知財判例データベース PCT自己指定出願及び国内優先権主張出願での後出願の時点で、先出願の権利承継が出願人名義変更により完了していることを要さないとした大法院判決

基本情報

区分
特許
判断主体
大法院
当事者
原告 A社 vs 被告 B社
事件番号
2017フ1274登録無効(特)
言い渡し日
2019年10月17日
事件の経過
特許法人2019ホ7351(原告勝訴)2020年7月21日確定

概要

韓国特許法上、国内優先権は後出願人が先出願について特許を受けることができる権利を有することを主体的要件としており、特許出願後における権利の譲渡等による特定承継は特許出願人変更申告が承継の効力発生要件として規定されている。特許法院は、韓国の先出願に基づいて韓国を指定して国際出願した本事案において、国際出願時に先出願における特許出願人変更申告がなされていなかったので、国内優先権の主体的要件を満たさず、優先権主張が認められないと判断した。しかし、大法院は、出願人変更申告が特定承継の効力発生要件という規定は優先権主張に関する手続に適用されないと判断し、特許法院の判決を破棄した。

事実関係

訴外1は、訴外2の韓国特許出願(以下「先出願」とする)に関する特許を受けることができる権利を譲り受けて先出願の出願人名義を訴外1に変更した。訴外3は、訴外1から、先出願に基づき優先権を主張してPCT国際出願をできる権利の移転を受けるものとする契約を締結した後、中国特許庁に「イントラ予測モードを誘導する方法及び装置」という名称の発明でPCT国際出願(以下「後出願」とする)をし、先出願に基づいて優先権を主張した。訴外3は訴外4に、さらに訴外4は原告に、後出願について特許を受けることができる権利を譲渡したため、後出願の出願人名義が訴外4に変更された後、原告に変更された。その後、後出願は韓国への国内段階移行をし、特許権の設定登録がされた。

被告は、後出願に関する特許発明について新規性及び進歩性の欠如を主張して、無効審判を請求した。特許審判院は特許発明が優先権の主体的要件を備えておらず優先権が認められないので、先行発明により新規性が否定され、無効であると判断した。原告はこれを不服として無効審決取消訴訟を提起し、特許法院も審決と同一に優先権が認められないと判断した。

本件において後出願は、韓国の先出願に基づいて優先権主張出願をし、韓国を指定国とする国際出願を進めたもの(いわゆる「PCT自己指定出願」)である。この場合、優先権主張の条件及び効果は特許協力条約第8条(2)(b)により当該指定国の国内法令が定めるところによるものとしているため、韓国特許法第55条第1項の国内優先権主張出願の規定が適用される。

特許法院は、国内優先権主張の主体的要件に関する特許法の規定を下記のとおり適用すべきと判断した。

『国内優先権主張をするためには、後出願人が先出願人と同一人であるか、又はその適法な承継人であることを要するが、特許法第38条第4項は「特許出願後には特許を受けることができる権利の承継は相続その他の一般承継の場合を除いては特許出願人変更申告をしなければその効力が発生しない」と規定している。これは特許出願後の権利関係を明確にする旨の規定であって、その文言の内容、及び同条第1項が特許出願前の承継の場合は特許出願の有無を対抗力として規定していることと対比して見ても、これは特定承継の効力発生要件として規定したものであることが明白だといえる。従って、先出願の優先権主張を伴う後出願をした後出願人は、その特許出願時に先出願人と同一人であるか、又はその適法な承継人でなければならず、後出願人が先出願人の特許出願後に特定承継の方法によりその特許を受けることができる権利を譲り受けた場合には、特許出願人変更申告をしなければその権利承継の効力が発生しないと判断するのが妥当である。』

これにより、特許法院は、後出願時に先出願について訴外3として出願人名義変更申告がなされていなかったため、韓国特許法上、先出願に関する権利承継の効力が発生しないので、先出願について特許を受けることができる権利を有する者は訴外1であり、訴外3は先出願に基づいた優先権を主張できる者ではないと判断した。

原告は、上記特許法院の判決を不服として大法院に上告した。

判決内容

大法院は、特定承継の効力に関する特許法第38条第4項が優先権主張に関する手続に適用されないものと判断し、下記のとおり判示した。

『特許を受けようとする者は、自身が特許を受けることができる権利を有する特許出願として先にした出願(以下「先出願」とする)の出願書に最初に添付された明細書又は図面に記載された発明に基づいてその特許出願した発明について優先権を主張できる(特許法第55条第1項)。発明者が先出願発明の技術思想を含む後続発明を出願しながら優先権を主張すれば、先出願発明のうち後出願発明と同一の部分の出願日を優先権主張日と見なすものとなる。このような国内優先権制度の趣旨は、技術開発が持続的になされる点を考慮して発明者の累積した成果を特許権として保護を受けられるようにするものである。

発明をした者又はその承継人は特許法で定めるところにより特許を受けることができる権利を有し(特許法第33条第1項本文)、特許を受けることができる権利は移転できるので(特許法第37条第1項)、後出願の出願人が後出願時に「特許を受けることができる権利」を承継したのであれば、優先権主張をすることができ、後出願時に先出願に対して特許出願人変更申告を終えなければならないわけではない。特許出願後の特許を受けることができる権利の承継は、相続その他一般承継の場合を除いては特許出願人変更申告をしなければその効力が発生しないと規定した特許法第38条第4項は、特許に関する手続において参加者と特許の登録を受ける者を容易に確定することによって出願審査の利便性及び迅速性を追求しようとする規定であり、優先権主張に関する手続に適用されるといえない。従って、後出願の出願人が先出願の出願人と異なっても特許を受けることができる権利の承継を受けたのであれば優先権主張をすることができると判断しなければならない。』

大法院は上記の判示理由を下記のとおり説明した。

(1)PCT自己指定出願の過程において、後出願人が先出願人から特許を受けることができる権利を実質的に承継されたかどうかに対する実体審査は、PCT第8条(2)(b)によって国内段階に移行した後に韓国の法令に従わなければならない。韓国特許法施行規則に従って権利承継の当否は、必要な場合には、補完を要求することによって審査できる。後出願人がPCT国際出願をする前に、その後出願人に国内で特許出願人変更申告を終えることを要求しているものと解釈するのであれば、後出願人は国内段階で手続上の瑕疵を補完する機会を喪失するようになるため国内優先権制度の趣旨に符合するといえない。また、先出願発明を改良して後出願発明をする過程において、先出願の出願人のうち一部のみ後出願の出願人に含まれるか、又は先出願の出願人と後出願の出願人が異なることがあり、後出願時に出願人名義変更手続を正当に終えることができない場合も生じ得る。この場合にも先出願の出願人と後出願の出願人が異なるという理由で優先権主張の効力を否定することは、優先権主張制度の趣旨に反する。

(2)特許法第55条第1項は、優先権主張をすることができる者は「特許を受けようとする者」であると規定しているだけである。これは、特許法が分割出願(第52条)と実用新案登録出願の変更出願(第53条)をできる者は「出願人」と規定することによって分割出願人又は変更出願の名義人が一致することを要求していることと対比される。発明をした者の承継人も特許を受けることができる権利を有するため(特許法第33条第1項)、特許を受けることができる権利を譲り受けた者は、特許法第55条第1項の「特許を受けようとする者」及び「自身が特許を受けることができる権利を有する者」に該当すると見なすことが文理解釈に符合する。特許出願人変更申告を特許登録の前までにするように規定した特許法施行規則第26条第1項も、このような解釈を裏付ける。

上記のような法理に従って、大法院は、訴外3が本件先出願に係る特許を受けることができる権利の承継事実を後出願日以後に証明することが許容され、また、原告が、後出願発明の登録前に提出された権利移転承継書等によって訴外3が優先権を主張できる権利について正当に承継を受けたかどうかを確認する必要があるとし、特許法院判決を破棄して当該事件を特許法院に差し戻した。

専門家からのアドバイス

本事案は、先出願が韓国でされた後に中国特許庁に国際出願をしながら韓国を自己指定したもので、PCT条約に基づいて、韓国特許法上の国内優先権主張出願の規定が適用されたものであった。これについて特許法院は、国内優先権主張をするためには後出願人が先出願人と同一人であるか又はその適法な承継人であることを要することを前提とし、先出願の権利承継の効力は特許出願人変更申告をすることで発生するとした上で、本事案は国際出願日以前に先出願の特許出願人変更申告が完了していなかったという理由によって優先権主張を否定した。

しかし、大法院は、国内優先権主張の規定において先出願につき「特許を受けることができる権利」を有する者は先出願人及び先出願の承継人だけでなく、発明者及び発明者の承継人も含まれるのであって、後出願の出願人と先出願の出願人が同一である必要はないとした上で、後出願の出願人が後出願時に「特許を受けることができる権利」を承継していたのであれば、優先権主張をすることができると判断した。さらに大法院は、特許出願後の特許を受けることができる権利の承継は特許出願人変更申告をしなければその効力が発生しないという特許法の規定は、特許に関する手続において参加者と特許の登録を受ける者を容易に確定することによって出願審査の利便性及び迅速性を追求しようとするだけのものであり、優先権主張制度の趣旨に照らして優先権主張に関する手続にまで適用されるとはいえないとして、特許法院とは異なる立場を取ったのである。

こうした本大法院の判決は、PCT自己指定出願及び国内優先権主張出願において主体的要件を満たすための基準及び手続が多少緩和されて適用されるべき理由を明らかにしたものといえ、この点に実務上の意義を見出すことができる。

ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム

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