知財判例データベース デジタルタイムカプセルであるインターネットアーカイブからキャプチャした保存履歴を証拠資料として登録商標の使用有無を判断した事例

基本情報

区分
商標
判断主体
特許法院
当事者
原告 個人A(商標権者) vs 被告 B社
事件番号
2018ホ2137
言い渡し日
2019年04月25日
事件の経過
請求棄却(審決確定)

概要

原告は、本件登録商標「SOMMER 」の使用証拠として、原告が運営する「D」という商号の業者のホームページに本件登録商標が表記されている資料2件をキャプチャし、それぞれ提出した(http://E及びhttp://F)。これについて特許法院は、原告が提出した証拠資料をインターネットアーカイブを通して確認してみると、「http://E」の証拠資料には本件取消審判請求日から1年が経過した後の画面キャプチャが保存されているだけで、本件取消審判請求日前のホームページに対するキャプチャが保存された履歴が全くないため、本件取消審判請求日前に本件登録商標が表記されているホームページが実際に存在していたかを確認することができず、一方「http://F」証拠資料には本件登録商標が表記されていないことがわかり、かつホームページが過去のある時点で閉鎖されその内容を確認することができないため、当該2件の証拠資料は本件登録商標の使用証拠と認めるに不十分であると判断した。その他に原告が提出した各証拠資料も、本件取消審判請求日前3年以内に本件登録商標を使用した事実を認めることができないものに該当すると判断した。

事実関係

被告は原告を相手取り、特許審判院に本件登録商標が本件審判請求日前の3年間に使用されていなかったため、その登録が取消されるべきであるという理由で不使用取消審判を請求し、特許審判院は被告の請求を受け入れて本件登録商標の登録を取り消す審決をした。これに対し、原告は、審決取消訴訟を提起した。

判決内容

(1)関連法理

旧商標法第73条第1項第3号は、「商標権者・専用使用権者又は通常使用権者のいずれもが正当な理由がないのに登録商標をその指定商品に対して取消審判請求日前に継続して3年以上国内において使用していない場合」に、審判によってその商標登録を取消すことができると規定している。ここで商標の「使用」とは、旧商標法第2条第1項第11号で規定している(1)商品又は商品の包装に商標を表示する行為、(2)商品又は商品の包装に商標を表示したものを譲渡し、若しくは引き渡し、又はその目的で展示・輸出若しくは輸入する行為、(3)商品に関する広告・定価表・取引書類・看板又は標札に商標を表示し、展示し、又は頒布する行為のうち、いずれかに該当する行為をいう。また「登録商標の使用」とは登録商標と同一の商標を使用した場合をいい、類似商標を使用した場合は含まれないが、同一商標には登録商標そのものだけでなく取引通念上登録商標と同一とみなすことができる形態の商標も含まれる。

(2)具体的判断

次のような事実と事情を総合すると、原告が提出した証拠だけでは原告が本件取消審判請求日前3年以内に本件登録商標を使用していたと認めるに足らず、その他にこれを認める証拠がないため、原告の主張は受け入れることができない。
  1. 原告が運営する「D」という商号の業者のホームページ(http://E)をキャプチャして提出した甲第4号証には、その上段に本件登録商標が含まれている。ところが前記ホームページをキャプチャして保存したインターネットアーカイブ記録物からは、本件審判請求日(2016年6月30日)から1年が経過した後である2017年10月5日から、6回にわたりホームページ画面がキャプチャされ、そのまま保存されたことがわかるだけで、本件取消審判請求日前にはホームページに対するキャプチャ履歴が全くな いため、その時期に甲第4号証のようなホームページが実際に存在していたかを確認することができない。
  2. 原告が運営する「D」という商号の業者のホームページ(http://F)をキャプチャして提出した甲第5号証にも本件登録商標が表記されており、ホームページ上の「Notice & News」欄には本件取消審判請求日以前である2014年7月16日から2015年10月30日までに3件の掲示文が登録されている。ところがインターネットアーカイブ記録物にキャプチャされた当該ホームページの画面には本件登録商標が表記されておらず、このホームページが過去のある時点で閉鎖されその内容を確認することができない点を加味してみると、甲第5号証は本件登録商標が本件取消審判請求日前3年以内に使用されたと認めるには不十分である
  3. 甲第6号証は商品の写真であって、その外面には本件登録商標が表示されている。しかし当該各写真には撮影日が表示されていないため、本件取消審判請求日前3年以内に原告が本件登録商標を使用したことを確認することができない。
  4. 甲第7号証は被告が原告に発送した警告状で、その内容の一部には原告が本件登録商標を使用しているという文言も含まれている。しかし当該警告状の全体的な内容と趣旨は、原告が本件登録商標を被告との取引関係を利用して登録したことは不当であるという内容に過ぎないというだけでなく、上記の記載だけでは原告が本件登録商標を使用した時点を特定することができない点に照らしてみるとき、上記警告状だけで原告が本件取消審判請求日前3年以内に本件登録商標を使用した事実を認めることはできない。
  5. したがって、本件審決には原告が主張する違法があると言えず、本件審決の取消しを求める原告の本件請求は理由がないため、これを棄却する。

専門家からのアドバイス

特許やデザインの無効に関する韓国の法院判断に関連して、先行発明が特許発明の出願前に公知となったこと、或いは先行デザインがインターネット上で公知となったことを確認することができるアーカイブキャプチャ画面を証拠として採択した判決が多数ある。 これに対し、本件は商標の使用に関連し、登録商標がホームページで使用されていたかを確認するために(より正確には登録商標がホームページで使用されたという趣旨で提出された証拠の信憑性を判断するために)、アーカイブキャプチャが決定的な根拠として活用されたものである。結果として、登録商標の使用事実は認められなかったが、その立証のためにアーカイブキャプチャが活用されたという点で本判決を参考とする意味があると言えよう。

なお、インターネットアーカイブは、誰もがアクセスできるオンラインデジタル図書館を構築・維持している非営利団体であって、そのデータセンターではソフトウェアやウェブページなどの記録や映画などを保存しており、インターネットアーカイブで提供するウェイバックマシン機能を使ってあるサイトのドメインを入力すればその過去の時点の様子を知ることができるものである。特定のウェブページのアーカイブを知りたいときは「https://web.archive.org 外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」又は「https://web.archive.org 外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」に接続し、当該ウェブページのアドレスを入力すればその履歴が検索されるようになる。本判決のように、改ざんのない過去の時点の記録が提示されるという点で高い証拠価値を有するため、実務において必要な時に有用に活用することができる。

ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム

ジェトロ・ソウル事務所 知的財産チームは、韓国の知的財産に関する各種研究、情報の収集・分析・提供、関係者に対する助言や相談、広報啓発活動、取り締まりの支援などを行っています。各種問い合わせ、相談、訪問をご希望の方はご連絡ください。
担当者:大塚、李(イ)、半田(いずれも日本語可)
E-mail:kos-jetroipr@jetro.go.jp
Tel :+82-2-3210-0195