知財判例データベース 広く知られたブランドバッグと同じ形態のバッグに自らが創作した図案を付して販売する行為が、成果物盗用による不正競争行為に該当すると判断された事例

基本情報

区分
不正競争
判断主体
大法院
当事者
原告 A社、B社 vs 被告 個人C、D
事件番号
2017ダ217847
言い渡し日
2020年07月09日
事件の経過
ソウル高等法院2020ナ2021747(和解勧告決定)2020年9月3日確定

概要

大法院は、原告らのケリーバッグ(Kelly Bag)とバーキンバッグ(Birkin Bag)の形態(以下「本件商品標識」という)は、国内で継続的・独占的・排他的に使用された結果、一般需要者の間で特定の商品出所としての識別力を備えるに至ったため法律上保護する価値がある利益に該当すると評価した上で、被告らの製品が需要者から人気を博したのは本件商品標識と類似の特徴が相当に寄与したと認められ、被告らが製品を国内で継続して生産・販売する場合、潜在的需要者が原告製品の購買を諦める可能性が高まるという点で、原告らの経済的利益を侵害すると認めることができるとし、本件商品標識と同じ形態のバッグに自らが創作した図案を付して販売する被告らの行為は旧不正競争防止法第2条第1号(ヌ)目の成果物盗用による不正競争行為に該当すると判断した。

事実関係

本件で第一審法院(ソウル中央地方法院)は、被告らの行為は商品主体混同行為、識別力・名声毀損行為には該当しないものの、成果物盗用不正競争行為に該当すると判断し原告らの請求を認容した。

これに対し、控訴審法院(ソウル高等法院)は、被告製品の創作性と独創性および文化的価値などを総合的に考慮すると、被告らが原告らの製品形態の認知度にフリーライドする意図を有していたとは断定しがたいため成果物盗用不正競争行為に該当しないとして原告らの請求を認めなかった。

なお、本件原告のバッグイメージと被告のバッグイメージは、下記のとおりである。

原告バッグイメージと被告バッグイメージ

判決内容

1.関連法理

旧不正競争防止法第2条第1号(ヌ)目(注1) (以下「(ヌ)目」という)は、その保護対象である「成果等」の類型に制限を設けていないため、有形物だけでなく無形物もこれに含まれて、従来、知的財産権法による保護が困難であった新しい形態の結果物も含まれることが許容される。「成果等」を判断するときは、上記のような結果物が有するに至った名声や経済的価値、結果物に化体された顧客吸引力、当該事業分野において結果物が占める割合と競争力などを総合的に考慮しなければならない。このような成果等が「相当な投資または労力により作成された」ものであるかは、権利者が投じた投資や労力の内容と程度を、その成果等が属する産業分野の慣行や実態に照らして具体的・個別的に判断しなければならず、加えて、成果等を無断で使用することによって侵害された経済的利益が何人でも自由に利用できるいわゆる公共領域(public domain)に属しないと評価することができるものでなければならない。

さらに、(ヌ)目が定める「公正な商取引慣行または競争秩序に反する方法により自身の営業のために無断で使用」するケースに該当するためには、権利者と侵害者が競争関係にある、または近い将来競争関係におかれる可能性があるか、権利者が主張する成果等が含まれた産業分野の商取引慣行または競争秩序の内容とその内容が公正であるか、上記のような成果等が侵害者の商品またはサービスにより市場で代替されることができるか、需要者や取引者に成果等がどの程度知られているか、需要者や取引者の混同可能性があるかなどを総合的に考慮しなければならない。

2.具体的判断

イ.原審が適法に採択した証拠によれば、次のような事情が認められる。

#ケリーバッグは1950年代、バーキンバッグは1980年代頃から世界的に広く知られるようになり、現在まで本件商品標識のとおりの独特なデザインを維持してきている。 #ケリーバッグおよびバーキンバッグは原告のフランス現地工場で熟練した職人によって少量生産され品質を維持してきており、その韓国国内消費者価格は1000万ウォン以上で、高級ブランドハンドバッグのなかでも最高額に属する。原告は全世界約200か所の直営店とその他の販売網を通じてケリーバッグおよびバーキンバッグを含む原告製品を販売しているが、高価格にもかかわらず国内でケリーバッグおよびバーキンバッグを購入するためには長い間待たなければならない状況である。 #原告は国内の主要ファッション雑誌にケリーバッグおよびバーキンバッグを含む原告の各種製品の広告を出し、2007年から2015年までの原告の国内広告費支出額は約128億ウォン、原告の国内売上額は約3,122億ウォンである。 #本件商品標識は、国内で継続的・独占的・排他的に使用されてきたことにより、前面部と側面部の形状、持ち手とハンドバッグ本体のふた(フラップ)の形状、ベルト状の革ひもとリング状の固定具などが組み合わされた差別的特徴により一般需要者の間で特定の商品出所としての識別力を備えるに至ったため、公共領域(public domain)に属するものと認めがたく、「法律上保護する価値がある利益」に該当すると評価することができる。 #原告製品と被告製品は材質、価格および主な顧客層などに違いがあるが、原告製品のうち一部のモデルは被告製品の模様と類似し、全体的・離隔的に観察すると類似して見え、被告製品を本件図案が付されていない後面および側面から観察するときは原告製品と区別が容易でない。被告製品が需要者から人気を博したのは、本件商品標識と類似する特徴が相当に寄与したとみられる。 # 原告らはケリーバッグおよびバーキンバッグの供給量を制限してきたが、これと類似する形態の被告製品が販売されることにより、次第に本件商品標識の希少性を維持するのに障害要素になる可能性がある。また、被告らが原告らと同種商品である被告製品を国内で継続して生産・販売することになれば、原告製品に対する一部の需要を代替し、または原告製品の希少性および価値の低下により潜在的需要者が原告製品の購買を諦める可能性が高まるという点で、原告の経済的利益を侵害するということができる。 # 被告らが使用したキャッチコピー「Fake for Fun」をみても、本件商品標識と類似の形状を用いて本件商品標識の周知性と認知度にフリーライドしようとする被告の意図を窺い知ることができる。他人の同意なく、需要者に広く知られた他人の商品標識に自らが創作した図案を付して商業的に販売する行為が公正な競争秩序に合致する行為であるとはいいがたい。 #被告らは衣類・人形製造業者または化粧品・バッグブランドとの提携や協業等を通じて本件図案と被告らの「プレイノーモア(PLAY NO MORE)」というブランドを使用した製品を広く広報し販売してきた。外国の有名ブランドであるGUCCI、LOUIS VUITTON、PRADA、COACHなども他ブランドとの提携や協業を通して提携業者の商標や商品標識、ブランドなどを結合した多様な製品を販売しているが、このようにハンドバッグをはじめとするファッション雑貨分野において需要者に広く知られた他人の商品標識を使用するためには、契約等を通じて提携や協業をすることが公正な商取引慣行に合致するといえる。

ロ.以上のような事情を、先に詳察した法理に照らしてみると、被告らが本件商品標識を無断で使用する行為は原告らが相当な投資または労力により作成した成果等を公正な商取引慣行または競争秩序に反する方法により自身の営業のために無断で使用することにより他人の経済的利益を侵害する行為ということができる。

ハ.それにもかかわらず、原審は、本件商品標識は「原告の相当な投資または労力により作成された成果」に該当するが、被告らによる被告製品の製作・販売行為は公正な取引秩序および自由な競争秩序に照らして正当化されることができない「特別な事情」があるとは認められないという理由で、(ヌ)目に該当しない旨の判断をした。この部分の原審の判断には(ヌ)目が規定する不正競争行為に対する法理を誤解して判決に影響を及ぼした誤りがある。

専門家からのアドバイス

旧不正競争防止法第2条第1号(ヌ)目は、不正競争防止法の一般条項と言われ、現行では不正競争防止法第2条第1号(ル)目がこれに該当する。

本件の原審では、被告らの行為が(ヌ)目に該当するかについて、本件商品標識は原告の相当な投資または労力により作成された成果に該当するとしながらも、被告らによる被告製品の製作・販売行為が「公正な取引秩序および自由な競争秩序に照らして正当化されることができない特別な事情」があるとは認められないとして、原告の請求を排斥している。

最近の不正競争防止法の一般条項に関する判決としては、大法院2020年3月26日言渡し2016ダ276467判決(注2) も出ているが、こうした判決が出る前、下級審判決の判断においては一般条項について具体的かつ一貫した判断基準を見出しがたいという意見も提起されていた。本件の原審でも、特許法院の判決は不正競争防止法の一般条項の適用のために上記の「特別な事情」を要求するものであって、それは結局、不正競争防止法の一般条項を消極的に適用する傾向のものだったといえる。

これに対して、今回の大法院判決は、上述したような、2016ダ276467判決と同一の法理を提示した上で、被告が契約等による提携や協業をしていない状態において無断で需要者に広く知られたブランドのバッグ形態をそのまま活用した行為はファッション雑貨分野の公正な商取引慣行および公正な競争秩序に合致せず、他人の経済的利益を侵害する行為に該当すると判断した。つまり本大法院判決からは、不正競争防止法の一般条項を適用するのにおいて、上記の「特別な事情」のような要件を課すものでないという点が確認される。

本判決を含め、不正競争防止法の一般条項に関する最近の一連の大法院判決は、大法院が当該一般条項に対していかなる立場を取っているかについて、および、その条項の適用要件について明確に示したものと言えよう。本判決の影響を受けて、これまで知的財産権法による保護が難しかった新しい形態の成果物に関する紛争事例が今後増加していくものと予想される。こうした状況を踏まえ、権利者としては不正競争防止法の一般条項の適用可能性について積極的に検討して自らの権利を守る必要がある一方、その競業者らは自身の行為が他人の成果物を模倣・活用するものとして当該条項に該当するリスクはないのかについて念入りに確認すべきといえよう。

ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム

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