知財判例データベース 実用新案の進歩性の判断において、特許発明と同等の進歩性が要求されるものでないことを考慮して進歩性を認めた事例
基本情報
- 区分
- 実用
- 判断主体
- 特許法院
- 当事者
- 原告 A, B(無効審判請求人) vs 被告 C, D(実用新案権者)
- 事件番号
- 2018ホ6771登録無効(実)
- 言い渡し日
- 2019年04月18日
- 事件の経過
- 請求棄却/審決確定
概要
特許法と実用新案法の規定上、特許発明の進歩性は先行発明により「容易」に発明することができるものでなければ否定されないのに対し、実用新案の進歩性は先行考案により「極めて容易」に考案できるものでなければ否定されないとされる。しかし、具体的な事例において、こうした両者の進歩性認定基準の違いについて明示的に言及しながら実用新案の進歩性の判断をした判決は稀である。本判決は、実用新案制度の趣旨を考慮し、考案の進歩性を判断するにおいて特許と同等の物差しを適用してはならない点を明示的に判示した。
事実関係

対象考案

先行考案1
主引用考案である先行考案1は、対象考案の取っ手(120)、係止具(130)、係止具操作手段(140)にそれぞれ該当する把持部(2j)、係止ピン(2ℓ)、操作ボタン(2k)を開示する。ただし、先行考案1には対象考案のガイド棒(150)に該当する構成が明示されていないという点で差異がある。
上記差異と関連して提出された副引用考案である先行考案2には、カメラ(5)をステーション(11)に固定するために、ステーション(11)には、円柱状の案内レール(61, 62)を配置し、カメラ(5)の対応する位置には、上記案内レールが貫通する貫通孔(図面符号省略)を形成した構成が開示されている。
判決内容
発明の進歩性の有無を判断するときには、少なくとも先行技術の範囲と内容、進歩性判断の対象になった発明と先行技術の差異と通常の技術者の技術水準について証拠など記録に示された資料に基づいて把握した後、通常の技術者が特許出願当時の技術水準に照らして進歩性判断の対象になった発明が先行技術と差異があるにもかかわらず、そのような差異を克服して先行技術から容易に発明できるかを詳察すべきである。この場合、進歩性判断の対象になった発明の明細書に開示されている技術を知っていることを前提に事後的に通常の技術者が容易に発明できるかを判断してはならず(大法院2018.12.13.言渡2016フ1840判決など参照)、このような法理は、特許と同様に技術的思想の創作を保護するための実用新案における考案の進歩性の判断にも同一に適用される。また、実用新案制度は、革新の精度面で特許の対象になる発明には及ばないものの、従来技術に比べて改善された技術思想の創作を法的に保護することによって、いわゆる「小発明」を奨励するための制度である。従って、このような制度の趣旨を考慮して考案の進歩性を判断するにおいて特許と同等の物差しを適用してはならないものであり、そのような技術的思想を創作することが通常の技術者に非常に容易な程度を超えるならば、それに関する進歩性を否定してはならないものである。
先行考案1でX線センサユニットを正確な位置に案内し、これを支持するのはX線撮影装置に配置された引出し形状の検出器ガイド(51b)であるが、X線センサユニットが上記検出器ガイド(51b)に収納されることによってX線センサ装置が結合可能な位置に案内され、且つ結合された後にX線センサ装置を支持するようになるものである。従って、先行考案1では正確な位置に案内するという点でその機能が検出器ガイド(51b)と重複する、本件考案のガイド棒とガイド溝のような部材をあえて配置する必要性はなく、むしろ、ここにガイド棒とガイド溝を配置することは引出し形状の検出器ガイド(51b)と、X線センサ装置がここに挿入される形態で案内及び支持するという先行考案1の教示にも反するものである。従って、通常の技術者が先行考案1から本件考案のガイド溝及びガイド棒という構成要素を導き出したり、これを先行考案1の係止ピン及び係止溝からなる結合手段と結合することは容易であるとはいえない。
先行考案2の案内レールと貫通溝は、本件考案のガイド棒とガイド溝に対応する部材として、被結合部材(カメラ, X線センサ装置)を正確な結合位置に案内するという点では共通の機能を有するが、先行考案2には、本件考案の係止具及び係止具操作手段が欠如していることが明確である。
さらに、通常の技術者が、先行考案2を参照して先行考案2のガイドレールと貫通溝という機械的固定手段を先行考案1に導入することを検討するか否かについて検討する。
先に見たとおり、先行考案1では、X線センサユニットをX線撮影装置に結合するにおいてその位置を決めるために、X線撮影装置に引出し形状の検出器ガイド(51b)を配置し、X線センサユニットをこのような検出器ガイド(51b)に嵌められる方式で結合するという点は先に見たとおりであり、このような結合方式がいかなる短所や改善の余地があるという点は先行考案1に開示も示唆もされておらず、むしろ先行考案1が採択しているこのような方式は安定的に位置を決めて脱着の便宜を提供するというそれなりの長所を発揮していると言える。従って、通常の技術者が先行考案2が採択しているガイドレールと貫通溝からなる機械的固定手段を認識したとしても、これを参考にして先行考案1に機械的固定手段を導入するための変形を検討するであろうと期待することは難しいと判断される(進歩性認定)。
専門家からのアドバイス
一般的に実用新案に要求される進歩性の程度が特許発明に比べて低いという点は明確であるといえるが、具体的な事案において、これについての明示的な判示をした審決や判決を目にすることは、ほとんどない。こうした中、本判決で示された関連法理に関する判示内容は合理的なものと言え、今後、実用新案の進歩性が争点になるときにはしばしば引用される可能性があると思われる。
ただし、本判決は、上記の関連法理が当該事案の中で進歩性の判断に具体的にいかに適用されたのかについて必ずしも明確であったとはいえない。したがって、本判決を契機として今後判例が蓄積されていけば関連法理がより明確になることも期待できよう。
参考までに、韓国では、実用新案登録出願に対して形式的要件のみを審査する事実上の無審査主義を採用した時期もひと時あったが、2006年10月1日以後の出願については特許出願と同じく審査手続を経て登録の可否を決定している。現行の実用新案制度は特許と比較して権利存続期間に違いがあるものの(特許は出願日から20年、実用新案は出願日から10年)、侵害差止請求や損害賠償請求等の権利行使の側面ではほとんど違いがない。したがって、こうした韓国の実用新案制度の特徴を踏まえた上で、ライフサイクルが短い製品についての考案や、進歩性の程度が多少低いような考案の場合に、積極的に実用新案登録出願の活用を図ることも検討する価値があると言えよう。
ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム
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