知財判例データベース 事実審の弁論終結後の訂正審決の確定は再審事由ではないとした大法院判決

基本情報

区分
特許
判断主体
大法院全員合議体
当事者
原告 A社 vs 被告 B社
事件番号
2016フ2522登録無効(特)
言い渡し日
2020年01月22日
事件の経過
特許法院2020ホ1731(原告敗訴)2020年7月28日確定

概要

大法院の全員合議体は、審決取消訴訟の事実審の弁論終結後における訂正審決の確定は再審事由に該当しないと判示し、これにより、特許権者が事実審の弁論終結後に訂正審決の確定を理由として事実審法院の判断を争うことを許容しないものとした。さらに、かかる法理は、権利範囲確認審判の審決取消訴訟、特許権侵害を原因とする民事訴訟にも適用される点、および、特許無効審判手続における訂正請求の審決が確定した場合にも適用される点を明確にし、大法院の従来の関連判決をすべて変更した。

事実関係

原告は発明の名称を「ロール防虫網のロッキング構造」とする特許発明について進歩性による無効事由を主張して審判請求をし、特許審判院で棄却された審決に対して審決取消訴訟を提起した。特許法院は、2016年10月21日に進歩性が否定されるとして審決を取り消す判決をした。被告(特許権者)は2016年11月4日に上記判決に対して上告を提起すると共に、2016年11月28日に特許審判院に訂正審判を請求したところ、特許審判院は2017年2月8日に訂正申請を受け入れて訂正審決をし、確定した。

大法院は、上告審において、審決取消訴訟の事実審の弁論終結後に訂正審決が確定しても再審事由があるとは言えないとした一方で、特許発明は先行発明により進歩性が否定されないと判断し、原審判決を破棄して特許法院に差し戻した。なお、今回の大法院の全員合議体判決には、事実審の弁論終結後に訂正審決が確定すれば再審事由となるか否かについて大法官2人の別個の意見があり、また、主審大法官の多数意見に対する補充意見もあった。 以下、これに関する多数意見を中心に大法院の判断内容を紹介する。

判決内容

大法院は、事実審の弁論終結後に訂正審決が確定すれば再審事由となるか否かについて、下記の通り判示した。

『再審は、確定した終局判決に対して判決の効力を認めることができない重大な瑕疵がある場合、例外的に判決の確定による法的安定性を後退させ、その瑕疵を是正することによって具体的正義を実現しようと設けられたものである(大法院1992年7月24日言渡91ダ45691判決など参照)。行政訴訟法第8条によって審決取消訴訟に準用される民事訴訟法第451条第1項第8号は、「判決の基礎となった行政処分が他の行政処分によって変更されたとき」を再審事由に規定している。これは、判決の審理・判断対象となる行政処分そのものがその後他の行政処分によって確定的・遡及的に変更された場合を言うものではなく、確定判決に法律的に拘束力を及ぼすか、またはその確定判決において事実認定の資料となった行政処分が他の行政処分によって確定的・遡及的に変更された場合を言うものである。ここで「事実認定の資料となった」とは、その行政処分が確定判決の事実認定において証拠資料として採択され、その行政処分の変更が確定判決の事実認定に影響を及ぼす可能性がある場合を言う(大法院1994日11月25日言渡94ダ33897判決、大法院2001年12月14日言渡2000ダ12679判決など参照)。これによれば、特許権者が訂正審判を請求して特許無効審判の審決取消訴訟の事実審の弁論終結後に特許発明の明細書または図面(以下「明細書等」という)について訂正をする旨の審決(以下「訂正審決」と言う)が確定しても、訂正前の明細書等により判断した原審判決に民事訴訟法第451条第1項第8号において規定した再審事由があると言えない』

大法院は、上記判示の理由を下記の通り説明した。

(1)審判は特許審判院における行政手続であり、審決は行政処分に該当し、それに対する不服の訴訟である審決取消訴訟は抗告訴訟に該当し、その訴訟物は審決の実体的・手続的違法性である(大法院2009年5月28日言渡2007フ4410判決など参照)。特許法上、特許決定について不服を申し立てるときは、特許決定自体を訴えの対象とすることはできず、必ず特許審判院の審判を経てその審決についてのみ訴えを提起することができる。このように審決との関係において原処分と言うことができる特許決定は、審決取消訴訟において審理・判断すべき対象に過ぎず、判決の基礎となった行政処分と言うことはできない。従って、事実審の弁論終結後に特許発明の明細書等に対して訂正をする旨の審決が確定し、その訂正後の明細書等によって特許決定、特許権の設定登録がされたとみなすとしても(特許法第136条第10項)、判決の基礎となった行政処分が変更されたと言うべきものではない。

(2)特許の訂正制度は従前の特許発明と実質的同一性を維持することを前提とするもので、訂正事項は訂正後の明細書等の内容を構成し、訂正審決が審決取消訴訟の事実審の弁論終結前になされた場合、その訂正された明細書等が事実審法院の審理・判断の対象になる。特許の訂正は特許無効手続において特許権者の主な防御方法として活用されており、特許無効の紛争は必然的に訂正の無効審判手続[1]まで至るようになるのが常である。結局、訂正前の明細書等による特許の無効性は依然として特許権者と第三者の間では続けて特許無効紛争の対象として残っているので、訂正を認める内容の審決が確定したとしても、訂正前の明細書等による特許発明の内容がそれにより「確定的に」変更されたと断定することはできない。また、特許法第136条第10項は「特許発明の明細書又は図面について訂正をすべき旨の審決が確定したときは、その訂正後の明細書又は図面により、特許出願、出願公開、特許決定又は審決及び特許権の設定登録がされたものとみなす」と規定している。この規定は、事後的に明細書等を訂正しても、既に進行された特許審査・審判手続の内容と効力を訂正後の明細書等に一体性を維持しながら承継させることにより、特許審査・審判手続との調和を維持しながら訂正制度の実効性を追求し、特許権者が訂正により不利益を受けないようにしたものであって、訂正前の明細書等によって発生したすべての公法的、私法的法律関係を遡及的に変更させる趣旨と解釈するのは難しい。

(3)民事訴訟法第1条第1項は「法院は、訴訟手続が公正かつ迅速で、経済的に進行されるように努力しなければならない」とし、民事訴訟の理想を公正・迅速・経済に置いているが、その中においても迅速・経済の理念を実現するためには、当事者による訴訟遅延を適宜防止する必要がある。特許権者は、特許無効審判手続においては訂正請求を通じて、その審決取消訴訟の事実審では訂正審判請求を通じて、いくらでも特許無効の主張に対応できる。それにもかかわらず、特許権者が事実審の弁論終結後に確定した訂正審決によって請求の原因が変更されたことを理由に事実審法院の判断を争うことができるようにすることは、訴訟手続だけでなく紛争の解決を顕著に遅延させるもので、許容されない。

加えて、今回の大法院判決において、上記法理が下記の場合にも適用されるべきであることを明確にした。

(1)特許権の権利範囲確認審判の審決取消訴訟と特許権侵害を原因とする民事訴訟においても適用されるべきである。特許権侵害を原因とする民事訴訟の終局判決が確定した後、または、その確定前に特許権者が訂正の再抗弁を提出しなかったにもかかわらず事実審の弁論終結後に、訂正審決の確定を理由に事実審法院の判断を争うことは許容されない。

(2)特許無効審判や権利範囲確認審判等に対する審決取消訴訟と別個に進行されていた特許無効審判手続において訂正請求に関する審決が確定したとしても、訂正前の明細書等により判断した判決に民事訴訟法第451条第1項第8号の再審事由があるとは言えない。

大法院は、今回の全員合議体判決を通じて、これまで訂正審決の確定が再審事由に該当する旨により判示した大法院判決のすべてを変更した。また、本事案において事実審の弁論終結後になされた訂正審決の確定という事情は、原審の審判対象にならなかった事由として上告審に至って新たになされた主張であって、特許発明の進歩性等の特許要件を職権調査事項であるとみなすこともできないとし、原審の判断に、再審事由に関する法理等を誤解して判決に影響を及ぼした誤りはないとした。

専門家からのアドバイス

特許発明に係る無効審判、権利範囲確認審判や侵害訴訟において特許発明の訂正が広く活用されているが、今回の大法院全員合議体判決により、その活用において時間的制約が課せられることになる。 本事案の場合は、大法院が特許法院の無効判断を覆して特許が有効であると判断したケースであったため、特許権者は破棄差戻し法院において訂正審決により確定した訂正後の明細書に基づき再度判断を受けることができ、この点につき、これまでと実質的な違いは特に生じない。しかし、もし大法院において特許法院の無効判断を認容する場合には、たとえ上告審の進行中に訂正審決が下されることになっても、大法院はこれを考慮せずに上告を棄却することになる。すると、訂正審判の請求は特許法院の無効判決の適法性を争う手段として活用できなくなるであろう。従って、特許権者は適切な時期に訂正審判がなされるように注意しながら訴訟を進める必要がある。

ただし、本判決では、多数意見に対する補充意見において、特許権者保護の観点を十分に考慮すべきことも要請している。具体的には、判決文中に「事実審法院としては、訴訟進行中に特許権者に訂正の機会を適正に付与することによって訴訟手続において適切な手続的保障がなされるようにすべきである。特許権者が事実審の弁論終結前に訂正審判を請求しながら訂正後の明細書等によっての判断を要請した場合、事実審法院としては、訂正事由の具体的内容、訂正が受け入れられる場合に審決取消訴訟の結論に影響を及ぼすか否か、過去の訂正の内訳、訂正する機会が保障されていたか否か、訂正審判を請求した主な目的が訴訟を遅延するものであるか否か等を総合的に考慮して、弁論を終結するかどうかを合理的に決定する必要があるという点を付け加えておく」という意見が述べられている。今後、この補充意見に関する特許法院の運用も注目していくポイントであると言えよう。

ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム

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