知財判例データベース ゲームの主要な構成要素の選択・配列・組み合わせにより先行ゲームと区別される創作的個性を備えているため、著作物として保護対象になるとされた事例

基本情報

区分
著作権
判断主体
大法院
当事者
原告、上告人A社 vs 被告、被上告人B社
事件番号
2017ダ212095
言い渡し日
2019年06月27日
事件の経過
ソウル高等法院2019ナ2029356(和解勧告決定)2020年4月23日確定

概要

大法院は、原告ゲームは、開発者が過去に蓄積されたゲーム開発経験及び知識に基づいてゲームの性格に照らし必要と判断される要素を選択し独自の製作意図によって配列・組み合わせたものであって、個別の構成要素の創作性が認められるか否かとは別個に、特定の製作意図とシナリオによって技術的に具現された主要な構成要素が選択・配列されて有機的な組み合わせをなして先行ゲームと明確に区別される創作的個性を備えているため、著作物として保護対象になり得ると判断した。その上で、被告ゲームは、原告ゲームの製作意図とシナリオが技術的に具現された主要な構成要素の選択・配列及び有機的な組み合わせによる創作的表現形式をそのまま含んでいるので、両ゲームは実質的に類似すると認めることができると判示し、これと異なる判断をした原審を破棄差戻しとした。

事実関係

第一審であるソウル中央地方法院は、(1)著作権の側面では、原告ゲームと被告ゲームのうち重複するゲーム規則部分は著作権の保護対象に該当せず、これを除いて著作権の保護対象になる具体的な表現部分もまた実質的に類似しないので、被告ゲームが原告ゲームの著作権を侵害しないと判断した。ただし、その一方で(2)不正競争行為の側面では、被告の行為は不正競争行為および民法第750条で定める不法行為に該当するとして判決したものであった。

第二審であるソウル高等法院は、(1)著作権の側面では、ゲーム規則は著作権の保護対象に該当せず、これを除いた残りの部分について、被告ゲームはゲームキャラクターなどを原告ゲームとは異なるように表現することによりその表現形式が相当に相違するため原告ゲームと被告ゲームは実質的に類似するとはいえず、原告ゲームに関する複製権及び二次的著作物作成権、公衆送信権などを侵害したとは認められないと判断した。また、(2)不正競争行為の側面でも、被告の行為は原告の著作権を侵害しない限りは原則的に許される行為として、それが商道徳や公正な競争秩序に反して明白な不法行為に該当するとも、公正な商取引慣行や競争秩序に反するとは認められないと判断して原告の請求を棄却する判決を言渡した。

判決内容

(1)関連法理

ゲームは著作者の製作意図とシナリオを技術的に具現する過程で多様な構成要素を選択・配列して組み合わせることにより、他のゲームと明確に区別される特徴や個性が表れ得る。したがってゲームの創作性有無を判断する際は、ゲームを構成する各構成要素それぞれの創作性を考慮することはもちろんのこと、構成要素が一定の製作意図とシナリオによって技術的に具現される過程で選択・配列され組み合わされることによって全体的に一体感を持ち、そのゲーム自体が他のゲームと区別される創作的個性を有し著作物として保護を受ける程度に至ったかどうかについても考慮しなければならない。

(2)具体的判断

  1. 上記の法理と次のような事情を総合してみると、原告ゲームは先行ゲームと区別される創作的個性を備えているため、著作物として保護対象となることができる。
    1. 原告ゲームはゲームの中の特定のタイルが3個以上の直線でつながると同時に消え、その数だけ当該タイルの点数を獲得する方法であって、各段階ごとに与えられる目標タイル数に達するようにするマッチ3ゲーム(match-3-game)の形を取っている。過去にも多様な形態のマッチ3ゲームが存在したが、原告ゲームは果物、野菜、豆、太陽、種、水滴などを形状化した基本キャラクターを中心に、妨害キャラクターにはニンジンを食べるうさぎ、戦闘レベルの悪者キャラクターにはたぬきを形状化したキャラクターを使用して、「農場(Farm)」を一体感があるように表現したゲームという点で、従来のゲームと区別される特徴がある。
    2. 原告ゲームは基本ボーナス規則、追加ボーナス規則を基本とし、ヒーローモード、戦闘レベル、卵集め規則、特殊マス規則、バケツ規則、種と水滴規則、妨害規則などを段階別に順次導入した。このように導入された規則により、原告ゲームを進行しながら達成しなければならない目標の数や種類が多様化するので、使用者は妨害になる要因を除去又は回避しながらゲームで定めた目標を達成する過程で新しい楽しさと新鮮味を感じるようになる。原告ゲームは各段階別に目標を達成しなければならない方式であるが、前段階で追加された特殊規則がその後の段階で追加・変更されたり、他の規則と組み合わされて新たな難易度を作り出すため、ゲームの展開と表現形式に影響を及ぼすようになる。
    3. 原告ゲームは小さなスマートフォンの画面で効果的にゲーム内容を具現しながら使用者が簡単に面白くゲームできるように、立体感のある多様な要素を結合して表現した。
    4. 原告ゲームの開発者が過去に蓄積されたゲーム開発経験及び知識に基づいて、原告ゲームの性格に照らして必要と判断される要素を選択して独自の製作意図により配列・組み合わせることによって、原告ゲームは、個別の構成要素の創作性が認められるか否かとは別個に、特定の製作意図とシナリオによって技術的に具現された主要な構成要素が選択・配列されて有機的な組み合わせをなし、先行ゲームと明確に区別される創作的個性を有するに至った。
  2. 次のような事情を総合してみれば、被告ゲームは原告ゲームの製作意図とシナリオが技術的に具現された主要な構成要素の選択と配列及び有機的な組み合わせによる創作的な表現形式をそのまま含んでいるので、両ゲームは実質的に類似すると認めることができる。
    1. 被告ゲームは原告ゲームと同じ順序で規則などを段階的に導入し、原告ゲームの製作意図とシナリオによって技術的に具現された主要な構成要素の選択と配列及び組み合わせをそのまま使用した。
    2. 被告ゲームは原告ゲームが採択した規則などでの展開と表現形式をそのまま使用、又はキャラクターのみを変えて使用した。結局、被告ゲームは使用者に原告ゲームからキャラクターのみが変わったという印象を与えている。
    3. 被告ゲームは原告ゲームにはない構成要素を一部追加した。しかしこのような構成要素は、ゲームの主な進行とは直接関連がない報償方式に関するもので、被告ゲームに占める質的又は量的比重が非常に小さい。また被告ゲームに適用された一部アイテムと規則はアップデートを通じて適用されたもので、最初のリリース時にはなかったものである。
  3. にもかかわらず原審は、原告ゲームの製作意図とシナリオが技術的に具現された主要な構成要素の選択・配列・組み合わせによる創作的個性などを十分に審理しないまま、原告ゲームと被告ゲームが実質的に類似しないと判断した。この部分の原審判断にはゲーム著作物の創作性と実質的類似性に関する法理を誤解して必要な審理を十分尽くさずに判決に影響を及ぼした誤りがある。したがって、残りの上告理由に対する判断をするまでもなく原審判決を破棄し、事件を再度審理・判断するよう原審法院に差戻す。

専門家からのアドバイス

これまで韓国の法院は、ゲーム規則自体は基本的に著作権法が保護しないアイデアの領域に属するものとして、ゲーム規則をゲーム同士の類似性判断において考慮しないか、考慮したとしてもその選択・配列及び組み合わせによる創作性を厳格に判断してきた。

本件でも第一審法院と第二審法院では、ゲーム規則やシナリオは単なるアイデアにすぎないものとして、そのようなゲームが著作権法の認める創作物とはいえない旨を判示したが、大法院では、モバイルゲーム規則とシナリオなども他のゲームと明確に区別される創作的個性を有しているのであれば著作物として保護対象となり得るものとした。

大法院は、ゲームの創作性有無を判断するにおいて、ゲームを構成する構成要素それぞれの創作性が個別に認められるか否かを考慮することに加えて、構成要素の選択・配列・組み合わせによってそのゲーム自体が他のゲームと区別される創作的個性を有し、著作物として保護を受ける程度に至ったかどうかについても考慮しなければならないと判示した上で、本件被告ゲームは原告ゲームと実質的に類似すると判断したものである。こうした今回の大法院判決は、ゲームの著作権認定のための創作的個性の有無及びそれに基づく類似性判断時においてゲーム規則を主要な考慮要素であると認めて著作権侵害の判断をした最初の判決であって、今後、ゲーム著作権を巡る紛争に大きな影響を及ぼすものとみられる。

ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム

ジェトロ・ソウル事務所 知的財産チームは、韓国の知的財産に関する各種研究、情報の収集・分析・提供、関係者に対する助言や相談、広報啓発活動、取り締まりの支援などを行っています。各種問い合わせ、相談、訪問をご希望の方はご連絡ください。
担当者:大塚、柳(ユ)、李(イ)、半田
E-mail:kos-jetroipr@jetro.go.jp
Tel :+82-2-3210-0195