知財判例データベース 特許権侵害による損害額の算定において、各要素の総合的評価に基づき特許発明の寄与率を算定した事例
基本情報
- 区分
- 特許
- 判断主体
- 特許法院
- 当事者
- 原告(特許権者) vs 被告(侵害被疑者)
- 事件番号
- 2018ナ1893特許権侵害差止及び損害賠償請求(特)
- 言い渡し日
- 2019年08月29日
- 事件の経過
- 控訴棄却/原審確定
概要
特許法院は、特許権侵害による損害額の算定において、被告の実施製品は、本件特許発明の技術だけでなされたものではなく、被告の特許技術も多数適用されているという点と、被告の実施製品において本件特許発明が占める重要度と価格の割合及び量的割合などを総合的に評価し、特許発明の寄与率を4%と算定した。
事実関係
原告の特許発明は、「安全装置が備えられた内釜蓋分離型電気圧力調理器」に関するもので、内釜蓋を衛生的に管理できるように必要に応じて内釜蓋を分離でき、内釜蓋が分離された状態においては調理器が作動しないようにすることにより事故を防止できる安全装置が備えられたことを特徴とする。
原告は、本件に先立って、被告の実施製品が本件特許発明の権利範囲に属するという確認を求める権利範囲確認審判を請求し、最終的に勝訴している。このため、本件における主な争点は、損害賠償額の算定、特に寄与率の算定に関するものとなった。
(1) 原告の主張 本件特許発明は、「電気圧力調理器」に関するものなので、被告実施製品の一部にのみ関連したものではなく、被告実施製品の全体と関連したものであって、被告の利益額のうち本件特許権の侵害と関係した部分の寄与率は100%であると言える。
(2) 被告の主張 本件特許発明は、電気圧力調理器の一部分である安全装置の構成を特徴とするところ、この構成が被告実施製品の売上に寄与した程度は極めて微少で、被告が得た利益額には、被告実施製品のデザインと品質の優秀性、被告の宣伝・広告、市場開拓及び費用節減の努力などといった本件特許発明と関係ない部分が含まれているので、被告の利益額のうち本件特許発明の寄与率は0.014~0.204%に過ぎない。
判決内容
(1) 関連法理 特許法第128条第4項は、特許権者が故意または過失により自己の特許権を侵害した者に対し、その侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合、特許権を侵害した者がその侵害行為により得た利益額を特許権者が受けた損害額として推定すると規定している。このとき、「侵害者がその侵害行為により得た利益額」は、特別な事情がない限り、侵害製品の総販売収益から侵害製品の製造・販売のために追加で投入された費用を控除した限界利益により算定される。
一方、特許発明の実施部分が製品の全部ではなく一部にとどまる場合や、侵害者が侵害した特許技術以外にも侵害者の資本、営業能力、商標、企業信用、製品の品質、デザインなどの要素が侵害者の販売利益の発生及び増加に寄与したと認められる場合は、侵害者がその物を生産・販売することにより得た全利益が侵害行為による利益であるとは言えず、侵害者がその物を製作・販売することにより得た全利益に対する当該特許権の侵害行為に関係した部分の寄与率を算定し、それに従って侵害行為による利益額を算出すべきである。その寄与率は、侵害者が得た全利益に関する特許権の侵害に関係した部分の不可欠性、重要性、価格の割合、量的割合などを参酌して総合的に評価せざるを得ない(大法院2004年6月11日言渡2002ダ18244判決など参照)。
寄与率を算定するにおいて、特許発明の実施以外に侵害者の販売利益の発生及び増加に寄与した要素及びそのような要素が寄与した程度に関する立証責任は侵害者にある(大法院2006年10月13日言渡2005ダ36830判決、大法院2008年3月27日言渡2005ダ75002判決など参照)。
(2) 本件における寄与率の算定 本件特許発明の請求の範囲は、電気圧力調理器の一部の部品ではなく、電気圧力調理器の全体をその請求の範囲として記載してはいるが、乙第27、31~93号証の各記載と弁論の全趣旨を総合すれば、被告実施製品が本件特許発明の技術だけでなされたものではなく、電気圧力調理器の主な機能である炊飯と保温、その他付加機能などに必要な被告の特許及び実用新案技術が多数適用されている事実が認められ、本件特許発明以外に他の技術的特徴も消費者が被告実施製品を購買する要因になったと認められるので、被告の利益額のうち本件特許発明の侵害と関係した部分の寄与率が100%であるという原告の主張は受け入れられない。
イ)不可欠性 被告実施製品は電気圧力炊飯器であって、その本来の目的が炊飯機能であると言える一方、被告実施製品に適用された本件特許発明は分離型内釜蓋と関連した安全装置であって、洗浄の利便性に関連した機能をする。洗浄の利便性を提供する機能が炊飯機能とその機能的一体性があるとは言い難く、構造的にも、本件特許発明の実施に関連した部分がなくとも電気圧力炊飯器を製造することが不可能であるものではないため、本件特許発明に関係した部分が被告実施製品の販売による全利益に不可欠な要素であったとは言い難い。
ロ)重要性 甲号証、乙号証の各記載と弁論の全趣旨を総合して認定される事情に照らしてみると、本件特許発明は、電気圧力調理器の衛生と安全に関する消費者の要求に応じたものであって、被告が被告実施製品を生産・販売し始めた2010年頃には被告実施製品において占める機能的重要性が相当なものであったと判断される。(中略)
ハ)価格の割合及び量的割合 被告実施製品において本件特許発明に該当する部品が占める価格の割合は0.06~0.08%、量的割合は0.09%と算定される。しかし、本件特許発明は、安全装置が備えられた内釜蓋分離型電気圧力調理器の全体を請求の範囲としており、請求の範囲に記載された構成要素が有機的に結合して本件特許発明が目的とする効果が奏されると言え、本件特許発明に該当する部品が3つの部品だけであると断定できない。従って、3つの部品を基準に価格の割合と量的割合を算定することは適切でなく、他に本件特許発明の価格の割合と量的割合を算定できる客観的資料も提示されていない。
ニ)特許発明の実施以外に被告の利益額に寄与したその他要素 乙号証の各記載及び弁論の全趣旨により認定される事情に照らしてみると、被告の広報活動及び被告実施製品に適用されたデザインなどの要素も被告の販売利益の発生及び増加に寄与したと認められるので、このような要素も寄与率の判断に考慮すべきである。(中略)
ホ)総合的な考慮による寄与率の算定 乙第182号証、第186号証(注1)の各記載と弁論の全趣旨により認定される事情を総合すれば、電気炊飯器を構成する主要技術のうち機構(本体)の重要度は40%と評価でき、機構(本体)のうち蓋の重要度は22%と評価できる。
ところが、「上蓋」は内釜の内・外部を連結する通路であって、電気圧力炊飯器の炊飯機能に必須の密封及び圧力制御機能を担い、高い内圧状態において蓋が開かれる場合の爆発など不意の事故を防止するために多様な安全装置が装着される。本件特許発明は、内釜蓋を分離する場合に発生することがある圧力低下の問題及び事故を解決するための構成要素を含んでいるが、先に検討した通り、本件特許発明により電気圧力炊飯器において安全及び品質低下の心配なく分離型カバーを導入できるようになり、これは電気圧力炊飯器の洗浄を望む需要者の要請にもかかわらず、長い間解決されてこなかった課題を解決したものであって、電気圧力炊飯器における分離型カバーの有無は、2010年当時、電気圧力炊飯器の上蓋部分において消費者の関心を引く主要部分であったと言える。その後、技術の発展に伴い、これに対する消費者の関心は低くなったと言うことはできるが、そのような事情に鑑みても、需要者の関心の側面から見れば、本件特許発明は、上蓋部分において少なくとも50%の重要度を有していると言うべきである。
上記のような事情を考慮すると、本件特許発明が被告実施製品において占める寄与率は4.4%(=40%×22%×50%)程度と言うことができるが、先に検討した通り、被告の広告活動や被告実施製品に適用されたデザインなどの要素も、被告実施製品の販売利益の発生及び増加に多少なりとも寄与したと言うことができるので、これを総合的に考慮すると、被告実施製品の販売利益に対する本件特許発明の寄与率は4%程度であると言うのが相当である。
専門家からのアドバイス
韓国において特許権侵害による損害額は、民法上の原則に従って請求することもできるが、特許法の特別規定に従えば、①侵害者の譲渡数量に権利者の単位数量当たりの利益額を乗じた金額、②侵害者の利益額、または③合理的な実施料相当額などの方法により請求することができる(韓国特許法第128条)。このうち本判決は、②侵害者の利益額に基づいて損害額を算定するのにおいて、侵害者の実施製品に特許発明が寄与した程度(寄与率)を考慮すべきとする既存の法理を確認した上で、その寄与率を算定する方法を実際の事案において、より具体的に提示した点に意義がある。
寄与率を算定する要素として従来の大法院判決が提示していたのは、実施製品において特許発明が占める不可欠性、重要性、価格の割合及び量的割合などである。本判決は、これらの各要素を個別に評価した上で、総合的な判断により寄与率を具体的に決定したものといえる。今後、特許権侵害による損害額算定が争点となる事件において、本判決が示した個別の評価や判断の手順などは参考とされ得ることがあると考えられる。
なお、韓国では法改正により、2019年7月9日から故意的な侵害と認められる場合には、損害額の3倍までの範囲において賠償額を定めることができる規定が施行されていることに留意されたい。
注記
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乙第182号証及び第186号証はそれぞれ技術評価を行う専門機関の鑑定書
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