知財判例データベース 図形のみからなる商標について、その図形がありふれて用いられるものではなく全体的にその構成が簡単であるとも言えないため識別力があるとされた事例

基本情報

区分
商標
判断主体
特許法院
当事者
原告 個人A vs 被告 外国法人B社
事件番号
2018ホ9466
言い渡し日
2019年08月29日
事件の経過
請求棄却/確定

概要

原告が、本件登録商標「犬の形の商標ピンク 」は簡単でありふれた標章からなる商標であって旧商標法第6条第1項第6号[[(注1>1)]]に該当し、その識別力を認めることができない商標であって旧商標法第6条第1項第7号[[(注2>2)]]に該当するので、その登録が無効とされるべきであると主張したのに対し、特許法院は本件登録商標はありふれて用いられる図形ではなく、本件登録商標を構成する犬図形は各部位別の固有の特徴が結合されているものとして全体的にその構成が簡単であるとも言えないため旧商標法第6条第1項第6号に該当せず、その外観上識別力が認められ、社会通念上自他商品の識別力を認め難いとか、公益上特定人にその商標を独占させるに適しない商標と認める根拠がないため旧商標法第6条第1項第7号にも該当しないと判断し、原告の請求を棄却した。

事実関係

原告は本件登録商標の商標権者である被告を相手取り、上記概要に記載の主張どおりの内容で特許審判院に商標登録無効審判を請求したが、特許審判院は「本件登録商標はその構成が簡単でありふれたものとは言えないため旧商標法第6条第1項第6号に該当せず、識別力が認められない商標と認める根拠もないため旧商標法第6条第1項第7号にも該当しない」と審決した。これに対し、原告は特許法院に審決取消訴訟を提起した。

判決内容

(1)関連法理 商標が商標法第6条第1項第6号の「簡単でありふれた標章のみからなる商標」に該当して登録を受けることができないものであるか否かは、その指定商品にかかわらず当該商標の構成自体のみによって判断し、その上で取引の実情、その標章に対する独占的な使用が許されるかなどの事情を参酌して具体的に判断するべきであるが、ありふれて用いられる図形を図案化した標章の場合には、その図案化の程度が一般需要者や取引者にとって、その図形が本来有する意味以上に認識されるか特別な注意を引く程度に至らないかぎり、該条項で定める「簡単でありふれた標章」には該当しない。

どのような商標が識別力のない商標に該当するかは、その商標が有する観念、指定商品との関係および取引社会の実情などを勘案して客観的に判断すべきであるところ、社会通念上、自他商品識別力が認められない場合や、公益上特定人にその商標を独占させるに適しないと認められる場合に、その商標が旧商標法第6条第1項第7号で定める識別力がない商標に該当するといえる。

(2)原告の主張の要旨
  1. 旧商標法第6条第1項第6号関連 大法院は2017フ2697判決において、本件登録商標と同じ標章からなる犬図形「犬の形の商標黒 」に対し、識別力を認め難く、公益上特定人に独占させるに適しない旨で判決したことがあり、特許庁審査官は本件登録商標と同じ標章からなる「犬の形の商標黒2」(出願番号第40-2018-0029530号)に対し、「極めてありふれた簡単な商標に該当し、自他商品を区別させる特別・顕著な識別力がないため登録を受けることができない」旨の意見提出通知書を発行したこともあった点などに照らしてみるとき、本件登録商標は「簡単でありふれた標章からなる商標」として旧商標法第6条第1項第6号に該当する。

  2. 旧商標法第6条第1項第7号関連 本件登録商標の指定商品に関連し、犬図形を含む多数の商標が登録されている点、法院は本件登録商標よりさらに特異で複雑な図形と文字が結びついた商標に対しても「識別力がないか微弱な標章が結合しても全体的に新たな識別力を形成するとは言い難い」という理由で識別力がないと判断したケースがある点などに照らしてみるとき、本件登録商標はその識別力が認められない商標として旧商標法第6条第1項第7号に該当する。
  3. (3)具体的判断
    1. 旧商標法第6条第1項第6号の該非

      1)本件登録商標はありふれて用いられる図形ではないだけでなく、本件登録商標を構成する犬図形は、①頭部と胴体が流線型形状で構成されており、②胴体の前方が厚く、後方にいくにつれ細長くなり、③鼻と口の部分が微細に区分され、④口の形が上下の長さと厚みを異にして吠えている形ないし口を開けている形に表現されており、⑤尻尾を上に持ち上げ尻尾が全体的にゆるやかなS字状に曲がり、⑥前後の脚をそろえてまっすぐ立って正面を凝視し、⑦後ろ脚については関節部分がくっきりと表されているなど、各部位別の固有の特徴が結びついているものとして、全体的にその構成が簡単とも言えない。したがって本件登録商標は旧商標法第6条第1項第6号に該当しない。

      2)一方、原告は大法院2017フ2697判決を根拠に本件登録商標が第6条第1項第6号に該当すると主張するものの、原告が犬形状の図形に識別力がないとして主張しながら挙げている前記大法院判決の趣旨は、「犬の形の商標PINKの英語文字を追加黒 」商標と先登録商標「DAWN FIELDと英語を追加した犬形の商標 」間の類否判断時、各標章の犬図形の部分だけを分離して比較するのは適切でなく、標章全体として観察しなければならないというものに過ぎず、犬図形の部分が簡単でありふれた標章という趣旨ではないので、原告の上記主張は理由がない。

      3)また、原告は出願商標「犬の形の商標黒2 」(出願番号第40-2018-0029530号)に対する特許庁審査官の拒絶意見を根拠として、本件登録商標が旧商標法第6条第1項第6号に該当するとも主張するが、上記の拒絶意見は暫定的なものに過ぎず、法院が審査官の意見に拘束されるものでもないため、原告の上記主張も理由がない。

    2. 旧商標法第6条第1項第7号の該非

      1)本件登録商標の犬形状を表現するにおいて、各部位を独自に特徴的に表現して全体的に需要者の注意を引くように独創的に考案された商標として、その外観上識別力が認められ、また、指定商品との関係および取引社会の実情などを勘案しても、社会通念上自他商品の識別力を認め難いとか、公益上特定人にその商標を独占させるに適しない商標と認める根拠がない。

      2)一方、原告は本件登録商標の指定商品に犬図形を含む多数の商標が登録されている点を挙げて、本件登録商標は識別力がないと主張するところ、本件登録商標の指定商品と関連して犬図形または他の動物図形を含む多数の商標が登録されているという点は認められる。しかしこのように犬図形の登録商標が多数存在するという点は、本件登録商標の保護範囲を判断するにおいて考慮されたり、本件登録商標の犬図形と異なる図形または文字が結合された商標において犬図形部分を要部と認めることができるかに関連して考慮されたりすることはありうるとしても、このような多数の登録例により犬図形の本件登録商標の識別力が直ちに否定されると言うことはできない。むしろ上記のように多様な犬図形が識別力を認められ登録された点に照らしてみれば、本件登録商標の犬図形の識別力だけが否定されなければならない理由はない。したがって原告の上記の主張は理由がない。

    3. (4)結論 したがって、本件登録商標はその構成が簡単でありふれたものとは言えないため旧商標法第6条第1項第6号に該当せず、識別力が認められない商標とみなす根拠もなく旧商標法第6条第1項第7号にも該当しないため、これに結論を同じくした本件審決は適法である。

専門家からのアドバイス

本件は、犬図形のみからなる商標が識別力を具備しているか否かが争点となった。一般的に図形のみからなる商標の場合は、そこから生じ得る称呼や観念よりも、その外観が重要な判断要素になるといえ、本判決でも、図形商標を構成する各部位を具体的に詳察した上で、その識別力の有無を判断している。

こうした本判決を通して、図形のみからなる商標が簡単でありふれた標章のみからなる商標に該当するか否かについて、韓国の法院の判断傾向を読み取ることができるという点で本件は意味がある。加えて、原告の各主張を法院が排斥した具体的な判示部分も参考になろう。

なお、現韓国商標法において、本判決の争点となった関連条項は第33条第1項第6号として「簡単でありふれた標章のみからなる商標」と規定しているのに対し、日本商標法の関連条項である第3条第1項第5号は「極めて簡単で、かつ、ありふれた標章のみからなる商標」と規定している。つまり韓国商標法では「簡単で」を要件の一つとしているのに対し、日本商標法では「極めて簡単で」を要件の一つとしており、これは両国の条文上の相違点となっている。

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