知財判例データベース 麻薬類管理法によって許可を受けた医薬品であっても、特許権の存続期間の延長登録が認められた事例

基本情報

区分
特許
判断主体
特許法院
当事者
原告A社(延長登録出願人) vs 被告特許庁長
事件番号
2018ホ2243拒絶決定(特)
言い渡し日
2019年07月05日
事件の経過
審決取消(確定)

概要

行政法規の解釈においては、文言の通常の意味を逸脱しない限り、その立法の趣旨と目的等を考慮した目的論的解釈が排除されるものではないことから、特許権存続期間の延長対象の意味を解釈するときにも、可能な限りその立法の趣旨と目的等を尊重し、それに符合するように解釈すべきある。このため特許法第89条第1項によって委任された特許法施行令第7条における延長登録出願の対象発明として、麻薬類管理法第18条及び第21条によって品目許可を受けなければならない麻薬類管理法第2条第3号ニ目に該当する向精神性医薬品の発明が規定されていなくても、当該規定による医薬品の発明も延長登録出願の対象発明に含まれると解釈できる旨の判決がなされた。

事実関係

原告は、有効成分を肥満または過体重患者の体重調節補助療法に使用する医薬品の麻薬類輸入品目許可のために385日が要されたことを理由に特許権の存続期間延長登録出願をした。特許庁の審査官は、延長登録対象医薬品は薬事法第31条第2項及び第3項または第42条第1項(以下「薬事法第31条等」と言う)によって品目許可を受けたのではなく、麻薬類管理に関する法律(以下「麻薬類管理法」と言う)によって品目許可を受けたので、特許法施行令第7条第1号(注1)の規定による医薬品の発明に該当せず、その特許発明の実施が特許法第89条第1項(注2)(以下、「委任条項」とも言う)の規定による許可を受ける必要があると認められないという意見を通知した。当該法の規定については脚注を参照されたい。

原告は、特許庁の審査官の意見通知に対し、上記特許法施行令の規定にかかわらず、特許権存続期間延長制度の目的及び趣旨を考慮してみると、麻薬類管理法によって品目許可を受けた本件医薬品は、特許権存続期間の延長対象に該当する発明であると主張した。これに対し、特許庁の審査官は、上記特許法施行令において麻薬類管理法によって許可を受けた医薬品は規定されていないので、本件医薬品は特許権存続期間の延長対象ではないという理由により延長登録出願を拒絶決定した。原告は、特許審判院の拒絶決定に対して不服審判を請求したが、同一の理由により棄却審決を受け、この審決について不服を申し立てる訴訟を提起した。

特許法院における審決の違法性に関する原告の主な主張を整理すると、次の通りである。①「品目許可」を受けるために必要な試験と手続、許可機関、所要期間等において薬事法で定めた一般的な医薬品と麻薬類管理法で定めた向精神性医薬品に何ら違いがない、②施行令の条項において麻薬類管理法による品目許可と関連した部分が規定されていないことは欠落または立法の不備による過誤に該当する、③麻薬類管理法による品目許可を延長対象から排除することは委任条項の委任範囲を逸脱するものであり、憲法第11条第1項の平等原則に違反し、原告の財産権及び営業の自由等が制限される等により違法である。

これについて、被告は、次のような理由により審決が違法でないと主張した。①麻薬類に対する許可は、有害であるか、または社会的に望ましくないものとして法令上原則的に禁止されているが、例外的にこのような禁止を解除して適法に許可できるようにする行政行為であるため、薬事法上の医薬品に対する許可とは異なり、各法による品目許可が全ての側面で同一の法的性質を有すると言うことができず、②特許権存続期間延長登録に関する行政処分は、第三者には延長された期間の間、その特許発明を自由に実施できる権利を制限する侵益的行政行為であり、侵益的行政行為の根拠になる行政法規は厳格に解釈・適用すべきであり、③特許法第89条による特許権の存続期間延長の可否は行政庁の裁量に属するので、許可等に必要な試験に長期間が要される発明であるからと言って無条件に特許権存続期間の延長対象になるものではなく、明示的に規定していない麻薬類管理法による発明は、存続期間の延長対象発明に該当せず、④本件施行令の条項が違憲・違法と判断されるとしても、「麻薬類に関する発明を含む」という改善立法がなされるまでは、特許権存続期間の延長申請をすることができないので、違憲かどうかが裁判の前提とはならないものである。

判決内容

特許法院は、委任条項(特許法第89条第1項)の解釈上、麻薬類管理法による品目許可が特許権存続期間の延長対象に該当するかに関する判断基準として、「行政法規の解釈において、文言の通常の意味を逸脱しない限り、その立法の趣旨と目的等を考慮した目的論的解釈が排除されるものではないので(大法院2007年9月20日言渡2006211590判決参照)、特許権存続期間の延長対象の意味を解釈するときも、可能な限りその立法の趣旨と目的等を尊重し、それに符合するように解釈することが妥当である(大法院2018年10月4日言渡2014237702判決参照)」という法理を提示した。その上で、下記のような理由を挙げ、延長対象特許発明には麻薬類管理法第18条及び第21条によって品目許可を受けなければならない麻薬類管理法第2条第3号ニ目に該当する向精神性医薬品の発明も含まれると解釈でき、施行令の条項が該当発明を規定していないことは立法の不備と言うことができると判断した。

(1)特許権存続期間延長制度の趣旨に鑑みると、薬事法と麻薬類管理法とによる品目許可は、いずれも活性・安全性等の試験を経て許可等を受ける過程においてその特許発明を実施できないという点で違いがなく、委任条項は許可または登録のために必要な活性・安定性等の試験に長期間が要される場合に特許権の存続期間を延長できるとしているだけで、麻薬類管理法第18条及び第21条により品目許可を受けなければならない向精神性医薬品を存続期間の延長対象から除外していない。

(2)委任条項は上位法令に規定された要件に合う特許発明の対象と要件を具体化するように下位法令に委任しているだけであって、「許可または登録の種類」またはその「他の法令の範囲」を定めるように委任したものではなく、本件委任条項において特許権存続期間の延長対象とした発明のうちの一部を排除することができる権限を委任したものではない。

(3)「本件医薬品に対する麻薬類管理法による品目許可」と「薬事法による品目許可」とは、その許可機関、提出書類、対象試験の種類と内容、所要期間等において本質的な違いがなく、この取り扱いを互いに異にしなければならない程度に本件医薬品に対して特許権存続期間延長制度の適用を排除または制限しなければならない公共の利益が大きいとは言い難い。従って、向精神性医薬品に対して存続期間延長を一切許容しなければ、憲法第11条第1項の平等原則に違反する差別に該当し得る。

(4)特に本件医薬品の場合、原告は最初に輸入品目許可を申請した当時は、薬事法による医薬品に該当し薬事法によって輸入品目許可を申請し、その後、麻薬類管理法施行令が一部改正され、本件医薬品の有効成分が麻薬類管理法第2条第3号ニ目の向精神性医薬品に指定され、このような事情の変化により、原告は本件医薬品に対して麻薬類管理法によって輸入品目許可を再度申請した。

(5)向精神性医薬品の指定は医薬品品目許可の前に指定されるのが一般的ではあるが、薬事法による医薬品品目許可を受けた後に向精神性医薬品に指定されたり、反対に品目許可当時は向精神性医薬品に指定され、その後に薬事法による一般医薬品に指定が変更されたりする場合もあり得るが、これらの取り扱いを異にする場合、医薬品製造業者(または輸入業者)間に不平等を招来し得る。

(6)特許権存続期間延長制度の導入過程及び変遷過程において、向精神性医薬品を特許権存続期間の延長対象から根本的に除外しようとする内容や論議はなかったと見られるので、立法者の意図が特許権存続期間の延長対象発明から麻薬類管理法による向精神性医薬品に関する発明をあえて排除したものであると言い難い。

以上のような理由を挙げ、特許法院は、麻薬類管理法によって品目許可を受けた医薬品が特許権存続期間の延長対象ではないとした特許審判院の審決は、委任条項の内容に反してなされたもので違法であると判断した。

専門家からのアドバイス

医薬品の発明については、発明の実施に規制当局の許可を要するので、その許可に要された期間だけ存続期間を延長する制度があり、韓国では、かかる特許権存続期間延長制度が1987年に導入されている。本制度の導入後、薬事法によって品目許可を受けた医薬品に関する発明は延長対象発明として存続期間の延長登録が認められてきたが、韓国では、麻薬類管理法による向精神性医薬品許可を受ける場合もあり、これについて本事案では果たして延長対象発明に該当するかが問題になった。 特許庁は特許法施行令第7条に明文上の根拠がないという理由を挙げて延長登録を拒絶したが、特許法院は委任条項(特許法第89条第1項)の趣旨に基づいて、特許法施行令第7条において麻薬類管理法による向精神性医薬品が延長対象から除外されていることを立法の不備であるとし、本件のような場合にも延長登録が可能であると判断した。

延長登録規定のように、特許法には行政法規の性格を有する規定も相当数存在する。本件の場合には、上位法令である特許法の目的論的解釈を通じて特許法施行令の立法の不備が認められて、向精神性医薬品などにかかる特許権の存続期間が延長される結果につながった点において実務的な意味のある判決であったと言える。

ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム

ジェトロ・ソウル事務所 知的財産チームは、韓国の知的財産に関する各種研究、情報の収集・分析・提供、関係者に対する助言や相談、広報啓発活動、取り締まりの支援などを行っています。各種問い合わせ、相談、訪問をご希望の方はご連絡ください。
担当者:大塚、柳(ユ)、李(イ)、半田
E-mail:kos-jetroipr@jetro.go.jp
Tel :+82-2-3210-0195