知財判例データベース 国内で生産した半製品を外国へ輸出した後、最終的な加工・組立がなされた場合に、属地主義原則の例外として一定の要件下で特許権侵害を認めた事例

基本情報

区分
特許
判断主体
大法院
当事者
原告(特許権者) vs 被告(複数の侵害被疑者)
事件番号
2019ダ222782特許権侵害差止等
言い渡し日
2019年10月17日
事件の経過
大法院2020ダ268302(審理不続行棄却)、特許法院2019ナ1869(原告一部訴訟)2021年1年19日確定

概要

特許権の属地主義の原則上、物の発明に係る特許権者が物に対して有する独占的な生産・使用・譲渡・貸渡し若しくは輸入等の特許実施に関する権利は、特許権が登録された国の領域内でのみ、その効力が及ぶことが原則であるが、大法院は、属地主義の原則についての例外基準として、次の3つを提示した。

  1. 国内で特許発明の実施のための部品又は構成の全部が生産されるか、大部分の生産段階を終えて主要構成を全て備えた半製品が生産されたこと
  2. 半製品が1つの主体に輸出されて最後の段階の加工・組立がなされることが予定されていること
  3. そのような加工・組立が極めて些細なものであるか簡単であって、上記のような部品全体の生産又は半製品の生産だけでも特許発明の各構成要素が有機的に結合した一体として有する作用効果を具現できる状態に至っていること

事実関係

原告が保有している対象特許は、皮膚の美容施術に用いられる医療用糸挿入装置に関するものであって、属地主義の原則についての例外に該当するかが争点となった請求項6は「挿入経路形成手段」と「医療用糸供給手段」を備え「医療用糸の端部には医療用糸が生体の組織内に固定されるようにするための医療用糸支持体が形成されている」構成からなっている。

被告Cは被告E、H等に対象特許の「挿入経路形成手段」、「医療用糸供給手段」、「医療用糸」及び「医療用糸支持体」にそれぞれ該当するカテーテル、ハブ、縫合糸及び縫合糸支持体を製作するようにし、これらを被告Cが代表理事を務める被告D社に納品するようにした後、被告D社の名義により日本のO病院に納品するか、又はシンガポールを経由してO病院に輸出する方法で納品した。ここで、縫合糸と縫合糸支持体は個別製品として輸出され、縫合糸の端部に縫合糸支持体を形成する最終の組立は外国でなされた。このような事実関係の下で、被告らの行為が請求項6を侵害するかが争点になった。

原審法院(特許法院)の判決

特許法院は次のとおり判示しながら、被告らの行為が請求項6の直接侵害に該当しないと判断した。

複数の個別の物を構成要素とする「物の発明」の場合、その構成要素である個別の物を全て作り出したことだけで直ちに発明の対象である全体の物を生産したとはいえないが、その発明において、これら個別の物が追加で加工、組立又は結合することまで技術構成としておらず、また、これら個別の物が単一主体の支配・管理下で一体に処分され得るため社会的・経済的側面から見たとき、追加の生産過程なしでも、その発明の技術構成が有機的に結合した一体として有するのと同様の作用効果を具現できる状態に至ったものと判断される場合には、その「物の発明」の対象である全体の物を生産したと判断するのが妥当である。本件縫合糸と本件縫合糸支持体は、それぞれシンガポールに輸出された事実を認めることができるところ、本件縫合糸に本件縫合糸支持体を形成するには追加の加工を経なければならないので、本件縫合糸は「医療用糸支持体」の構成が欠如していると見るのが妥当である。したがって、被告らが本件カテーテル及びハブに本件縫合糸と縫合糸支持体を追加して生産したことから、請求項6を直接侵害するといえない。

一方、特許法院は、被告らが生産した縫合糸と縫合糸支持体それぞれは対象特許の実施にのみ用いられる専用品ではないという理由で、被告らの行為が請求項6の間接侵害にも該当しないと判断した。

これに対して原告が上告を提起した(なお、対象特許の他の請求項に基づく侵害差止請求は認容されたため、それらについては被告らが上告を提起したが、それらは全て棄却された)。

判決内容

特許権の属地主義の原則上、物の発明に関する特許権者が物に対して有する独占的な生産・使用・譲渡・貸渡し若しくは輸入等の特許実施に関する権利は、特許権が登録された国の領域内でのみその効力が及ぶことが原則である。しかし、国内で特許発明の実施のための部品又は構成の全部が生産されるか、大部分の生産段階を終えて主要構成を全て備えた半製品が生産され、これらが1つの主体に輸出されて最終段階の加工・組立がなされることが予定されており、そのような加工・組立が極めて些細なものであるか簡単であって、上記のような部品全体の生産又は半製品の生産だけでも特許発明の各構成要素が有機的に結合した一体として有する作用効果を具現できる状態に至ったのであれば、例外的に、国内で特許発明の実施製品が生産されたものと同一であると判断することが特許権の実質的保護に符合する。

本件において次のような事情を考慮すると、被告等が本件カテーテルとハブ、縫合糸、縫合糸支持体の個別製品を生産したことだけでも国内において請求項6の発明の各構成要素が有機的に結合した一体として有する作用効果を具現できる状態が整ったものとして、その侵害が認められるものと判断することが妥当である。

  • 請求項6の「医療用糸の端部に医療用糸支持体が形成されている」構成は、被告実施製品中の本件縫合糸と縫合糸支持体の個別製品に対応する。
  • 被告等は、本件カテーテルとハブ、縫合糸、縫合糸支持体の個別製品を生産することによって、請求項6の発明の実施のための構成全部を生産した。上記個別製品は、当初から日本にあるO病院に販売して同一の皮膚リフティング施術過程で一緒に用いられるようにする意図で生産されたものである。
  • 請求項6の請求の範囲と明細書の記載を総合すれば、医療用糸支持体を医療用糸の端部に結合・固定する方法は、通常の技術者が適宜選択できる程度に過ぎない。
  • 施術前又は施術過程で医療用糸の端部に医療用糸支持体を配置して固定させることは、通常の技術者に自明であり、通常の技術者であれば、特に困難なく上記個別製品を各機能に合わせて組立・結合して用いることができる。
  • それにもかかわらず、原審は、本件縫合糸端部に縫合糸支持体を形成するには追加の加工・組立等を経なければならないという理由だけで請求項6の発明に対する侵害を否定した。原審判断には特許権侵害に関する法理を誤解して判決に影響を及ぼした誤りがある。

専門家からのアドバイス

過去の大法院判決の中には、国内では半製品の生産のみを行い完成品への組立は外国でなされた場合に、かかる半製品の生産行為が国内特許権の間接侵害に該当するかについて、属地主義の原則を挙げて間接侵害を否定したことがある(大法院2015. 7. 23.言渡2014ダ42110判決 - JETRO判例データベースに収録済み (注 1) )。

これに対し今回の大法院判決は、国内で生産した半製品を外国に輸出した後に、最終的な加工・組立がなされた場合にも、上述したように一定の要件の下に特許権の属地主義の原則の例外として、複数の部品で構成された特許発明に対する侵害として認定することができる基準を提示したことに意味があるといえよう。

本判決で示されたとおり、属地主義の原則についての例外基準の適用が認められる特許権侵害の局面も可能性としてはあり得ようが、おそらくは厳格な要件の下に認められることとなろう。今回の大法院判決は、特許権の実質的保護という観点から原則と例外の均衡を図ったものとして意味があるといえ、今後、韓国において特許権による権利行使の態様を理解するうえで参考となる判例といえよう。

ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム

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