知財判例データベース 国際段階の出願書に添付された図面の一部が国内段階移行時に欠落しても訂正審判により追加することができるとした事例
基本情報
- 区分
- 特許
- 判断主体
- 特許法院
- 当事者
- 原告A社(特許権者) vs 被告特許庁長
- 事件番号
- 2018ホ5426登録訂正
- 言い渡し日
- 2018年11月20日
- 事件の経過
- 審決取消(確定)
概要
国際出願日に提出された図面中の説明部分を除いた部分は、特許出願の出願書に最初に添付された図面と言うことができるので、韓国語翻訳文提出時に一部図面が欠落して特許公報に掲載されなかったとしても、国際出願日に提出された図面を訂正要件の判断基準になる特許発明の図面と認めて、これにより韓国語翻訳文提出時に欠落した図面を追加する訂正は適法である。
事実関係
原告は、2014年3月26日に「滅菌連結/分離カップリング及び方法」を発明の名称とする発明について英語で国際特許出願をすると共に、出願書に明細書、請求の範囲、図面(図1~図26c)及び抄録を添付して提出した。上記国際特許出願書に添付された図面には「FIG.1」のような図面符号が記載されているだけで、図面の説明は記載されていなかった。その後、原告は、2015年10月16日に上記国際特許出願日に提出した明細書、請求の範囲、図面及び要約書の韓国語翻訳文を特許庁長に提出したが、図面の韓国語翻訳文には「FIG.1」を「図1」として図面番号を翻訳する以外には国際特許出願書に添付された図面の図示事項をそのまま記載するものとしながら、図1~16のみを含め、図17~図26cは含めなかった。上記発明は2017年5月31日に特許決定され、登録公報には図面のうち図1~16が掲載された。
原告は2017年12月27日に訂正審判を請求し、訂正事項3として国際特許出願の翻訳文提出時に欠落した図17~図26cを追加する訂正事項を含めた。特許審判院は、訂正事項3は本件特許発明の明細書又は図面に明示的に記載された事項ではなく、この技術分野において通常の知識を有する者にとって、そのような記載があるのに等しいと明確に理解することができる自明な事項にも該当しない等の理由を挙げ、2018年6月1日に原告の訂正審判請求を棄却する審決をした。
原告は特許法院に審決取消訴訟を提起した。審決取消訴訟において原告は、旧特許法第201条に基づいて翻訳が物理的に不可能な図面は出願翻訳文の提出対象ではなく、国際出願書に添付された図面のうち図17~図26cの記載内容、及び韓国語翻訳文提出時に提出された明細書と図面の説明に記載された内容を総合すれば、通常の技術者が図17~図26cの記載内容を明確に理解することができるので、訂正事項3は特許発明の明細書又は図面に記載された事項の範囲内のものであると主張した。
これに対し、被告は、外国語国際出願の国内段階移行時の翻訳文には図1~図16しか含まれていなかったにもかかわらず、欠落した図面を追加する補正なしに図17~図26cが欠落したまま登録特許公報に公告されたとし、訂正審判請求による図面の訂正は特許発明の明細書又は図面に記載された事項の範囲においてできるが、このときの特許発明の明細書又は図面とは登録特許公報に公告された明細書又は図面を言うので、登録特許公報に欠落した図17~図26cを追加する訂正事項3は、訂正要件を満たさないと主張した。
判決内容
特許法院は、特許審判院とは異なり、訂正事項3は特許発明の図面に記載された事項の範囲内における訂正に該当するので、適法な訂正であると判断した。
特許法院はまず関連法理について下記の通り説示した。
「旧特許法第42条第2項、第201条第1項、第4項、第6項によると、国際特許出願を外国語で出願した出願人は、国内書面提出期間内に国際出願日に提出した明細書、請求の範囲、図面(図面中の説明部分に限る)及び要約書の韓国語翻訳文を特許庁長に提出しなければならず、上記明細書、請求の範囲、図面(図面中の説明部分に限る)及び要約書の韓国語翻訳文は特許出願書に添付して提出された明細書、図面及び要約書とみなされ、もし上記期間内に韓国語翻訳文を提出しない場合、国際出願日に提出された国際特許出願の明細書及び請求の範囲に記載されていないものとみなすか、図面中の説明がなかったものとみなされる。旧特許法第202条第2項、第208条第3項は、国際特許出願の場合、国際出願日に提出された国際出願の明細書、請求の範囲又は図面(図面中の説明部分に限る)及び国内書面提出期間内に提出された上記書類の韓国語翻訳文又は国際出願日に提出された国際出願の図面(図面中の説明部分を除く)を特許出願の出願書に最初に添付された明細書又は図面とすると規定している。
上記関係規定を総合して詳察したところ、国際特許出願を外国語で出願した出願人が国内書面提出期間内に特許庁長に提出しなければならない韓国語翻訳文は、国際出願日に提出した明細書、請求の範囲、図面中の説明部分及び要約書の韓国語翻訳文であると限定的に列挙されており、国際出願日に提出した図面中の説明部分を除いた部分は、韓国語翻訳文の提出対象として規定されていない。従って、もし国際特許出願を外国語で出願した出願人が国際出願日に提出した図面中の説明部分の韓国語翻訳文を提出しなかったならば、図面中の説明がなかったものとみなされるが、図面中の説明部分を除いた部分の韓国語翻訳文を提出しなかったとしても、これを記載されていないものとみなす規定がなく、かつ国際特許出願を外国語で出願した出願人が翻訳文を提出しなければならない書類から図面中の説明部分を除いた部分が除外されている点[注1] を考慮すると、国際出願日に提出した図面中の説明部分を除いた部分は、国際特許出願の出願書に最初に添付された図面に記載されたものであると言うのが相当である」
上記のような関連法理の説示後に、特許法院は、本件の場合、図面の図1~図26cは韓国語翻訳文の提出が必要な図面の説明部分が記載されていないので、本件特許発明の国際出願日に提出した図面の図1~図26cは、特許出願の出願書に最初に添付された図面に記載されたものと言うことができるとした。さらに、原告が国内書面提出期間内に提出した図1~図16の韓国語翻訳文は、国際出願日に提出した図面を自ら補正したものと言うことができるとし、特許発明の出願書に最初に添付された図面に記載された事項は、国際出願日に提出した図面の図17~図26cと上記韓国語翻訳文に記載された図1~図16を合わせたものであると言うのが妥当であると判断した。
一方、旧特許法施行令第19条第2項によると、登録公告用特許公報には特許出願書に添付された図面を掲載するものと規定されており、本件の場合、審査過程において図面の補正がなかったので、本件特許発明の登録公告時に特許公報に掲載されるべき図面は、出願書に最初に添付された図面でなければならないが、韓国語翻訳文が提出された図1~16しか掲載されなかったという点と関連し、特許法院は「登録公告は、特許権の設定を一般公衆に公示することにより権利の安定を図り、第三者に対する不測の損害を防止し、登録公告日以後、設定登録日から3月以内に特許発明に無効事由がある場合、誰でも無効審判を請求できるようにするために行われるもので、特許権の設定、変更、消滅等とは何らの関係もないので、本件特許発明の登録公告用特許公報に韓国語翻訳文が提出された図1~16しか掲載されなかったとしても、本件特許発明の図面は、上記のように出願書に最初に添付された図面、即ち国際出願日に提出した図面の図17~図26cと韓国語翻訳文に記載された図1~図16を合わせたものであると言うのが妥当である」とし、本件において訂正要件の判断基準になる図面は、特許公報に掲載された図面ではなく、出願書に最初に添付された図面であると判断した。
専門家からのアドバイス
本件では、外国語国際出願以後の国内段階移行時に韓国語翻訳文として図面の一部が欠落した結果、当該図面が欠落したままで特許公報が発行されたところ、訂正審判により欠落した図面の追加が可能か否かが争点となった。
この点に関連し、特許審判院は、上記「特許発明の図面」とは特許公報に掲載された図面を意味するので、特許公報に欠落している図面を追加する訂正は許容されないと厳格に判断した。これに対し特許法院は、特許法の関連規定上、韓国語翻訳文の提出対象が限定的に列挙されていることを指摘しながら、上記「特許発明の図面」とは特許公報に掲載された図面ではなく出願書に最初に添付された図面と言うべきであって、特許公報に欠落している図面を追加する訂正審判が認められるべきであると判断した。すなわち本件では、説明部分がない図面が韓国語翻訳文の提出時に欠落したとしても出願書に最初に添付された図面と認められることとされ、その後の審査過程において当該図面の補正もなかったことから、結局、出願書に最初に添付された図面が訂正要件の判断基準としての特許発明の図面とされたのである。
こうした特許法院による本判決は、特許法の関連規定をいかに解釈するかという、いささか特許制度の細部が争点になったといえるものではある。韓国出願の実務の上では、外国語国際出願を利用して韓国へ国内移行し、その後に特許登録がされた場合、図面の訂正範囲がどこまで許容されるかを示す先例としての意味がある判決であったと言えよう。
注記
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判決文中では「翻訳文を提出しなければならない書類から図面の説明部分が除外されている」と記載されていたが、この後半部分は誤記であると考えられ「...図面中の説明部分を除いた部分が除外されている」に修正した。
ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム
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