知財判例データベース 侵害被疑物を過去に生産していたが、現在は生産していない侵害被疑者について、積極的権利範囲確認審判での確認の利益の存在が認められた事例

基本情報

区分
特許
判断主体
特許法院
当事者
原告(被審判請求人) vs 被告(審判請求人、特許権者)
事件番号
2018ホ8418権利範囲確認(特)
言い渡し日
2019年07月11日
事件の経過
請求棄却/審決確定

概要

特許権者が侵害被疑者である被審判請求人に対して請求する積極的権利範囲確認審判では、特許権者が審判対象とした確認対象発明と被審判請求人が現実的に実施している発明とが互いに異なる場合には、確認の利益が認められない。ただし、被審判請求人が審決当時、確認対象発明を実施していないとしても、過去に実施したことがあって、将来再び実施する可能性がないと断定することができない場合には、確認の利益が認められる。

事実関係

被告(以下「請求人」)は、自転車などの折畳式ハンドルバーに係る特許第1290343号の特許権者である。原告(以下「被請求人」)は、請求人が実質的に運営するD社との契約関係に基づいて、当該特許を具現した製品(以下「確認対象発明」)を過去に生産したことがある。

請求人は被請求人を相手取って、確認対象発明が当該特許の権利範囲に属するという確認を求める審判を請求した。特許審判院は請求人の審判請求を認容する審決をした。これに対し、被請求人は特許法院に審決取消訴訟を提起し、「被請求人が過去に確認対象発明を実施したことはあるが、これは請求人が実質的に運営するD社との契約関係に基づいた正当な使用であり、上記契約関係が終了した後は確認対象発明を実施したことがなく、E社に自転車部門の事業を譲渡することによって、現在、被請求人の法人登記簿上事業目的から自転車部部門の事業が削除されている状態であり、D社と被請求人の侵害差止仮処分事件で被請求人が今後確認対象発明を実施しない旨の和解勧告決定が下されて既に確定しているので、被請求人が将来確認対象発明を実施する可能性は全くない。従って、本件審判請求の確認の利益は存在しないので、これと異なって判断した本件審決は取り消されるべきである」と主張した。

判決内容

積極的権利範囲確認審判で審判対象としている発明と、被審判請求人が現実的に実施している発明とが互いに異なる場合には確認の利益がないが、これは被審判請求人が実施してもいない物品が特許発明の権利範囲に属するという審決が確定するとしても、その審決は実際に被審判請求人が実施している物品に対しては何ら効力がないためである(大法院2003. 6. 10.言渡2002フ2419判決参照)。しかし、本件審決当時、被審判請求人である原告が確認対象発明を実施していなくても、原告が過去に確認対象発明を実施したことがあって、将来、確認対象発明を再び実施する可能性がないと断定できない場合には、審判請求人である被告はこのような原告を相手取って原告の確認対象発明が本件特許発明の保護範囲に属するか否かを確認するために権利範囲確認審判を請求する利益がある(大法院2004. 7. 22.言渡2003フ2836判決趣旨など参照)。

事実関係を総合すれば、次のような事情が認められる。
  1. 原告は、過去に確認対象発明を実施したことがある。
  2. 原告は、その後にE社に自転車部門の営業を譲渡したが、現在も、確認対象発明の実施に必要な部品協力企業に関する必要情報、確認対象発明の過去実施当時の完製品である自転車に使われていた商標に係る権利をそのまま保有しており、確認対象発明の実施に使用可能な部品の金型も相当数占有している。
  3. D社が原告とE社を相手取ってそれぞれ侵害差止仮処分を申請した関連事件において、D社の各侵害差止仮処分申請が大部分認容される趣旨で、原告との間では和解勧告の決定が、E社との間では調停がそれぞれなされた。ただし、E社との上記調停内容のうち、自転車部品の金型廃棄条項はその後執行場所(E社の本店所在地兼原告の自転車工場)に該当する金型が存在しないという理由で執行不能とされた。
  4. 一方、 E社は原告自ら認めるように、原告の会計上の損失を避けるために設立された会社であり、現在休業状態にあり、清算手続が進行中である。
  5. 本件訴訟で、当初原告は「確認対象発明の折畳式ハンドルバーを射出する金型を所有したこともなく、今も所有していない」、「2017. 7. 28.頃、自転車事業分野の全ての設備と製品をE社に譲渡した」と主張したが、2019. 5. 27.付準備書面を通じては、金型の一部は原告とJという企業が共有しており、確認対象発明の折畳式ダイキャスティング金型を含んだ他の一部金型は原告が占有していたが自ら廃棄した趣旨に陳述を変更したが、金型の廃棄についての客観的証拠方法は提出されなかった。

事情がこのようであれば、たとえ原告の法人登記簿上の事業目的から自転車関連目的が削除され、自転車事業部門の営業が一応譲渡され、当事者が相違する関連侵害差止仮処分事件が和解勧告決定または調停で一応終了していたとしても、過去に確認対象発明を実施したことがあり、現在、その実施に必要な金型の相当数、協力企業の関連情報、さらに自転車部門の営業譲渡にかかわらずその完製品(自転車)に使われていた商標権までそのまま保有している原告が確認対象発明を再度実施する可能性が全くないと断定することはできないといえ、特許権者である被告が本件特許発明の権利範囲を確認対象発明と比較し、その権利関係の確認を公的に求める利益も依然として存在すると判断するのが相当である。

専門家からのアドバイス

韓国において権利範囲確認審判は、確認対象発明(日本での「イ号発明」に相当)が特許発明の権利範囲に属するか否かの判断を簡易な手続で受けられるという点から活発に利用されている(韓国特許庁発行の2018年知識財産統計年報によると、2018年に請求された特許の権利範囲確認審判は計512件であり、件数として少なくない)。

こうした権利範囲確認審判における確認の利益とは、審判要件に該当するものであって、これを欠けば審判請求は却下されることになる。

本判決で判示されている確認の利益に関する法理自体は、既存の大法院判例で確立しているもので新しいものではなかったが、こうした確認の利益の存否についての具体的判断、すなわち被審判請求人が確認対象発明を再度実施する可能性が全くないとは断定できないとした結論に至るのに、法院がいかなる事実関係に基づいて判断したのかについて参考となる内容があろう。具体的に、本件において被審判請求人は確認対象発明と関連した事業を第三者に譲渡したと主張したのだが、依然として被審判請求人が確認対象発明の実施と関連した相当数の金型を保有している点や、協力企業に関する情報及び関連商標権を保有している点等に基づいて、法院は、被審判請求人が確認対象発明を再度実施する可能性が全くないとは断定できないと判断し、これにより特許権者が権利範囲確認審判を請求する確認の利益は否定されないと判断したのであった。

ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム

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