知財判例データベース 特許発明が発明者による他社の職務発明に該当し、発明者と他社の間に予約承継契約が存在していたので、無権利者の出願として登録が無効であるとした事例
基本情報
- 区分
- 特許
- 判断主体
- 特許法院
- 当事者
- 原告A社 vs 被告B社
- 事件番号
- 2018ホ7217登録無効(特)
- 言い渡し日
- 2019年01月16日
- 事件の経過
- 上告審理不続行棄却(確定)
概要
特許法院は、関連証拠に照らし、本件特許発明(原告A社が権利者)がなされた当時、その発明者Cは被告B社の従業員の関係にあったと判断した上で、Cが本件特許発明をした行為は被告B社における現在または過去の職務範囲に属すると言うことができるので、本件特許発明は被告の職務発明に該当するとした。また、本件特許発明がなされた当時、被告B社とCの間に職務発明の予約承継に関する契約が存在していたので、被告B社が本件特許発明に係る特許を受けることができる権利を取得したものと判断し、原告A社が出願して登録された特許発明は、特許を受けることができる正当な権利者により出願されたものと言えず、その登録が無効とされるべきであると判断した。
事実関係
原告A社はCを発明者として「無脱皮電線継手コネクタ用ターミナル及びこれを有する電線継手コネクタ」を発明の名称とする特許発明を2015年9月24日に出願し、当該発明は2017年1月3日に特許として登録された。被告B社は2017年5月10日に原告を相手取って上記特許発明が被告の職務発明に該当し、有効な予約承継規定があるにもかかわらずCが被告B社に特許発明の完成事実を通知しないまま出願して登録を受けたとの理由により、特許法第33条第1項本文の規定によって無権利者の出願として無効とされるべきであるとする趣旨により登録無効審判を請求した。特許審判院は上記審判請求を認容する審決を下したが、原告はこれを不服として審決取消訴訟を提起した。
特許法院において原告A社は、①発明者Cが特許発明の出願以前である2015年1月19日に被告会社を退職したことにより、特許発明がなされた当時、被告の従業員や役員等の地位になく、②Cと被告会社の間に2014年11月13日に締結した「競争禁止及び秘密維持協約書」によると、Cが被告にその権利を移転する「予約承継発明」は職務発明としてCが被告会社に雇用されている間にした発明等に限定されることにより、退職した後の特許発明は職務発明及び予約承継に該当しないと主張した。
一方、被告会社は、①発明者Cは特許発明の出願日当時、被告の代表理事職は辞任したが、被告の法人登記簿謄本上、登記理事として登載されており、被告理事会の理事及び議長であり、被告技術部門の顧問としての地位を維持していたので、発明振興法第2条第2号により定めた従業員または役員等に該当し、②特許発明は被告会社の業務範囲に属し、特許発明をした行為はCの被告会社における過去または現在の職務に属し、③発明者Cと被告会社の間には予約承継に関する契約が存在すると主張した。
判決内容
特許法院は、本件の判断に先立って下記のような法理を説示した。
- 発明振興法第2条第2号は「従業員、法人の役員または公務員(以下「従業員等」という)がその職務について発明したものが性質上、使用者・法人または国家や地方自治体(以下「使用者等」という)の業務範囲に属し、その発明をした行為が従業員等の現在または過去の職務に属する発明」を職務発明と定義しており、同法第10条第1項、第12条及び第13条は「従業員等の職務発明について使用者等に特許等を受けることができる権利や特許権等を承継させる契約または勤務規定を作成した場合、従業員等が職務発明を完成したときは、遅滞なくその事実を使用者等に文書により知らせなければならず、使用者等(国家や地方自治体は除く)は、その発明に関する権利の承継如何を従業員等に文書により知らせなければならない」と定めている。
- ここで従業員とは、使用者と雇用契約その他の関係において他人の事務に従事する者を言い、民法上の雇用契約による従業員だけでなく、事実上の労務を提供する関係である場合を含み、雇用関係が継続的、計画的であることを要しない。発明振興法に規定された「従業員等」には、法人の役員も含まれ、役員は一般に「理事」以上の職級を有する者を言い、代表理事等も含まれる。「発明をした行為が従業員等の現在または過去の職務に属する」というのは、従業員等が担う職務内容と責任範囲から見て発明を企図してこれを成し遂げることが当然予定されているか、または期待されている場合を意味する(大法院1991年12月27日言渡91フ1113判決参照)。
- 特許を受けることができる権利は、発明の完成と同時に発明者に源泉的に帰属するが、これは財産権として譲渡性を有するので、契約または相続等を通じてその全部または一部の持分を移転することができ(旧特許法第37条第1項)、その権利を移転する契約は、明示的にはもちろん、黙示的にもなされ得る(大法院2012年12月27日言渡2011ダ67705、67712判決など参照)。
続いて、特許法院は、本件の3つの争点について次の通り判断した。
(1)本件特許発明の完成当時、発明者Cは被告の従業員等の地位にあった
被告会社の法人登記簿謄本によると、Cは2014年1月28日に被告の代表理事職を辞任したが、2014年11月19日に被告の臨時理事会において1年任期の被告の理事会議長として選出され、理事会議長として特別理事会を開催して多数の案件を決議したこともあり、理事会内部の委員会のうち技術部門の顧問として選任された。また、Cは2016年4月12日に自身を被告会社の社内理事であると主張し、被告会社の代表理事を相手取って職務執行停止仮処分訴訟を提起したこともある。従って、Cは、本件特許発明がなされたと主張する2015年1月19日から2015年9月24日の間に、被告会社の代表理事職を辞任して代表理事としての雇用関係のみが終了していただけで、被告会社の理事会の理事及び理事会内の技術顧問としての職位を維持し続け、被告会社の従業員等の関係にあったと言うのが妥当である。(2)Cが本件特許発明を発明した行為は被告会社における現在または過去の職務に属する
被告会社は、電線接続機の製造及び卸売・小売、電子商取引業等を営む会社であって、「特定のNon-Stripping(無脱皮)、マルチコネクション関連電気コネクタ」のメーカーなので、特許発明は被告会社の業務領域と関連した発明であると言うことができる。特許発明は明細書において先行技術文献として7つの特許文献を引用しているが、そのうち6つの特許文献は被告会社が所有していた登録特許であって、いずれもCを発明者として特許登録されたものである。被告会社はCが代表理事としての職を辞任した後である2014年1月以後、2016年9月まで「電線継手コネクタ」に関連した4件の発明を、Cを発明者として被告名義により出願したことがある。Cは本件特許発明がなされたと主張する2015年1月19日から2015年9月24日の間、被告会社の理事会内の技術顧問として被告会社の技術開発担当者と相互協力して被告会社の開発業務を支援する役割をすることになっていた。従って、本件特許発明は被告会社の業務範囲に属するだけでなく、Cが本件特許発明をした行為は、被告における現在または過去の職務に属すると言うのが妥当である。(3)発明者Cと被告の間に職務発明に関する予約承継契約が存在した
Cは被告B社の発行株式の49.6%を所有していたが、その一部を2014年11月13日にD社に売り渡す株式売買契約を締結した。この株式売買契約には「IP財産に関する全ての権利と所有権は被告に移転されて譲渡され、付与される」という内容がある。株式売買契約によって、2014年11月13日にC(売渡人)、D(買入人)及び被告B社の間に「競争禁止及び秘密維持協約」が締結されたが、当該協約にはCが被告会社に雇用されている間、被告会社の事業や製品と関連して創案した発明等に関する独占的な権利、名義等を被告会社に譲渡する旨の内容がある。また、2014年11月17日にCは被告会社に「Cが現在開発しているか、今後開発予定である電線コネクタ及び関連機器の全ての開発品について発生する特許権に係る全ての権利は被告にあることを認知し、被告の意思に反してこれを活用しないことに同意または合意する」という覚書を作成し、提出した。以上の事実や事情に照らし、「職務発明の予約承継に関する契約」が存在したと判断される。以上により特許法院は、特許発明は被告の職務発明に該当し、被告とCの間の職務発明の予約承継に関する契約が存在したことにより、被告が特許発明に係る特許を受けることができる権利を取得したと判断した上で、特許発明は特許を受けることができる正当な権利者により出願されたものと言えず、旧特許法第133条第1項第2号によってその登録が無効とされるべきであると判示した。
専門家からのアドバイス
韓国の特許法上、特許を受けることができる権利は、発明の完成と同時に発明者に源泉的に帰属することが原則である。しかし、職務発明の場合には、発明振興法により定めたところに従い、従業員等の職務発明を会社に事前承継するものとして内部規定を作成したり、使用者等と従業員等が別途契約を通じて職務発明の予約承継に関して定めておいたりすることができる。
本事案において特許法院は、上記に示した通り、発明者CとD社(株式買入人)の間で締結された被告B社の発行株式の売買契約及び関連協約や、発明者Cと被告B社の覚書の内容などに基づいて、Cと被告B社の間に職務発明に関する予約承継契約が存在したと判断した。本件においては、職務発明に関する予約承継契約が存在する場合の法理解釈自体に特別な事項はなかったものの、具体的な証拠に基づいて特許法院が認定した事実関係についての判断は、実務者にとって参考になると言えよう。
近年、韓国では職務発明の権利承継に関する紛争が増加している。こうした職務発明の権利帰属をめぐる争いを未然に防ぐためには、会社と従業員等の間で職務発明の帰属に関する契約を締結し、または内部規定等を作成する場合には権利承継要件等について明確に規定しておくことが望ましいと言える。
ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム
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