知財判例データベース 特許無効審判等の審判請求における一事不再理の原則違反の判断基準時点は「審決時」である点を明確にした事例
基本情報
- 区分
- 特許,特許
- 判断主体
- 大法院
- 当事者
- 原告、上告人(審判請求人) vs 被告、被上告人(特許権者)
- 事件番号
- 2018フ11360登録無効(特)
- 言い渡し日
- 2020年04月09日
- 事件の経過
- 上告棄却、確定
概要
特許審判院は特許無効審判請求後、審決時までに補正された事実とこれに関する証拠とをいずれも考慮した上で、審決時を基準として、その審判請求が先行確定審決と同一の事実・証拠に基づいたものとして、一事不再理の原則に違反するか否かを判断すべきである。
事実関係
本件無効審判請求を原告が提起する前に、本件当事者以外の者が2014年4月8日に被告を相手取り本件特許発明の進歩性が否定されると主張しながら登録無効審判を請求したが棄却され、これに対する審決取消を求める訴えも棄却・確定することで(大法院2016年3月24日付2015フ2204判決)、審決(以下「先行確定審決」)が確定した。
原告は2017年8月25日に被告を相手取って本件登録無効審判を請求し、本件特許発明の進歩性が否定される旨を主張したが、特許審判院は2017年12月27日に、本件登録無効審判が先行確定審決と「同一事実及び同一証拠」による審判請求であって特許法第163条による一事不再理の原則に反することを理由として却下する審決をした。
原告は2018年1月25日に上記却下審決の取消しを求める訴えを提起し、原審(特許法院)での主張に対し、先行確定審決および本件登録無効審判手続で主張されていなかった記載不備と新規性の欠如などの新たな無効事由を主張した。
本件の争点は、特許無効審判において、特許法第163条に定められた一事不再理の原則を適用する場合に「同一事実及び同一証拠」に該当するか否かを判断する基準時点がいつかということと、却下審決に対する取消訴訟の審理範囲がどこまでかということであった。
原審判決の判断
①原告の本件登録無効審判請求は先行確定審決と同一の事実・証拠によるものであって、一事不再理の原則に違反することを理由に本件審決を却下したことは正当である。
②大法院2012年1月19日付言渡2009フ2234全員合議体判決によると、一事不再理の原則違反を判断する基準時点は審判請求時であるため、先行確定審決と本件登録無効審判手続においては主張されていないが原審に至って初めて主張された新たな無効事由は、それ自体に理由がない。
③予備的に上記のような新たな無効事由を判断するとしても、理由がない。
判決内容
特許法第163条は、「この法律による審判の審決が確定したときは、その事件については、何人も、同一の事実及び同一の証拠に基づいて再び審判を請求することができない。ただし、確定した審決が却下の審決である場合には、この限りでない」として確定審決の一事不再理の効力を定めている。したがって、上記規定に違反した審判請求は、誰が請求したものであったとしても不適法であり、却下すべきである。
審判請求人は審判請求書を提出した後にその要旨を変更することはできないが、請求の理由を補正することは許容される(特許法第140条第2項参照)。したがって、特許審判院は、審判請求後、審決時までに補正された事実とこれに関する証拠とをいずれも考慮した上で、審決時を基準として、審判請求が先行確定審決と同一の事実・証拠に基づいたものとして一事不再理の原則に違反するか否かを判断すべきである。
大法院2012年1月19日付言渡2009フ2234全員合議体判決において「一事不再理の原則によって審判請求が不適法となるか否かを判断する基準時点は、審判請求を提起した当時とすべきである」としたのは、先行審決の確定を判断する基準時点が争点になった事案において、特許法上、一事不再理の原則の対世効により第三者の権利が制限されることを最小化するために、やむを得ず先行審決の確定と関連してのみ、その基準時点を審決時から審判請求時に変更したものである。
上記において検討したとおり、一事不再理の原則違反を理由として登録無効の審判請求を却下した審決に対する取消訴訟において、審決時を基準として、同一事実と同一証拠を提出したかを審理し一事不再理の原則違反を判断すべきである。このとき、審判請求人が審判手続において主張していない新たな登録無効事由を主張することは許容されない。したがって、このような新たな登録無効事由の主張を理由として却下審決を取り消すことはできず、新たな登録無効事由に対して判断することもできない。
原審が大法院2009フ2234全員合議体判決を挙げながら、審判請求時を基準として、本件登録無効審判請求が同一の事実・証拠に基づいたものとして一事不再理の原則に違反して不適法であるかを判断すべきであるとしたのは誤りである。
しかし、本件審決に対する取消訴訟において新たな無効事由が主張されたとして、これを理由に、却下審決を取り消さずに原告の請求を棄却した原審の結論は正しい。
専門家からのアドバイス
本大法院判決は、特許無効審判等の審判請求における一事不再理の原則違反の判断基準時点が「審決時」である点を明確にした事例であった。これに関連して、本判決中では、過去の大法院全員合議体判決である2012年1月19日付言渡2009フ2234が言及されている。しかし、その判示内容には一事不再理の原則違反の判断基準時点に関し不明瞭な部分が存在したため、本大法院判決は、かかる過去の大法院判決の不明瞭な部分を訂正し、大法院の一貫した見解を示したものであったといえる。
大法院2009フ2234全員合議体判決[1]は、具体的な事案とその判示内容を全体的に詳察すると、後続審判請求時には先行審決が確定していなかったにもかかわらず、後続審判請求に対する審決時に先行審決が既に確定していた場合に、その後続審判請求を一事不再理の原則によって却下することは不合理であるとの趣旨であることが分かる。ただし、その判示中に「一事不再理の原則によって審判請求が不適法となるか否かを判断する基準時点は審判請求を提起した当時とすべきである」という文言があり、この文言により一事不再理の原則の判断基準時点を一律的に審判請求時に変更したものと誤って解される余地があって、本件原審判決もそうした解釈によるものであった。
大法院の本判決は、こうした解釈上の不明瞭な部分を訂正し、大法院2009フ2234全員合議体判決は、先行審決の確定と関連してのみ、その基準時点を審決時から審判請求時に変更したものに過ぎず、一事不再理の原則違反の判断基準時点について大法院の従来からの一貫した見解が変更されたわけではない旨を明確にし、実務上の混乱を防止したことに意味があると言える。
注記
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大法院2012年1月19日付言渡2009フ2234全員合議体判決における判示を、以下に抜粋するので、参考とされたい。
「大法院は従来、一事不再理の原則に該当するか否かは審判の請求時ではなく、その審決時を基準に判断されるべきであると解釈した。このような従来の大法院判例によると、同一特許に対して同一事実及び同一証拠による複数の審判請求がそれぞれある場合、ある審判の審決(「第1次審決」と言う)に対する審決取消訴訟が続く間に他の審判の審決が確定登録されるならば、法院が当該審判に対する審決取消の請求が理由ありとして第1次審決を取り消しても、特許審判院がその審判請求に対して特許法第189条第1項及び第2項によって再度審決をするときは、一事不再理の原則によってその審判請求を却下せざるを得ない。しかし、これは関連確定審決の登録という偶然の事情によって審判請求人が自身の固有の利益のために進めていた手続きが遡及的に不適法になるもので、憲法上保障されている国民の裁判請求権を過度に侵害するおそれがあり、その審判に対する特許審判院の審決を取り消した法院の判決を無意味なものにする不合理が発生する。
上記規定は一事不再理の効力が及ぶ人的範囲について「何人も」と定めており、確定登録された審決の当事者やその承継人以外の者であっても同一事実及び同一証拠によって同一審判を請求することはできないため、むやみにその適用範囲を広げることは、上述のように国民の裁判請求権の行使を制限する結果になる。ところが、旧特許法第163条は、上述のように「その審判を請求することができない」と規定しており、上記規定の文言によると、審判の審決が確定登録された後には、先の審判請求と同一事実及び同一証拠に基づいて新たな審判を請求することが許容されないと解釈されるだけである。それにもかかわらずこれを逸脱し、審判請求を提起した当時、既に他の審判の審決が確定登録されていなかったが、その審判請求に関する審決をする時に既に他の審判の審決が確定登録されている場合にまでその審判請求が一事不再理の原則によって遡及的に不適法になり得るというのは合理的な解釈であると言えない。そうであれば、一事不再理の原則によって審判請求が不適法となるか否かを判断する基準時点は審判請求を提起した当時とすべきであり、審判請求後に初めて同一事実及び同一証拠による他の審判の審決が確定登録された場合には、当該審判請求を一事不再理の原則によって不適法であるとすることはできない」
ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム
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