知財判例データベース 請求の範囲を解釈するにおいて発明の説明や図面を参酌するとしても、それによって保護範囲を制限することは許容されないとした事例

基本情報

区分
特許
判断主体
大法院
当事者
原告、上告人(特許権者) vs 被告、被上告人(侵害被疑者)
事件番号
2017ダ227516特許侵害差止(特)
言い渡し日
2020年01月30日
事件の経過
特許法院2020ナ1124(訴えの取下げ)2020年5月30日確定

概要

原審判決は、請求の範囲に記載された「隙間」は発明の説明に記載された効果を奏する程度の隙間を意味すると解釈し、被告製品の「隙間」はそれに該当しないため、非侵害であると判断した。しかし、大法院は、原審判決が請求の範囲の解釈に関する法理を誤解した誤りがあると判断した。

事実関係

原告の特許発明は「LED PL灯器具」に関するもので、主な侵害争点は、請求項1の「外部空気が拡散カバーとベース間の隙間を通じて拡散カバー内部に流入し、LEDモジュールと熱交換することによってLEDモジュールが冷却される」のにおいて、「隙間」がどのように解釈されるかに関するものである。

原告は、被告製品は特許発明の拡散カバーに該当するLED基板とベースとの間にシーリング材なしに部分的にボルトのみで結合しており、その間に隙間が発生するため、侵害に該当すると主張している。

被告は、被告製品には冷却を目的として意図的に隙間を形成する構成がないため、非侵害であると抗弁した。

原審判決の判断

被告製品は、拡散カバーのフックがベースの貫通孔に挿入されて結合する場合、拡散カバーとベースが離隔され、その部分に微細な隙間が存在することが分かる。

ところが、本件第1項の発明が構成要素として採択している「拡散カバーとベース間に形成された隙間」は、外部空気が拡散カバーの内部に流入するようにし、再度本体の内部空間部に流入して空気排出口を通じて外部に排出されるようにすることにより、空気循環による自然対流によってLEDモジュールを冷却する効果を達成するために形成されたものである。従って、本件第1項の発明の構成と被告製品の対応構成が同一であると言うためには、拡散カバーとベース間に形成された隙間によって得ようとする効果を達成するのに必要な程度でなければならず、そのような効果を奏する「隙間」とは、拡散カバーとベースをフック結合方式により組み立てる場合に生じざるを得ない極微な間隔や隙間を意味するものでなく、本件第1項の発明のようにその部分に流入した空気の流動によるLEDモジュールの冷却効果が奏されるように意図的に形成することにより、本件第1項の発明のような効果を奏する程度の隙間を言うと解釈するのが相当で、単に拡散カバーとベースを組み立てて結合する過程における公差などによって隙間や間隔がありさえすればよいと解釈することはできない。

詳察したところ、甲第5、6、15号証、乙第16号証の各記載及び映像によると、被告製品は拡散カバーのフックがベースの貫通孔に挿入されたとき、ベースと当接する面までのフックの長さが2.05mmであり、貫通孔の深さが1.8mmであって、フックがベースの貫通孔に挿入されたときにフックの長さのうち0.25mmがベース面から離隔されている事実は認められる。しかし、上記認定事実及び甲第21号証の記載だけでは、被告製品の拡散カバーとベース間の「隙間」が拡散カバーとベースを組み立てて結合する過程において公差等によって発生する単純な隙間や間隔ではなくて、その部分に流入した空気の流動によるLEDモジュールの冷却効果が奏されるように意図的に形成されたものと断定することは困難である。従って、原告が提出した証拠だけでは、本件第1項の発明の構成要素である「拡散カバーとベース間の隙間」と被告製品の「拡散カバーとベース間に存在する微細な隙間」が同一の構成要素であると言えない。

この特許法院判決について原告は上告を提起した。

判決内容

特許発明の保護範囲は、請求の範囲に記されている事項によって定められ、発明の説明や図面などによって保護範囲を制限または拡張することは原則的に許容されない。ただし、請求の範囲に記されている事項は、発明の説明や図面などを参酌してこそ技術的な意味を正確に理解することができるため、請求の範囲に記されている事項の解釈は、文言の一般的な意味内容に基づきながらも、発明の説明や図面などを参酌し、文言によって表現しようとする技術的意義を考察した後、客観的・合理的に行うべきである。

本件第1項の発明の請求の範囲の文言には、「外部空気が拡散カバー内部に流入する、拡散カバーとベース間の隙間」の構造や形状について何らの限定もしていない。本件特許発明に関する発明の説明を見ても、「拡散カバーとベース間の隙間」が拡散カバーとベースを結合するとき、寸法公差の範囲内において形成されることを明らかにしているだけである。一方、図面の記載によって保護範囲を制限することは許容されず、図面の記載によっても「隙間」が一定の間隔を有するように示されていない。

被告製品は、本件第1項の発明の構成に対応し、拡散カバーのフックがベースの貫通孔に挿入されて結合する場合、拡散カバーとベースが離隔され、その部分に微細な隙間が存在する。また、上記のような構成要素間の有機的結合関係により、外部空気が拡散カバーとベース間の隙間を通じて拡散カバー内部に入り込み、拡散カバー内の内部空気がLED基板とベースの間の隙間を通じて本体の内部空間部に入り込み、本体の空気排出口を通じて排出され、これを通じてLEDモジュールを冷却するようになる。従って、被告製品は、本件第1項の発明の構成を含んでいる。

それにもかかわらず原審は、本件第1項の発明の構成に関する被告製品の対応構成は結合過程において公差などによって発生する間隔であり、本件第1項の発明の構成と同一の作用効果を奏するように意図的に形成されていない等の理由を挙げ、被告製品は本件第1項の発明の構成と同一の構成要素を有しておらず、本件第1項の発明の保護範囲に属さないと判断した。このような原審の判断には、請求の範囲の解釈、特許権侵害に関する法理を誤解した等の誤りがある。

※ なお、被告製品が請求項1の保護範囲に属さないと判断した原審判決の判示部分の一部は大法院により誤っていると指摘されたが、請求項1の進歩性が否定されるとした原審判決の判断は大法院でも維持され、結果的に請求項1に対する侵害は否定された。原審判決が破棄差戻しされた理由は、従属項に関するものである。

専門家からのアドバイス

韓国の特許法第97条には「特許発明の保護範囲は、請求の範囲に記載されている事項により定められる。」と規定されているが、日本の特許法第70条第2項のような明細書の記載および図面を考慮して請求の範囲の文言を解釈するとする規定は存在しない。

これに関連し、韓国では請求の範囲の文言を解釈するにおいて、発明の説明や図面などを参酌することはできるが、参酌するという程度を越えて発明の説明や図面などにより保護範囲を制限または拡張することは原則的に許容されないものとされている。これは大法院判例の請求の範囲の解釈に関する一貫した立場であって、新たなものではない。

しかし、実務的には、発明の説明や図面を「参酌」すること(許容される)と、それにより「制限解釈」すること(原則的に許容されない)を区別するのが容易でない場合がある。本件において特許法院は、請求の範囲に記載された「隙間」という用語を同院の判断のごとくに解釈することは発明の説明の記載を「参酌」したものであって、保護範囲を制限するものではないと判断したと思われる。これに対し、大法院は、本件第1項の発明の請求の範囲の文言には、「外部空気が拡散カバー内部に流入する、拡散カバーとベース間の隙間」の構造や形状について何らの限定もしていない点等を理由に、特許法院の「隙間」に対する解釈が請求の範囲に記載されていない内容に保護範囲を「制限解釈」していると判断した。本判決は、請求の範囲の解釈において「参酌」と「制限解釈」の境界が判然としない場合の判断に関する先例として、参考となる事例であると言えよう。

ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム

ジェトロ・ソウル事務所 知的財産チームは、韓国の知的財産に関する各種研究、情報の収集・分析・提供、関係者に対する助言や相談、広報啓発活動、取り締まりの支援などを行っています。各種問い合わせ、相談、訪問をご希望の方はご連絡ください。
担当者:大塚、柳(ユ)、李(イ)、半田
E-mail:kos-jetroipr@jetro.go.jp
Tel :+82-2-3210-0195