許発明に該当する構成要素の置換乃至変更がなければならないが、確認対象発明には「回転ブラケットが複数の磁石のうち少なくとも1つ以上の磁石を収容する構成」が欠如しているので、確認対象発明は特許発明と均等関係にあるといえない。仮に原告の主張のように特許発明の「固定ブラケットと回転ブラケットにいずれも磁石を配置する」構成を確認対象発明において「固定ブラケットにのみ複数の磁石を配置する」構成に置換したものと見なしても、下記のとおり、確認対象発明と特許発明は課題の解決原理が相違するので、均等関係にあるといえない。

- 特許発明の明細書の記載と出願当時の公知技術及び出願過程で提出した意見書及び補正書等を参酌してみると、特許発明に特有の解決手段が根拠としている技術思想の核心は、「複数の磁石を固定ブラケット、回転ブラケットそれぞれに配置してヒンジ軸、固定ブラケット、回転ブラケットの相互間の摩擦により発生する金属性粉塵を吸着する」ことにある。

- ところが、前述のとおり確認対象発明は磁石の配置に関連して回転ブラケットには磁石が全く配置されず、複数(2つ)の磁石がヒンジ軸の軸方向を基準に向かい合う固定ブラケットの内側にのみ配置される構成を採択している点に照らしてみれば、確認対象発明には複数の磁石を固定ブラケット、回転ブラケットそれぞれに配置してヒンジ軸、固定ブラケット、回転ブラケットの相互間の摩擦により発生する金属性粉塵を吸着するようにする特許発明の技術思想の核心が含まれているといえない。

- 従って、確認対象発明と特許発明は各々特有の解決手段が根拠とする技術思想の核心が異なるので、課題の解決原理が異なる。

従って、特許発明の構成要素の一部が欠如しているか、または均等でない要素に置換された確認対象発明は、特許発明と利用関係にあるといえない。

専門家からのアドバイス

本件では上述のとおり特許発明と後発明(確認対象発明)の利用関係について争われ、様々な争点を含んでいたのだが、その中で最大の争点は特許の請求項に記載された構成のうち一部を備えていない確認対象発明(いわゆる省略発明)に対して均等侵害が認められるか否かであった。こうした省略発明に対して均等侵害が認められた過去の事例は見当たらず、本件でも均等侵害は認められなかった。そこで本件で原告は、確認対象発明が特許発明の構成の一部を備えていないのでなく他の構成に置換したものであるという論理を用いたのだが、法院はこうした主張を受け入れなかった。

 侵害判断での構成要素完備の原則(オールエレメントルール)に従い、省略発明に対しては、文言侵害が認められることは難しく、特別な事情がない限り、均等侵害が認められることも難しいであろう。こうした場合、特許権者は、第三者の行為を特許権侵害とすることは困難となる。

特許権者としては、特許出願の段階から、第三者による省略発明のような将来の回避設計があることを見据えて、明細書に豊富な実施例を記載することが重要であり、その他にも、請求項にどのような構成を必須構成として記載するかについても慎重に決定する必要があるといえよう。

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