知財判例データベース 先使用サービスマークの使用期間が短くても、その使用の具体的な事情を考慮して、これに類似する登録サービスマークは需要者を欺瞞するおそれがあるとされた事例

基本情報

区分
商標
判断主体
特許法院
当事者
原告 個人A vs 被告 個人B
事件番号
2018ホ9411
言い渡し日
2019年08月23日
事件の経過
審決取消/確定

概要

特許法院は、原告Aの先使用サービスマーク「참치왕 A」(「マグロ王A」)が本件マグロ料理専門店で使用された期間は1年ほどと短いが、原告がTV番組に出演し、また先使用サービスマークが紹介された各種証拠、および被告と締結した共同経営契約などの事情を総合すれば、被告Bの本件登録サービスマークの出願または登録当時、先使用サービスマークは原告が提供するマグロ料理関連サービスマークとして相当程度知られていたと認められ、本件登録サービスマークは特定人の役務を表示するものと認識されている先使用サービスマークとその標章および役務が同一・類似であるため、その指定役務に使用される場合、需要者をして役務の出所を誤認・混同させ需要者を欺瞞するおそれがあり旧商標法第7条第1項第11号に該当し本件登録サービスマークは無効にされるべきであると判断して、審決を取り消した。

事実関係

原告Aは1994年から現在までマグロ料理業を営む者で、被告Bは株式会社Cの代表理事である。被告は原告に対し、被告が資金を負担し原告は自身の名前とマグロ料理技術を提供する方法で「マグロ王A」という商号のフランチャイズおよび流通事業を共同で行うことを提案し、これに関して原告と被告は2012年12月1日付で業務協約契約(以下、「本件共同経営契約」という)を締結し2013年3月に開業した。

原告と被告とは開業日から先使用サービスマークを使用して本件マグロ料理専門店を共に運営したが、2014年4月に共同経営契約を終了し、その後被告が単独で本件マグロ料理専門店を運営し本件登録サービスマークを出願して登録を受け(「マグロ王 ヤンスンホ 」(マグロ王 ヤンスンホ)、サービスマーク登録第322336号)、以降、ソウルおよびソウル近郊に本件マグロ料理専門店の支店を開いて運営している。

判決内容

(1)関連法理

旧商標法第7条第1項第11号(注1) は既存の商標を保護するためのものではなく、すでに特定人の商標であると認識された商標を使用する商品の品質、出所等に関する一般需要者の誤認・混同を防止し、これに対する信頼を保護することをその目的とするため、旧商標法第7条第1項第11号後段の「需要者を欺瞞するおそれがある商標」には、指定商品との関係において他人の商標を模倣し自身の固有の商標として登録出願または登録することにより需要者を欺瞞するものまでを含む。

登録商標が旧商標法第7条第1項第11号で規定する需要者を欺瞞するおそれがある商標に該当するためには、その登録商標や指定商品と対比される先使用商標やその使用商品が必ず周知・著名である必要はないが、少なくとも韓国国内の一般取引において、需要者や取引者にその商標や商品といえば直ちに特定人の商標や商品であると認識されるほどには知られていなければならない。これに対する判断は登録商標の登録決定時点を基準とし、このような法理は旧商標法第2条第3項(注2) によりサービスマークに対しても適用される。

(2)具体的判断

  1. 認定事実
    1. 原告は2010年4月頃から飲食店や広場などでマグロ解体ショーを行い、2012年7月頃には釜山の広安里海水浴場でマグロ解体ショーを実演したが、この様子はテレビ局SBSの生放送番組を通じて全国に放送された。
    2. 検索ポータルサイトのNaverおよびDaumで、2010年1月1日から本件共同経営契約が締結された2012年12月1日までの期間を定めて「マグロ王A」を検索すると、多数のブログ掲示文が検索される。
    3. 原告は2010年6月にはSBS、2011年2月および同年12月にはMBC、2013年10月にはオリーブTV、2014年2月にはKBS2といった各TV番組などに出演し、前記KBS2で放送された番組は本件マグロ料理専門店で撮影された。
    4. 原告は2013年7月に開催された韓日マグロ専門家招請マグロ解体ショー対決に招かれた。当時原告は「マグロ王A」という文字が金色で施された衣装を着てマグロ解体ショーを行っており、その事実はニューシス、聯合ニュース、世界日報、ソウル新聞、国民日報、ニュース1等で記事化され、SBSとKBSなどでは当該場面を撮影して原告へのインタビューも行った。
    5. NaverおよびDaumで本件共同経営契約が締結された後から2014年12月1日までの期間を定めて「マグロ王A」を検索すると、多数のブログ掲示文が検索される。
    6. 本件共同経営契約が終了した後、本件マグロ料理専門店を訪れた一部需要者は、本件マグロ専門料理店を原告が運営する飲食店ないしフランチャイズ店であると誤認したという内容の文章等を原告のブログやインターネットブログに掲示もした。
  2. 先使用サービスマークが知られていた程度 以上の認定事実に加えて、弁論全体の趣旨を総合して認められる以下の事情などを総合してみれば、先使用サービスマークが本件マグロ料理専門店で使用された期間は1年ほどで短いとしても、本件登録サービスマークの出願または登録当時に、原告が提供するマグロ料理関連サービスマークとして相当程度知られていたと認められる。
    1. 原告は2010年頃から本件登録サービスマークの登録決定日当時まで、一般公衆に対する伝播力が高い大衆媒体であるTV番組(KBS, MBC, SBS, オリーブTVなどのTV局)に出演し、原告の「生マグロ解体ショー」と関連したインターネット記事を複数の新聞社で報道しており、インターネットで「生マグロ解体ショー」ないし「マグロ王」等の検索語で検索すると原告が検索された。
    2. 上記の大衆媒体などは原告を紹介する際、原告がマグロ解体と関連した優れた専門技術を有しているという意味で総じて「マグロ王A」という名称を使用し、一般需要者も原告が勤める店舗をおいしい店と紹介している。
    3. 本件マグロ料理専門店で使用された先使用サービスマークは、以上のようにマグロ料理分野ですでに相当程度知られた原告の名称をそのまま使用したもので、先使用サービスマークにより提供したサービスも「マグロ料理の提供」である。
    4. 原告および被告が本件マグロ料理専門店の商号を「マグロ王A」とすることにした点、本件共同経営契約当時、被告側が資本金すべてを出資することにした点などに照らしてみれば、被告も本件共同経営契約当時「マグロ王A」という名称が一般需要者にすでに相当程度知られており、そのような名声を利用して経済的利益を得る目的で上記のような条件により共同経営契約を締結したものと言える。
    5. 原告と被告との間で、本件共同経営契約を終了して被告が先使用サービスマークに関する権利を独占的に有すると約定したところがないため、先使用サービスマークは被告との関係で他人のサービスマークに該当する。
  3. 本件登録サービスマークと先使用サービスマークの同一・類否 本件登録サービスマークは先使用サービスマークと外観が非常に類似し、呼称および観念が同一であって、本件登録サービスマークと先使用サービスマークが同一・類似のサービスに共存する場合にサービスの出所の誤認や混同を生じさせるおそれがあると言えるため、両標章は同一または類似である。
  4. 指定役務の同一・類否
    本件登録サービスマークの指定役務である「マグロ専門簡易食堂業、マグロ専門食堂チェーン業、マグロ専門レストラン業」と先使用サービスマークの使用役務である「マグロ専門食堂業」は同一または類似の役務に該当する。
  5. (3)結論

    本件登録サービスマークは特定人の役務を表示するものとして認識されている先使用サービスマークとその標章および役務が同一・類似であるため、その指定役務に使用される場合、需要者に役務の出所を誤認・混同させることで需要者を欺瞞するおそれがあるといえる。したがって本件登録サービスマークは旧商標法第7条第1項第11号に該当する。

専門家からのアドバイス

登録商標が旧商標法第7条第1項第11号(現第34条第1項第12号に相当)で規定される「需要者を欺瞞するおそれがある商標」に該当して無効とされるか否かについて、これまで大法院は、その適用要件として先使用商標やその使用商品が一般需要者の間に特定人の商標や商品であると認識されていること、および商標が同一・類似であることなどを挙げている。一方で、先使用商標やその使用商品が一般需要者の間に特定人の商標や商品であると認識されているかについては、その商標または商品の使用期間、方法、態様および利用範囲などと、取引実情または社会通念上客観的に相当程度知られているかなどを総合的に考慮して判断しなければならないとされている。一般的に先使用商標を使用していた期間が長いほど、そして先使用商標を使用していた商品の売上規模、市場占有率、広告費支出規模などが大きいほど、上記の要件を備えていると認められる可能性が高まると言える。

ただし、大法院判例が示しているとおり、上記「需要者を欺瞞するおそれがある商標」に該当するか否かを判断するときには、先使用商標やその使用商品が一般需要者の間に特定人の商標や商品であると認識されていることと、商標が同一・類否であることを綿密に検討すれば良いのであって、必ずしも先使用商標の使用期間が長いことや、先使用商標を使用した商品の売上規模、市場占有率、広告費支出規模などが大きいことが必要とされるものではない。実際に本件でも法院は、先使用商標についての使用期間が短い場合や十分な売上実績がない場合であっても、たとえば専門的な知識・技術で良質の特定製品を製造することにより一般大衆に相当程度知られるようになった特定人物の氏名のみからなる先使用商標をその特定製品に使用するといったように、先使用商標に特定人の認知度ないし名声が内包されているため、その先使用商標が特定商品に使用されたことだけで直ちにその特定人が製造・販売する商品であるという出所が強く想起されるような場合であれば、一般需要者や取引者にとっては当該商標が使用された商品について特定人の商標または商品であるものとして品質や出所を誤認・混同する可能性が高いと判断している。

本件において法院は、先使用サービスマークが使用された期間は約1年と短かったが、 実際にその先使用サービスマークが使用されてきた特別な事情を考慮した上で、原告が提供するマグロ料理関連サービスマークとして相当程度知られていたものと認められたものであり、これと類似の登録サービスマークは需要者を欺瞞するおそれがあって旧商標法第7条第1項第11号に該当すると判断したものといえる。すなわち、本件は、法院が具体的な事実関係に基づいて需要者欺瞞のおそれを判断した判決であるといえ、韓国の商標登録の判断をより深く知るために有意であると言えよう。

ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム

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