知財判例データベース 発明の完成についての判断において、必ずしも発明の説明中の具体的実施例に限定されて発明の効果達成が確認されなければならないわけではないとした事例

基本情報

区分
特許
判断主体
大法院
当事者
原告(審判請求人、被上告人) vs 被告(被審判請求人、上告人、特許権者)
事件番号
2017フ523登録無効(特)
言い渡し日
2019年01月17日
事件の経過
破棄差戻し

概要

発明が完成したか否かは請求の範囲を基準に出願当時の技術水準によって発明の説明に記載された発明の目的、構成、作用効果などを全体的に考慮して判断すべきであって、必ずしも発明の説明中の具体的実施例に限定されてこそ認められる、というものではない。

事実関係

被告は、「浸水時の漏電防止装置」に係る特許第1197414号の特許権者である。原告は、対象特許が未完成発明であり、各先行発明に比べて進歩性がないという理由で無効審判を請求した。特許審判院は、原告の請求を全て棄却する審決を下し、これに対して原告は特許法院に審決取消訴訟(原審)を提起した。審決取消訴訟の主な争点は、発明の完成についての判断であった。

対象特許は、従来の漏電防止用導電性金属板の構造を改善し、浸水時に漏電及び感電を防止しながらも漏電遮断器が作動しないようにして、負荷には正常な電力供給がなされるようにすることを作用効果とする発明である。対象特許の明細書には、漏電防止用導電性金属板の構造に関する4つの実施例が提示されている。

原告は、対象特許の明細書に記載された実施例に基づいて製作した検証物により発明の効果が達成されないという点を強調しながら、対象特許が未完成発明であると主張した。これに対して被告は、対象特許の実施例を多少変形した検証物から発明の効果が達成される点を提示しながら未完成発明ではないと反論した。原審の特許法院では、次の通り対象特許が未完成発明であると判断した。

特許法院の判断

「被告(特許権者)の検証試料1は、本件特許発明の明細書に開示された4つの実施例と相違するものである。従って、被告の検証試料1による実験の結果、漏洩電流が15mA以下であり、漏電遮断器が作動しないからといって、本件特許発明の技術的効果が達成されたことが立証されたとは言えない。むしろ、本件特許発明の実施例1, 2及び4によって製作した原告の検証試料を検証した結果、全ての場合において漏電遮断器が動作し、漏洩する電流は30mA以上だった。

ある特許発明が完成した発明であるという点を認めるために、明細書に開示された全ての実施例が例外なく特許発明の技術的効果を示さなくてならないわけではないとしても、少なくとも請求の範囲に記載された発明のいずれか1つに該当する場合においては、その目的とする技術的効果が達成されたことが証明されなければならない。先のとおり、本件特許発明の実施例として開示された漏電防止導電体の形状と規格は、本件特許発明の導出過程、発明の内容などを考慮すると技術的に非常に重要な意味を有するという点に照らし、本件特許発明を実施しようとする通常の技術者であれば、実施例を中心に繰り返し実施して発明の有効性を検証するはずであるが、本法院の検証結果でも、本件特許発明の実施例のうちいずれか一つに対しても本件特許発明の技術的効果が十分に示されることはなかった。結局、本件では、単に本件特許発明の明細書に記載された実施例と相違する検証試料により、本件特許発明で目的とする技術的効果が確認されたとしても、通常の技術者が本件特許発明で目的とする技術的効果を達成する可能性が明白なので、本件特許発明が完成したものと見られない。」

これに対して被告が上告を提起した。

判決内容

発明の属する分野で通常の技術者が反復実施することができ、発明が目的とする技術的効果の達成可能性を予想できる程度に具体的、客観的に構成されていれば、発明は完成されたと判断すべきである。発明が完成したかは、請求の範囲を基準に出願当時の技術水準によって発明の説明に記載された発明の目的、構成、作用効果などを全体的に考慮して判断すべきであり、必ずしも発明の説明中の具体的実施例に限定されてこそ認められるというものではない。

本件第1項の発明は、その請求の範囲に漏電防止導電体の形態について「連結端子台の側方の少なくとも一部、連結端子台の上方の少なくとも一部、連結端子台の側方及び上方それぞれの少なくとも一部のうち、少なくともいずれか一つを包囲する形態で第2連結端子の周辺に配置された漏電防止導電体を備えて」と記載されている。発明の説明には、「図5に記載されたように、2つの上部導体部の間を空けておくことも好ましいが、その2つの上部導体部の幅を若干狭めて作業空間が設けられれば、2つの上部導体部を連結して本体部上部を全部覆ってもかまわない」([43])、「漏電防止導電体は……その形状に特別な制限はない。第2連結端子周辺に、より広い面積の漏電防止導電体が配置されるほど漏洩電流の防止効果はさらに大きくなる」([49])、「図5の2つの上面導体部を連結して底導体部、側面導体部、そして上部導体部が第2連結端子を包囲しながら連結端子を一周する閉環構造に構成してもよい」([50])と記載されている。

したがって、被告の検証試料1は、本件第1項の発明の漏電防止導電体に含まれると言えるので、それに関する実験結果は、本件第1項の発明の効果を判断する根拠資料になり得る。原審が実施した被告の検証試料1に対する検証結果に示された漏洩電流数値と漏電遮断器が作動しなかった事情などを総合すれば、通常の技術者が本件第1項の発明の連結端子台及び漏電防止導電体が目的とする技術的効果を達成できるということを予想することができる。

それにもかかわらず、原審は被告の検証試料1が本件特許発明による漏電防止装置に該当せず、本件特許発明が完成した発明として認められるためには、本件特許発明の明細書に記載された実施例中で本件特許発明の技術的効果達成が確認されなければならないとの前提で、本件特許発明の明細書に記載された実施例によって製作された検証試料の検証結果から本件特許発明の技術的効果達成が確認されないなどの理由で本件特許発明が完成されたものとは言えないと判断した。このような原審判決には、未完成発明に関する法理等を誤解して、必要な審理を尽くさなかったことにより判決に影響を及ぼした誤りがある。

専門家からのアドバイス

大法院は本判決により、発明の完成についての判断において、必ずしも明細書に記載された実施例中のみで発明の効果達成が確認されなければならないというわけではない旨の法理を判示した。そして、対象特許の明細書上における様々な記載に照らしてみると、原審で被告が提示した検証試料1は、たとえ実施例と一致するものではないとしても明細書に記載された範囲に属するものと言うことができ、それに係る実験結果は本件特許発明の完成の判断根拠となり得るとしながら、特許法院の判断の誤りを指摘したのである。

本判決の内容に照らしてみると、今回の大法院判決は、明細書に何らのヒントもない変形例を事後的に主張しながら発明が完成されたと主張することまで容認されるという趣旨には拡張解釈できないものとも思料される。たとえば、今回の大法院判決の判示内容から考えるに、仮に対象特許の明細書に専ら4つの実施例のみ提示されていて、他の変形に関する例示や示唆が全くない状況であったとするならば、その4つの実施例中のいずれも発明の効果達成とならないことをもって、特許法院の判決(未完成発明)が破棄されずに維持されたという可能性もあり得たであろう。

したがって、実務上、明細書の作成時には単に発明を具現した実施例だけでなく、実施例をベースにした多様な変形の可能性まで記載しておくことが好ましく、こうした具体的ケースを示した判決として本判決は参考にできるであろう。

ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム

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