知財判例データベース 技術専門家の証言と実験結果により発明の効果の顕著性及び非予測性を立証し、進歩性が認められた事例

基本情報

区分
特許
判断主体
特許法院
当事者
原告(特許権者) vs 被告(審判請求人)
事件番号
2017ホ3966登録無効(特)
言い渡し日
2019年04月26日
事件の経過
審決取消、大法院への上告が棄却されて確定

概要

ゴルフボール表面のディンプル構造の改良に関する特許発明に対して、特許審判院では2つの先行発明の結合により進歩性が否定されると判断したが、特許法院の過程で特許権者が専門家の証言と特許発明の効果に関する試験結果を提出し、特許発明の効果を予測するのが容易でないという点を積極的に立証した結果、発明の進歩性が認められた。

事実関係

原告の特許発明は、ゴルフボールの飛距離を増加させるためにゴルフボールの表面に形成したディンプル構造に関するものである。下記図面のように五角形と三角形を組み合わせた構造を採用し、五角形での第3ディンプル(304)の間にピーナッツ形状のディンプル(303;下記図面のピンク部分)を配置した点に主な特徴がある。

先行発明1は、五角形と三角形を組み合わせたディンプル構造を開示している点で特許発明と共通点があるが、ピーナッツ形状のディンプルがないという点で特許発明と差異がある{特許発明でピーナッツ形状のディンプル(303)が配置される部分に、先行発明1は第2ディンプルと第4ディンプルが分離して形成されている}。一方、先行発明2は全体的なディンプル構造においては特許発明と差異があるが、ピーナッツ形状のディンプルを開示している。

ゴルフボール表面のディンプルの先行発明

被告は無効審判を請求し、先行発明1と2の結合により特許発明を導き出すことは容易であると主張した。これに対して原告は、先行発明2に開示されたピーナッツ形状のディンプルは特許発明と配置構造が異なるので、先行発明1と2を結合しても特許発明を容易に導き出すことはできず、また特許発明は顕著な効果があるので進歩性を否定できないと主張した。

特許審判院は「先行発明2にはピーナッツ形状のディンプルによりゴルフボールの飛距離が向上する旨の記載があるので、先行発明2に開示されたピーナッツ形状のディンプルを先行発明1に結合して特許発明を導き出すことは容易である。特許発明の効果が顕著であるという主張の根拠として原告が提出した証拠は、客観的な実験資料であると認められない」という理由で、特許発明の進歩性を否定する審決を下した。

これに対し、原告が審決取消訴訟を提起した。

判決内容

特許発明は、互いに隣接した第2ディンプル(302)と第2ディンプル(302)との間にピーナッツ形状のディンプル(303)が形成されているのに対し、先行発明1にはピーナッツ形状のディンプルの代わりに円形の第4ディンプルと第2ディンプルが隣接して形成されているという点で差異がある。このような差異は次のような理由で当業者が先行発明1に先行発明2を結合しても容易に導き出すことができないといえる。

- 先行発明1は、互いに異なる直径を有する2~4種類のディンプルをゴルフボールの表面上に配列することによって、ディンプルが同一の寸法を有する従来技術で発生していたゴルフボールの表面上の気流の干渉現象を抑制し、空気抵抗を減少させるためのものである。一方、先行発明2は明細書の記載によると、低いスピン条件で抗力及び揚力間のバランスを取りやすくし、それにより、ゴルフボールの飛行性能を向上させられることを目的とするもので、このための特徴的な形状として連結ディンプル構造(ピーナッツ形状のディンプル)を有するものである。当業者がこのように具体的な目的が互いに異なる先行発明1に先行発明2の連結ディンプルを結合する動機を発見できない。

- ゴルフボールの全面にわたって適用されている先行発明2の連結ディンプルは、ゴルフボールの中央部を基準に放射状に広がりながらゴルフボールの中央部へ向かうように長く配置された連結ディンプルの行と、それと垂直方向に配置された連結ディンプルの行とが交互に配置されている形状になっている点を考慮すれば、先行発明1に先行発明2を結合しても、本件特許発明のように五角形の頂点に対応する位置に五角形の中央方向へ長く放射状に配置されるピーナッツディンプルの構成を導き出すことは容易ではない。

- 空気などの流体は固体とは異なり非線形的挙動を示す属性を有するため、発明の効果が発生するかどうかは実験によってのみ確認でき、その発生原因やメカニズムが正確に究明されてはいないので、設計過程で予め効果が発生するという点を予測するのは非常に難しいことである(証人S大学C教授の証言参照)。このような理由からディンプルの構造(配列、個数、形状、直径、深さ等)を異にしてゴルフボールを設計した場合には、そのようなディンプル構造を有するゴルフボールで風洞実験などを通じて実験してみなければ、ゴルフボールが実際にいかなる飛行挙動を示すかを事前に予測するのは非常に困難な属性を有する。

- 風洞実験で実測されたデータに基づいてシミュレーションした結果、ゴルフボールの飛距離の面で本件特許発明のディンプル構造を有するゴルフボールが先行発明1のディンプル構造を有するゴルフボールに比べて2~3m、先行発明2のディンプル構造を有するゴルフボールに比べて4~8m程さらに遠くへ飛ぶ結果が導き出された(甲12号証の1)。さらに、流体力学は非線形的特性と原理が明らかになっていない効果などによって予測が難しいため、設計をしてもそれが優れた効果を発揮するかどうかは実際に製作して実験してみなければ分からず、ディンプル構造によってだけで飛距離を5mさらに伸ばすようにすることは相当難しいことでもある(証人S大学C教授の証言参照)。以上の事情を総合的に考慮すると、本件特許発明によるディンプル構造は、先行発明に開示されているディンプル構造から予測できない顕著な効果を奏しているといわざるを得ない。

以上で詳察したことをまとめれば、本件特許発明は、当業者が先行発明1に先行発明2を結合しても、その構成を容易に導き出すことができず、各先行発明から予測できない顕著な効果を奏するものとして、その進歩性が否定されない。

専門家からのアドバイス

本件において、特許発明と先行発明1の差異に該当するピーナッツ形状のディンプルは先行発明2に開示されていた。先行発明2でピーナッツ形状のディンプルを採用した理由はゴルフボールの飛距離向上のためであったので、(もし特許権者の十分な立証努力がなければ)先行発明1に先行発明2のピーナッツ形状のディンプルを結合することは容易と判断される可能性がありがちな事案であった(特許審判院はこうした見地から進歩性を否定したものと判断されよう)。

本件において特許権者は、特許法院の手続でゴルフボール周囲の流体力学に対する専門家(大学教授)の証言と風洞実験の結果を提出して発明の効果の顕著性と非予測性を積極的に立証し、特許法院の裁判部も、こうした立証を受け入れた。そして本件で特許法院が実際に判示したとおり、発明の効果に関連する自然現象が非線形的でその効果を予測することが容易でない点を専門家の証言や実験結果を通じて立証することは、発明の進歩性を裏付ける有力な立証方法の1つとなり得るものである。発明の効果の立証が功を奏するような本件と性格が類似する事案において、本件判決を参考にする価値がある。

ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム

ジェトロ・ソウル事務所 知的財産チームは、韓国の知的財産に関する各種研究、情報の収集・分析・提供、関係者に対する助言や相談、広報啓発活動、取り締まりの支援などを行っています。各種問い合わせ、相談、訪問をご希望の方はご連絡ください。
担当者:大塚、李(イ)、半田(いずれも日本語可)
E-mail:kos-jetroipr@jetro.go.jp
Tel :+82-2-3210-0195