知財判例データベース 方法の発明を実質的に具現した物が譲渡された場合に特許権の消尽が認められることを示した大法院判決
基本情報
- 区分
- 特許
- 判断主体
- 大法院
- 当事者
- 原告A社(特許権者) vs 被告B社及びその代表理事
- 事件番号
- 2017ダ289903損害賠償
- 言い渡し日
- 2019年01月31日
- 事件の経過
- 上告棄却(原審確定)
概要
「物を生産する方法の発明」を含む「方法の発明」に係る特許権者又は特許権者から許諾を受けた実施権者が、韓国でその特許方法の使用に用いられる物を適法に譲渡した場合であって、その物が方法の発明を実質的に具現したものであれば、その方法の発明に係る特許権は既に目的を達成して消尽されたといえるので、譲受人等がその物を用いて方法の発明を実施する行為に対して特許権の効力は及ばない。
事実関係
原告は、発明の名称が「摩擦移動溶接方法及び摩擦移動溶接用プローブ」である特許発明の特許権者である。原告と参加人は特許発明を実施するのに適した装備を製造・販売できるようにする実施権設定契約を2006年12月18日に締結した。被告B社は参加人から2008年5月15日に第1溶接機を、2013年4月11日に第2溶接機を購入して使用した。原告は、被告らが特許権を侵害したという理由に基づき2008年5月15日から特許権存続期間の満了日付近である2014年12月31日までの特許発明の実施料に相当する額の支払いを請求した。これに対し被告は、特許権者である原告が参加人に本件溶接機の製作・販売を許諾し、被告の会社はこのような参加人から溶接機を購入したので、原告の特許権は消尽し、従って被告の会社が本件溶接機を用いて特許発明を実施する行為は特許権侵害に該当しないと主張した。1審の地方法院、2審の特許法院、3審の大法院のいずれも被告らの特許権消尽の抗弁を受け入れ、原告の損害賠償請求を棄却した。
判決内容
大法院は、まず「物の発明に係る特許権者又は特許権者から許諾を受けた実施権者(以下「特許権者等」という)が韓国でその特許発明が具現された物を適法に譲渡すれば、譲渡された当該物に対しては、特許権が既に目的を達成して消尽される。」と判示し、物の発明の特許権の消尽に関する既存の法理を確認した後、「『物を生産する方法の発明』を含む『方法の発明』(以下併せて「方法の発明」という)に係る特許権者等が韓国でその特許方法の使用に用いられる物を適法に譲渡した場合であって、その物が方法の発明を実質的に具現したものであれば、方法の発明の特許権は既に目的を達成して消尽されたといえるので、譲受人等がその物を利用して方法の発明を実施する行為に対して特許権の効力が及ばない。」とし、方法の発明の特許権の消尽に関する法理を判示した。
続いて大法院は、方法の発明を実質的に具現した物が譲渡された場合、特許権の消尽が認められる理由を下記の通り説示した。
「方法の発明もそのような方法を実施できる装置によって物に特許発明を実質的に具現することが可能であるが、方法の発明が実質的に具現された物を特許権者等から適法に譲り受けた譲受人等がその物を用いて方法の発明を実施する度に特許権者等の許諾を受けなければならないのであれば、その物の自由な流通及び取引の安全性を損なうことがある。また、特許権者は、特許法第127条第2号によって方法の発明の実施にのみ使用される物を譲渡する権利を事実上独占している以上、譲受人等がその物に方法の発明を使用することを予想してその物の譲渡価格又は実施権者に対する実施料を決定できるので、特許発明の実施対価を確保できる機会も与えられている。その上、物の発明と方法の発明は実質的に同一の発明である場合が少なくなく、その場合、特許権者は必要に応じて特許請求項を物の発明又は方法の発明として作成することができるので、方法の発明を特許権の消尽対象から除く合理的な理由がない。むしろ方法の発明を一律的に特許権の消尽対象から除くならば、特許権者は特許請求項に方法の発明を挿入することによって特許権の消尽を容易に回避できるようになる。」
また、大法院は「ある物が方法の発明を実質的に具現したかどうかは、社会通念上認められるその物の本来の用途が方法の発明の実施のみであって他の用途はないかどうか、その物に方法の発明特有の解決手段の根拠となっている技術思想の核心に該当する構成要素が全て含まれているかどうか、その物を通じてなされる工程が方法の発明の全工程で占める割合など、上述した各要素を総合的に考慮し、事案に応じて具体的・個別に判断しなければならない。」と判示した。
以上の判断基準に基づいて、本件では下記の事情を挙げて特許権の消尽が認められると判断した特許法院の判断を、大法院は支持した。
- 本件溶接機の本来の用途は、本件特許発明を実施することだけで、社会通念上通常用いられて承認され得る経済的、商業的又は実用的な他の用途が存在するとは言い難い。
- 本件溶接機を通じてなされる溶接工程は、本件特許発明の全工程に亘っており、本件各溶接機のプローブ及びプローブピンが本件特許発明で限定した形状及び傾きをいずれも備えており、本件溶接機が特許発明によって達成される作用効果を示すので、本件各溶接機は本件特許発明特有の解決手段が根拠とする技術思想の核心に該当する構成要素を全て含むものと言える。
- 原告と参加人との間の実施契約により、原告は特許発明を実施するのに適した装備を製造・販売する権限を明示的に付与したので、参加人が被告の会社に溶接機を販売したことは特許権者である原告の許諾のもとになされた適法な譲渡に該当する。
専門家からのアドバイス
過去に大法院は、物の発明に対して、特許発明が具現された物を適法に譲渡した場合、譲渡された当該物の製品に対しては特許権が既に目的を達成して消尽されたといえるので譲受人や転得者がその物の発明の製品を使用、譲渡又は貸渡し等をする行為などに対して特許権の効力が及ばないとして特許権の消尽を認めている(大法院2003年4月11日言渡2002ド3445判決等)。
こうした過去の大法院の判決では、方法の発明に対して特許権の消尽が認められるか否かについて明示的に判断されていなかった。こうした中、本判決は、大法院が方法の発明に係る特許権の場合にも特許権の消尽が認められ得る点を明確にした上で、その認定の根拠及び判断基準をも提示したという点で意味がある。
ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム
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