知財判例データベース 登録特許の公知時点は登録料の納付日ではなく特許登録原簿の生成により特許権の設定登録がされた時点であるとした事例

基本情報

区分
特許
判断主体
特許法院
当事者
原告 A社 vs 被告 特許庁長
事件番号
2019ホ4833拒絶決定(特)
言い渡し日
2020年02月14日
事件の経過
上告審理不続行棄却(確定)

概要

先行発明の登録料の納付時点とその特許登録原簿の生成時点との間に出願された出願発明において、当該先行発明が進歩性判断の基礎となる先行技術になり得るか否かが争点になった。特許法院は、当該先行発明の特許登録原簿に特許登録日として登録料の納付日が記載されていても、特許登録原簿が生成されることにより特許権の設定登録がされた時点で公知となったと認めるべきであるとしながら、当該先行発明は進歩性判断の基礎となる先行技術になり得ないと判断した。

事実関係

原告は、発明の名称を「ストレインゲージを使用した急発進防止システム及びその制御方法」とする発明について特許出願をしたが、特許庁において先行発明1~3により進歩性が否定されることを理由として特許拒絶決定を受け、これに対する不服を申し立てて請求した拒絶決定不服審判でも同一の理由で棄却審決を受けた。これに対して原告は、特許法院に審決取消訴訟を提起した。

先行発明1については、特許決定がされた後、その登録料納付情報が2016年8月16日14時00分47秒に特許庁の電算情報処理組織のファイルに記録された。その後、原告が出願発明を2016年8月16日15時40分54秒に特許出願し、先行発明1の特許登録原簿はその翌日の2016年8月17日17時05分51秒に生成されたが、特許登録原簿には特許登録日として登録料納付日の2016年8日16日が記載された。

原告は、先行発明1のように特許出願中の発明は、登録料の納付時ではなく登録原簿が生成された時に設定登録が完了し、設定登録が完了する時点までは特許庁の職員等に秘密維持義務が課されるため、出願発明の出願時以後に特許登録原簿が生成された先行発明1は、出願発明の進歩性を否定する先行技術と認めることはできないと主張した。

これに対して被告は、下記のような理由を提示しながら、登録料の納付情報が特許庁に到達した時点以後、先行発明1は公知となった状態にあったと言うことができるため、進歩性判断の先行技術となり得ると主張した。

1) 特許権は設定登録によって発生し(旧特許法第87条第1項)、特許権の設定登録を受けようとする者は設定登録を受けようとする日(設定登録日)から3年分の特許料を納付しなければならず(旧特許法第79条第1項)、これによる特許料を納付したとき、特許庁長は特許権を設定するための登録をしなければならないため(旧特許法第87条第2項第1号)、特許登録原簿が生成された日ではなく「設定登録を受けようとする日(設定登録日)」が「設定登録日」となる。

2) 特許又は審判に関する証明、書類の謄本又は抄本の交付、特許原簿及び書類の閲覧又は複写が必要な者は、特許庁長又は特許審判院長に申請することができ(旧特許法第216条第1項)、特許庁長は特許料が完納され、その納付情報が到達すれば職権により設定登録をしなければならないため、この場合、第三者等が出願番号や発明の名称等に関する情報に基づいて関連書類の閲覧や複写を申請したとき、これを制限する何らの理由もなく、閲覧・複写が許容される状態となる。

3) 特許制度は、発明の公開の対価として一定期間排他的な独占権を付与するものである点を勘案すると、特許権の効力が発生する時点(特許料の納付情報の到達時点)から一般公衆が当該特許を利用することができる状態に置かれるとすることが特許法の立法趣旨にも符合する。

判決内容

特許法院は、先行発明1は出願発明の出願以後に公知となった発明であって、進歩性判断の基礎となる先行技術になり得ないと判断した。

特許法院が説示した関連法理は、次の通りである。

旧特許法第28条第1項第1号は、産業上利用することができる発明であるとしても、その発明が特許出願前に国内において公知となり、又は公然実施された発明に該当する場合には特許を受けることができないと規定しており、ここで「公知となる」とは、必ずしも不特定多数の者に認識されている必要はないとしても、少なくとも不特定多数の者が認識できる状態に置かれていることを意味する(大法院2002年6月14日言渡2000フ1238判決等参照)。また、ここで「特許出願前」とは、特許出願日の概念ではなく特許出願の時・分・秒まで考慮した自然時の概念である。

具体的な検討に先立ち、特許法院は、設定登録前後の公知判断及び設定登録の意味について下記の通り整理した。

(1) 本件出願発明及び先行発明1の出願及び登録当時に施行されていた旧特許法第216条第1項は「特許又は審判に関する証明、書類の謄本又は抄本の交付、特許原簿及び書類の閲覧又は複写が必要な者は、特許庁長又は特許審判院長に申請することができる」とし、第2項は「特許庁長又は特許審判院長は、第1項の申請があっても、設定登録又は出願公開されていない特許出願に関する書類、その特許出願の第132条の3による特許拒絶決定に対する審判に関する書類及び公共の秩序又は善良の風俗に反し、又は公衆の衛生を害するおそれがあるものは、許可しないことができる」と規定しているに過ぎないため、旧特許法によって設定登録された特許は、特別な事情がない限り、第三者が申請によって閲覧・複写をすることができ、ただし設定登録されていない出願に関する書類等に対し、一定の場合、許可しないことができるため、設定登録日以後は公知となったと言うべきである(大法院2009年12月24日言渡2009ダ72056判決参照)。

(2) 特許権の設定登録とは、特許出願に対する審査官の特許決定後、特許料の納付又は免除時に特許庁長が職権により特許庁に備え置かれた特許原簿に所定の事項を記載する手続きを言う。

続いて、次のような理由により、特許権の設定登録を受けようとする者が特許料を納付したとき、特許庁長の特許権の設定登録手続の履行とは関係なしに直ちに特許権の設定登録がされたものとして特許が公知となったと言うことはできないと判断した。

① 旧特許法第87条第2項は「特許庁長は、特許権の設定登録を受けようとする者が旧特許法第79条第1項による特許料を納付したときは、特許権を設定するための登録をしなければならない」と規定し、また、旧特許権等の登録令第14条第1項第1号は「特許権の設定登録は、特許庁長が職権によりしなければならない」と規定しているに過ぎず、旧特許法等のどこにも、特許権の設定登録を受けようとする者が旧特許法第79条第1項による特許料を納付したとき、特許庁長の特許権の設定登録手続履行と関係なしに直ちに特許権が設定登録されたものと擬制する、又は特許料が納付されて特許庁長が特許権を設定するための登録をしなければならない時点が属する日を特許権の「設定登録日」と擬制するという規定はない。

② 旧特許法第81条の2において、特許料の一部を納付しなかった場合には特許庁長は特許料の補填を命じなければならないと規定し、これにより補填命令を受けた者がその補填命令を受けた日から1月以内に特許料を補填したときは、特許権を設定するための登録をしなければならないと規定している。これによると、特許権の設定登録を受けようとする者が特許料を納付したとき、旧特許法所定の特許料が完納されたか否かを事後的に確認し、特許料の完納がされたかどうかを判断する手続がどうしても必要である。従って、特許権の設定登録を受けようとする者が特許料を納付した時点又はその特許料納付情報が特許庁に到達する時点と、特許権の設定登録を受けようとする者が旧特許法第79条第1項所定の特許料を完納したことが最終的に確認されて特許庁長に特許権の設定登録の義務が発生する時点との間には、必然的に時間的間隔が発生せざるを得ないため、特許法等のどこにも、特許権の設定登録を受けようとする者が特許料を納付した時点で特許庁長の特許権の設定登録手続履行と関係なしに直ちに特許権が設定登録されたものと擬制する、又は特許料が納付されて特許庁長が特許権を設定するための登録をしなければならない時点が属する日を特許権の「設定登録日」と擬制する規定がない。

③ 特許権の設定登録を受けようとする者が旧特許法第79条第1項所定の特許料を納付したとしても、特許権の設定登録がされるまではその出願発明は公開されたものではなく、秘密状態を維持していなければならず、閲覧等が許容されないため、前述した通り旧特許法第216条も公衆に対する閲覧提供義務時期、閲覧・複写申請を許可しないことが可能な終期を「特許権の設定登録日」と明示的に規定している。

④ 被告は、特許料の納付情報が特許庁に到達した時点ではなく、特許登録原簿の生成時点を特許権の設定登録日とするようになれば、特許庁内部の行政遅延等によって特許登録原簿の生成が遅れる場合、特許権の効力発生が遅れて特許権者が被害を受けるようになる問題があるため、特許料が納付されて特許庁長が特許権を設定するための登録をしなければならない時点を特許権の「設定登録日」と言うべきである旨で主張しているが、被告が主張する事情だけでは、法律の規定もなしに、特許料が納付されて特許庁長が特許権を設定するための登録をする義務が発生する時点を「設定登録日」と擬制することはできない。

特許法院は、以上のような法理に基づき、先行発明1は、登録料の納付情報が特許庁に到達した日時である2016年8月16日14時00分47秒から、特許登録原簿が生成されることにより特許権の設定登録がされた2016年8月17日17時05分51秒までの間に、第三者の閲覧・複写がされたとする何らの資料もないことから、先行発明1は2016年8月17日17時05分51秒に公知となったと認めるべきであると判断した。

専門家からのアドバイス

本件では先行発明の公知時点が争われたが、この場合の先行発明とは、その出願と同時に審査請求がされ、その出願公開がされる1年6月になる前に登録決定を受け、その登録公告によりその発明の内容が初めて公開される場合がこれに該当する。この際、特許庁の行政手続の中で、出願人による登録料納付の時点と、特許庁による登録原簿の生成時点との間にはタイムラグが生じざるを得ないのであるが、現実の登録原簿には登録料納付日が登録日として記載されている。

本件で争点とされた先行発明は、出願中に第三者の閲覧・複写がなかったため、特許権の設定登録日以後に公知となったと言うべきであるところ、特許法院は、登録料納付の時点で特許庁長の特許権の設定登録手続の履行と関係なしに特許権が設定登録されたものと擬制する規定や、登録料納付の時点を設定登録日と擬制する規定が特許法等にない点を挙げながら、当該先行発明は、登録料納付の時点ではなく、登録原簿が生成されることにより特許権の設定登録がされた時点において公知となったと言うべきと判断した。

本件のような先行発明の公知時点が厳密に問われる事例が生じることは少ないと思われるものの、本件は登録公告が先行発明とされて公知時点が問題となった場合に参考となる先例といえよう。

ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム

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