知財判例データベース インターネットを通じた書籍販売が「インターネットを利用した電子書籍(E-BOOK)販売代行業」等への登録商標サービスマークの使用に該当しないと判断した事例

基本情報

区分
商標
判断主体
特許法院
当事者
原告 A社(商標権者) vs 被告 個人B
事件番号
2019ホ1575及び2019ホ1582
言い渡し日
2019年07月12日
事件の経過
確定

概要

特許法院は、原告(商標権者)の本件登録商標サービスマーク(以下、「本件商標」という)が不使用により取り消されるべきか否かに関連し、本件商標の「図書貸出業」が図書を相手に貸与する役務を意味する点に照らしてみると、原告がインターネットを通じて書籍を販売したことは「インターネットを利用した図書貸出業」にあたるとは認められないと判断し(2019ホ1575)、また本件商標の「販売代行業」とは「他人の商品を代わりに第三者に販売するサービスを提供し、それに対する手数料を受け取る役務」を意味するので、原告がインターネットを通じて自らの書籍を販売したことは「インターネットを利用した電子書籍(E-BOOK)販売代行業」にあたるとは認められないと判断した(2019ホ1582)。

事実関係

被告は上記概要に記載の本件商標の指定役務に対しそれぞれ不使用取消審判を請求し、特許審判院はこれを全部認容した。

原告が本件商標と取引通念上同一又は同一性がある標章と主張する各実使用標章及びそれらと関連し使用された商品/役務は、下表のとおりである。

本件商標 実使用標章1 実使用標章2-1 実使用標章2-2 実使用標章3
ケトンイ ケトンイ家のマンガ喫茶 ケトンイ家の遊び場 ケトンイ新聞 町の本屋 ケトンイ家の本の遊び場
ケトンイ(※) ケトンイ家のマンガ喫茶 ケトンイ家の遊び場 ケトンイ新聞 町の本屋 ケトンイ家の本の遊び場
指定商品/役務:電子書籍(E-BOOK),インターネットを利用した電子書籍(E-BOOK)販売代行業、インターネットを利用した図書貸出業など 使用:書籍、電子書籍 使用:インターネットポストサイトの連載ウェブ漫画シリーズ物 使用:オンライン新聞シリーズ物 使用:書店、インターネットコミュニティサイト
※韓国語の「ケトンイ」を直訳すると「犬のフン」ではあるが、韓国語で「取るに足らないもの」をやや愛情を込めて呼ぶ言い方でもあるほか、昔は魔除けの意味から子供の名前にすることもあった。

判決内容

(1)関連法理

旧商標法第73条第1項第3号は「商標権者・専用使用権者又は通常使用権者のいずれもが正当な理由がないのに登録商標をその指定商品について取消審判の請求日前に継続して3年以上国内において使用していない場合」、審判によりその商標登録を取り消すことができるように規定している。ここで商標の「使用」とは、旧商標法第2条第1項第11号で規定している①商品又は商品の包装に商標を表示する行為、②商品又は商品の包装に商標を表示したものを譲渡し、若しくは引き渡し、又は譲渡若しくは引渡しの目的で展示・輸出若しくは輸入する行為、③商品に関する広告・定価表・取引書類・看板又は標札に商標を表示し、展示し、又は頒布する行為のうちいずれかに該当する行為をいう。また、登録商標の使用とは、登録商標と同一の商標を使用した場合をいい、類似の商標を使用した場合は含まれないが、同一の商標には登録商標それ自体だけでなく取引通念上登録商標と同一とみなすことができる形態の商標も含まれる。

(2)原告主張の要旨

(イ)原告は2015年から現在まで各種インターネットプラットフォームチャネルを通じて実使用標章1が付された書籍ないし電子書籍を販売し、電子書籍は出版と販売及び貸与が同時に一か所で行われ販売と貸与が事実上区別されないので、電子書籍の販売に関する証拠は、原告が本件商標の指定役務である「インターネットを利用した図書貸出業」と「インターネットを利用した電子書籍(E-BOOK)販売代行業」に使用した証拠になる。

(ロ)原告は実使用標章2-1が表示されたインターネットネイバーポストサイト(以下「本件ポスト」という)に連載ウェブ漫画をはじめとする各種シリーズ物を掲示したが、このような連載ウェブ漫画は電子書籍であり、電子書籍は閲覧と貸与が同時に一か所で行われ閲覧と貸与が事実上明確に区別されないため、連載ウェブ漫画が本件ポストに掲示され閲覧されたという証拠は、原告が本件商標の指定役務である「インターネットを利用した図書貸出業」と「インターネットを利用した電子書籍(E-BOOK)販売代行業」に使用した証拠になる。

(ハ)原告は本件ポストに実使用標章2-2を題名とするシリーズ物を掲示した。このシリーズ物は一種のオンライン新聞であり、新聞は図書の一種であり、このような新聞を掲載したという証拠は原告が本件商標の指定役務である「インターネットを利用した図書貸出業」と「インターネットを利用した電子書籍(E-BOOK)販売代行業」に使用した証拠になる。

(ニ)Cは原告から実使用標章3に関する使用許諾を受けて書店を運営し、Cが運営するネイバーコミュニティサイトで上記書店を紹介し、実際に図書を閲覧することができるようにしたので、実使用標章3は本件商標の通常使用権者であるCによって本件商標の指定役務である「インターネットを利用した図書貸出業」と「インターネットを利用した電子書籍(E-BOOK)販売代行業」に使用された証拠になる。

(ホ)インターネットポータルサイトのネイバーで本件商標「개똥이」を検索語として検索すると、原告が作成したネイバーポストの題名として「개똥이」標章(以下、「実使用標章4」という)が含まれた内容が検索されるが、これは実使用標章4が「サービスマークの広告行為」に使用されたことに該当する。

(3)原告主張に対する判断及び認定事実

(イ)原告は実使用標章1が表示された書籍が電子書籍化された旨を主張するが、アニメーションが製作されたことが認められるだけで、電子書籍化されたと認める証拠はないため、原告のこの主張は理由がない。

(ロ)原告は本件ポストに実使用標章2-1を表示して連載漫画を複数回掲示し、実使用標章2-2をシリーズ物の題名とする掲示文を多数掲示した。

(ハ)Cは原告から使用許諾を受けて実使用標章3を使用して図書を販売又は貸与するか、又は文化活動講座などを運営し、Cが管理すると思われるインターネットネイバーコミュニティサイトには実使用標章3が使用され、書店に関する説明が掲示されている。

(4)検討結果

(イ)「インターネットを利用した図書貸出業」は、インターネットを通じた貸出しの申請を受けて当該図書を、インターネットを通じてe-bookなどの形態で電子的に貸与するか、又は配達サービスを通じて有形物である図書を貸与し、同じ方法で貸与した図書を回収する方式で運営される役務を意味するというのが妥当であり、「インターネットを利用した電子書籍(E-BOOK)販売代行業」はインターネットを通じて他人の電子書籍を第三者に販売し、その手数料を受け取る役務を意味するというのが妥当である。したがって、原告がインターネットを通じて書籍を販売したとしても、これは自らの書籍を販売したものであるので、これをもって原告が取消対象指定役務である「インターネットを利用した図書貸出業」や「インターネットを利用した電子書籍(E-BOOK)販売代行業」を営んだと認めることはできない。

(ロ)本件ポストの訪問者がそこに掲示された連載漫画や文章を読むことはインターネット掲示物を単純に閲覧することに過ぎないので、これをもって原告が取消対象指定役務である「図書貸出業」又は「電子書籍販売代行業」を営んだと認めることはできない。

(ハ)Cが実使用標章3を使用して書店を運営して図書貸出業を営み、これと関連してインターネットコミュニティサイトに上記の書店を紹介する文章を掲示したとしても、そのような事情だけではCが「インターネットを利用した図書貸出業」や「インターネットを利用した電子書籍(E-BOOK)販売代行業」を営んだとは認められない。

(ニ)以上のとおり、原告側が本件審判請求日から3年前以内に韓国国内で取消対象指定役務を営んだことが認められない以上、さらに本件登録商標サービスマークと実使用標章が同一若しくは同一性が認められるか、実使用標章が原告側の営む取消対象指定役務の出所表示として使用されたものであるかを詳察するまでもなく、本件登録商標サービスマークは原告側によって本件審判請求日から3年前以内に韓国国内で取消対象指定役務に使用されたことが認められない。したがって、本件審決の取消しを求める原告の請求は理由がないためこれを棄却する。

専門家からのアドバイス

本件については、関連する訴訟及び審判事件がある。原告は2017年に被告が使用する商号「株式会社ケトンイネ」に対し侵害差止仮処分申立と損害賠償訴訟などを提起したが、侵害差止仮処分申立は一部のみ認容され、損害賠償訴訟は特許法院に係属中である。一方、本件商標は4区分にわたり39個の指定商品/役務を有していたところ、2018年に被告がこれらの指定商品/役務を複数に分けて計8件の不使用取消審判を請求した。その結果、現在の特許法院に係属中である1件を除いてはすべて登録取消が確定し、現在残っている指定商品/役務は6個である。

本件において商標権者の立場から、登録商標の使用などの商標管理の重要性を改めて考えてみたい。登録商標をその指定商品に使用するということは、取引社会の通念上これと同一と認めることができる商品に現実に使用することを言い、指定商品と類似の商品に使用したことだけでは、登録商標の指定商品への使用とは言えないという点を商標権者はしっかりと認識し留意する必要があろう。そして商標権者が実際に使用している商標については、その商標の使用証拠を収集及び管理しておいてこそ、その商標登録取消審判の請求に備えることができる。

一方、本件では、商標権者と対立した相手側の立場も参考となる。たとえば、商標権者が使用していない商標によって商標権侵害問題が提起される相手側は、不使用取消審判を積極的に活用する必要性が出てくる。この場合、かかる商標の指定商品/役務のすべてに対し不使用取消審判を請求する際に適用される関連法理に留意することが望ましい。すなわち、過去の大法院判決において、同時に複数の指定商品に対して商標登録取消審判が請求された場合には、審判請求対象である指定商品を不可分一体として扱って全体を一つの請求と見なし、指定商品のうち一つについて使用が立証された場合には、その審判請求は全体として認容されることができず、これにより使用が立証された指定商品についての審判請求のみを棄却し、残りの審判請求については認容しない、とされた判決がある(大法院2012年1月27日言渡し2011フ2916判決など参照)。本件で被告は、登録商標の指定商品/役務全部のすべてに対し不使用取消審判を請求せずに、指定商品/役務全部を1個ずつ又は数個ずつに分ける方法で計8件の不使用取消審判を請求するという方法を意図的に取ったものとみられ、こうした戦略も係争の際には参考にできよう。

ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム

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