知財判例データベース 拒絶決定不服審判又は審決取消訴訟で進歩性判断における主先行発明を変更することは新たな拒絶理由に該当し許容されないとした事例

基本情報

区分
特許
判断主体
大法院
当事者
原告、被上告人(出願人) vs 被告、上告人(特許庁長)
事件番号
2015フ2341拒絶決定(特)
言い渡し日
2019年10月31日
事件の経過
上告棄却/原審確定

概要

拒絶決定不服審判又はその審決取消訴訟において特許出願の審査又は審判段階で通知された拒絶理由として記載された主先行発明を他の先行発明に変更することは、一般に出願発明との共通点及び差異点の認定と、そのような差異点を克服して出願発明を容易に発明できるかに対する判断内容が変わることになるため、出願人にこれについて実質的に意見提出の機会が与えられたといえる等の特別な事情がない限り、既に通知された拒絶理由と主要な趣旨が符合しない新たな拒絶理由に該当することになり、許容されない。

事実関係

原告の出願発明は、車両用駆動システムの「直駆動式アクスル駆動ギア」に関するものであって、請求項1は「リングギアと噛み合う出力ピニオン及び駆動ピニオンを含む直駆動式アクスル駆動ギアにおいて」(以下「構成1」)を前提部とし、「クラッチを含み、上記クラッチを通じてリングギアがディファレンシャルボディから分離が可能なので、ディファレンシャルボディが共に動作しない状態で、駆動ピニオンがリングギアを通じて出力ピニオンを駆動できること」(以下「構成2」)を特徴部とする。要約すると、リングギア/出力ピニオン/駆動ピニオンを備えた駆動ギアにクラッチを追加した発明といえる。

  • 特許庁の審査官は、先行発明は出願発明と対比してクラッチを備えた点で共通し、出力ピニオンの有無で差異があるが、出力ピニオンは、当業者が必要に応じて容易に付加できるという趣旨により拒絶理由を通知した。
  • 出願人は、先行発明は後車軸の駆動システムに関するものであるため出力ピニオンを備えていないという差異があり、配置構造が出願発明とは相違するので、先行発明から出願発明を容易に導き出すことができないという趣旨で意見書を提出した。
  • 特許庁の審査官は、当初の拒絶理由が解消されなかったという理由で拒絶決定をした。出願人はこれに対して特許審判院に不服審判を請求した。
  • 特許審判院は、「出願発明の構成1は従来の周知慣用技術に該当し、構成2は先行発明の対応する構成と比較してクラッチを備える点で共通し、出力ピニオンの有無で差異がある。しかし、出力ピニオンを含む周知慣用技術の差動装置に先行発明の対応する構成(即ち、クラッチの付加)を適用して出願発明を導き出すことは容易であるといえる」という趣旨で拒絶決定を維持した。
  • 出願人は、審決取消訴訟を提起し、「審判院の審決は出願人に意見提出の機会を与えていない新たな拒絶理由に該当するので許容されない」と主張した。
  • 特許法院は、出願人の主張を受け入れて審決を取り消す判決を下した。これに対して、被告(特許庁長)が上告を提起した。

判決内容

特許出願に対する審査段階で拒絶決定をするためには、それに先立って出願人に拒絶理由を通知して意見提出の機会を与えなければならず、拒絶決定に関する特許審判院の審判手続においてそれと異なる事由により拒絶決定が正当であるとするためには、まずその事由について意見提出の機会を与えてこそこれを審決の理由とすることができる(特許法第62条、第63条、第170条を参照)。上記のような手続的権利を保障する特許法の規定は強行規定なので、意見提出の機会を付与していない新たな拒絶理由を挙げて拒絶決定が結果において正当であるという理由により拒絶決定不服審判請求を棄却した審決は違法である。同じ趣旨で拒絶決定不服審判請求の棄却審決の取消訴訟手続においても、特許庁長は審査又は審判段階で意見提出の機会を付与していない新たな拒絶理由を主張することができないと解するべきである。ただし、拒絶決定不服審判請求の棄却審決の取消訴訟手続において特許庁長が初めて主張する事由であるとしても、審査又は審判段階で意見提出の機会を付与した拒絶理由と主要な趣旨が符合し、既に通知された拒絶理由を補充するに過ぎないものであれば、これを審決の当否を判断する根拠とすることができるといえる。

出願発明の進歩性を判断するにおいて、まず出願発明の特許請求の範囲と技術思想、先行発明の範囲と技術内容を確定し、出願発明と最も近い主先行発明を選択した後、出願発明を主先行発明と対比して共通点及び差異点を確認し、その発明の属する技術分野で当業者が特許出願当時の技術水準に照らしてこのような差異点を克服して出願発明を容易に発明できるかを審理する。

ところで、拒絶決定不服審判又はその審決取消訴訟において、特許出願の審査又は審判段階で通知された拒絶理由に記載された主先行発明を他の先行発明に変更する場合には、一般に出願発明との共通点及び差異点の認定と、そのような差異点を克服して出願発明を容易に発明できるかに対する判断内容が変わることになるので、出願人にこれについて実質的に意見提出の機会が与えられたといえる等の特別な事情がない限り、既に通知された拒絶理由と主要な趣旨が符合しない新たな拒絶理由に該当する。

被告は、本件審決取消訴訟手続において、本件第1項の発明は従来の直駆動式アクスル駆動ギアに先行発明のクラッチを適用して当業者が容易に導き出すことができるので、その進歩性が否定される(以下 「本件被告の主張事由」という)と主張した。

これに対し、原審は、本件の不服審判又は審決取消訴訟における「被告の主張事由」によって本件第1項の発明と「従来の直駆動式アクスル駆動ギア」を対比する場合の差異点は「クラッチ」の付加有無であるのに対し、本件の審査官の拒絶理由によって本件第1項の発明と先行発明を対比する場合の差異点は「出力ピニオン」の付加有無であって、当業者がこのような差異を克服して本件第1項の発明を容易に発明できるかに対する判断内容が変わることになるので、本件の「被告の主張事由」は、本件の拒絶理由と主要な趣旨が符合しない新たな拒絶理由であると判断した。そして、本件審決は手続上違法又は進歩性の判断に誤りがあるという理由でこれを取り消した。

上記のような事実関係を、先に述べた法理に照らして詳察すると、本件の「被告の主張事由」は、特許出願の審査段階で通知された本件の拒絶理由に記載された主先行発明を他の先行発明に変更する場合に該当するので、本件の拒絶理由と主要な趣旨が符合しない新たな拒絶理由に該当する。従って、原審が同じ趣旨により本件の「被告の主張事由」は新たな拒絶理由に該当すると判断して本件審決を取り消したことは正当であって、そこに上告理由の主張のように本件の拒絶理由を誤って把握することによって進歩性に関する法理を誤解した等の誤りはない。

専門家からのアドバイス

拒絶決定不服審判のような決定系事件において、審査官が出願人に意見提出の機会を付与していない新たな拒絶理由を挙げて拒絶決定が結果において正当であるとする理由により審判請求を棄却する場合には、その審決は違法であるとするのが、大法院判例の一貫した見解である。これと同様の趣旨で、拒絶決定不服審判の請求を棄却した審決取消訴訟手続においても、特許庁長は、審査又は審判段階で出願人に意見提出の機会を付与していない新たな拒絶理由を主張することはできないものとされる。ただし、審決取消訴訟手続において特許庁長が初めて主張する事由であるとしても、審査又は審判段階において意見提出の機会を付与した拒絶理由と主要な趣旨が符合し、既に通知された拒絶理由を補充するに過ぎないものであれば審決の当否を判断する根拠とすることができると判示されている(大法院2013年9月26日言渡2013フ1054判決等を参考)。

本判決は、こうした従前の大法院判例と軌を一にするものといえよう。すなわち本判決は、「進歩性判断の前提になる主先行発明を他の先行発明に変更する場合」は、特別な事情がない限り新たな拒絶理由に該当するという点を大法院が明確にしたことに意義があるといえる。

ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム

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