知財判例データベース 特許請求の範囲の解釈において発明の説明と図面を参酌するとしても、それによって請求の範囲を制限または拡張して解釈することは許されないとした事例

基本情報

区分
特許
判断主体
大法院
当事者
原告、上告人(審判請求人) vs 被告、被上告人(特許権者)
事件番号
2018フ12202登録無効(特)
言い渡し日
2020年04月09日
事件の経過
破棄差戻し

概要

特許請求の範囲に記載されている事項は、発明の説明や図面などを参酌しなければその技術的な意味を正確に理解できないため、その文言の一般的な意味に基づきながらも発明の説明と図面などを参酌してその文言で表そうとする技術的意義を考察した上で、客観的・合理的に解釈すべきである。しかし、発明の説明と図面などを参酌するとしても、発明の説明や図面などの他の記載によって特許請求の範囲を制限または拡張して解釈することは許容されない。

事実関係

被告の特許発明は、移動通信端末のディスプレイ構造を変更する方法に関するもので、請求項1は「使用者からディスプレイ構造の変更命令の入力を受ける段階、予め格納された少なくとも1つのディスプレイ構造データを検索する段階、ディスプレイ構造データと対応するように通信機器の表示部に表示する段階、使用者から任意のディスプレイ構造データに対する選択命令の入力を受ける段階、選択命令に対応するディスプレイ構造データにより表示部の画面設定を変更する段階を含むことを特徴とするディスプレイ構造の変更方法」である。

原告が請求項1に対する無効主張の根拠として挙げた先行発明2は、TVのマルチ画面分割アイコンの表示方法に関するものである。本件特許の請求項1が移動通信端末のディスプレイ構造を変更するものであるのに対し、先行発明2はTVのマルチ画面分割の状態を変更する点で違いがあるが、画面の構造を変更する方法自体は両者で同一である。

無効判断の主な争点は、請求項1の「ディスプレイ構造」という用語の解釈であった。

原審判決の判断

請求項1の従属項である請求項2の記載と明細書の他の記載とを総合してみれば、請求項1に記載された「ディスプレイ構造」は、アプリケーションイメージ領域、アプリケーション名称領域、アプリケーションアイコン領域(以下「3つの領域」という)のうちいずれか1つ以上の領域を含みながらも、ディスプレイ画面を構成する要素の位置及び大きさなどが組み合わせられることによって決定されるディスプレイ画面の配置(layout)を示す用語として解釈されると判断することが相当である。

本件特許の請求項1は移動通信端末のディスプレイ構造を変更するものであるのに対し、先行発明2はTVのマルチ画面の分割状態を変更する点で差がある。

先行発明2の明細書の記載によると、先行発明2のTVのマルチ画面分割は画面を1つの主画面と複数の副画面に区分し、各分割された画面に各チャンネル映像を出力するもので、主画面と副画面にはTVチャンネル映像という同種のデータが表示されるといえる。

しかし、本件特許の請求項1の発明の移動通信端末のディスプレイ構造は、「アプリケーションイメージ領域、アプリケーション名称領域、アプリケーションアイコン領域の3つの領域のうちいずれか1つ以上の領域を含みながらも、ディスプレイ画面を構成する他の複数の要素領域の位置及び大きさなどが組み合わせられることによって決定されるディスプレイ画面の配置」を示すものであって、ディスプレイ画面を複数の要素領域に区分し、各領域は相互に区別されて互いに異なるデータを表示する点で、先行発明2のTVのマルチ画面分割と同一であるとはいえない。

また、本件特許発明と先行発明2とは、技術的課題及び課題の解決手段が同一であるといえない(特許発明の進歩性認定)。

これに対し、原告は上告を提起した。

判決内容

特許発明の保護範囲は、特許請求の範囲に記載されている事項によって定められる(特許法第97条)。特許請求の範囲は特許出願人が特許発明として保護を受けようとする事項を記載するものであるため、新規性・進歩性を判断する対象である発明の確定は、特許請求の範囲に記載されている事項に従わなければならない。ただし、特許請求の範囲に記載されている事項は、発明の説明や図面などを参酌しなければその技術的な意味を正確に理解できないため、その文言の一般的な意味に基づきながらも発明の説明と図面などを参酌してその文言で表そうとする技術的意義を考察した上で、客観的・合理的に解釈すべきである。しかし、発明の説明と図面などを参酌するとしても、発明の説明や図面などの他の記載によって特許請求の範囲を制限または拡張して解釈することは許容されない。

本件特許の請求項1の発明の特許請求の範囲の文言に関する一般的な意味に基づいて発明の説明と図面を参酌すると、請求項1の発明のディスプレイ構造は「データ表示領域がディスプレイ画面に配置された形態」と解釈すべきである。

本件特許の請求項1や発明の説明と図面に、請求項1のディスプレイ構造をなすデータ表示領域に表示されるデータを、アプリケーションイメージ、アプリケーション名称、アプリケーションアイコンなどの互いに異なる種類として限定する記載は示されていない。

先行発明2は、使用者の個性によって画面の配置形態を多様に構成するという本件特許発明の技術的課題を内包している。

本件特許の請求項1の発明と先行発明2は、上記のような技術的課題を解決するために画面の配置形態を変更する一連の段階、即ち、画面の配置形態を変更する命令を入力すれば格納された画面配置形態データを検索して画面に表示し、そのうち特定の画面配置形態を選択する命令を入力すれば選択した画面配置形態に画面を変更する段階的な過程が同一である。このように本件特許の請求項1の発明と先行発明2は、技術的課題を解決するための構成が同一である。

発明を適用する対象が、本件特許発明は通信機器のディスプレイであるのに対し、先行発明2はTVの画面ではあるが、両発明とも表示部の画面配置形態を変更する方法であり、その方法も同一である。本件特許発明の属する技術分野における当業者が、先行発明2のTV画面の配置形態の変更方法を、本件特許の請求項1の発明の通信機器ディスプレイ画面の配置形態の変更方法によって適用するのに特に技術的な困難性がない。

原審は、先行発明2が分割された画面にTVチャンネル映像という同種のデータを表示するため、異種のデータを表示する本件特許の請求項1の発明と同一ではないなどの理由により本件特許の請求項1の発明が先行発明2によって進歩性が否定されないと判断したが、原審の判断には特許請求の範囲の解釈に関する法理を誤解して判決に影響を及ぼした誤りがある。

専門家からのアドバイス

本判決は大法院2020年1月30日言渡2017ダ227516判決(本判例データベースに収録済み)と同様の判示事項を含んでおり、特許請求の範囲の文言を解釈するにおいて発明の説明や図面などを参酌することはできるが、参酌する程度を超えて発明の説明や図面などにより特許請求の範囲を制限または拡張することは許容されないという点を確認したものとして、本判決は新たな法理を提示したものではない。なお、参考までに、先の大法院2017ダ227516判決は特許侵害の判断に関するものであったのに対し、本判決は特許無効の判断に関するものであるのだが、大法院は特許侵害の判断と特許無効の判断を区別せずに一貫した特許請求の範囲の解釈の法理を適用していることを確認できる。

しかし、大法院が上記の法理を通じ、特許請求の範囲の解釈において「参酌」という名目の下で「制限解釈」をすることを禁止したとしても、実務上において、その解釈の境界を一律に決めることはできないと思われる。したがって、特許権者の立場において有力な先行文献が提示された場合には、まず発明の説明や図面を参酌しながら特許請求の範囲を解釈することにより、先行発明からの相違点を主張することができるかをより綿密に検討する必要性があるであろう。こうした検討の結果、特許権者が主張しようとする特許請求の範囲の解釈が「参酌」に該当せずに「制限解釈」と判断される可能性がある場合には、特許請求の範囲の訂正を検討することも考慮すべきであろう。

ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム

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