知財判例データベース 請求項のサポート要件充足性の判断において、当該請求項の範囲を狭く解釈することは認められなかった事例
基本情報
- 区分
- 特許
- 判断主体
- 特許法院
- 当事者
- 原告 A(無効審判請求人) vs 被告 B、C(特許権者)
- 事件番号
- 2018ホ5822登録無効(特)
- 言い渡し日
- 2019年01月09日
- 事件の経過
- 審決取消/上告審係属中
概要
特許出願の審査や特許無効審判において、明細書の発明の詳細な説明に開示された実施例を上位概念化して作成された請求項が発明の詳細な説明より範囲が広いという理由からサポート要件を満たすかどうかが争点となる場合がある。本事案で特許法院は、請求項の記載を狭く解釈することによりサポート要件を満たすという理由による被告(特許権者)の主張は認めなかったものの、当該請求項に係る発明は出願時の技術水準から見て容易に把握できるという理由でサポート要件を満たすと判断した。
事実関係
対象特許は「農薬散布装置」に関する特許第1382644号であり、従来の農薬散布装置において駆動部の片側にカンティレバー状の供給管を設けて駆動することによる問題を改善するために、駆動部(20)の両側に供給管(30)を展開する形を取るようにしたことに1つの特徴がある。この特徴に関連して、対象特許の請求項1には次の通り記載されている。
「…両側開口の内周面には雌連結具が設けられる中空の連通管で構成された駆動部(20);…両側開口の外周面には上記駆動部(20)の連通管に設けられる雌連結具又は連結部材の雌連結具に結合する雄連結具を設けて構成した複数の供給管(30);…農薬散布装置」(次の図面を参照。この他の特徴もあるが、サポート要件との関係からは重要でないため省略する)
原告は、本件請求項1に係る発明には駆動部(20)の位置に関する記載が全くないのに対し、発明の詳細な説明には駆動部(20)が供給管(30)の中央に位置すると記載されており、これは、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載する技術より包括的で広い範囲を記載する場合に該当し(即ち、駆動部が供給管の中央以外の地点に位置する構成は発明の詳細な説明により裏付けられない)、サポート要件に違背する旨を主張した。
これに対し、被告は、本件請求項1に係る発明を、発明の詳細な説明、図面などを参酌して客観的・合理的に解釈すれば、駆動部(20)は供給管(30)の中央に位置することが明白なのでサポート要件に違背しない旨を主張した。
判決内容
特許法院はまず、サポート要件の充足に対するこれまでの判断基準を次の通り再確認した。
特許法第42条第4項第1号において、特許請求の範囲に保護を受けようとする事項を記載した項(請求項)は発明の詳細な説明によって裏付けられることを規定しているが、その趣旨は特許出願書に添付された明細書の発明の詳細な説明に記載されていない事項が請求項に記載されることによって出願者が公開していない発明に対して特許権が付与される不当な結果を防ぐためのものであり、請求項が発明の詳細な説明によって裏付けられるかどうかは特許出願当時の技術水準を基準として当業者の立場で特許請求の範囲に記載された事項に対応する事項が発明の詳細な説明に記載されているかによって判断しなければならない(大法院2011年10月13日言渡2010フ2582判決参照)。
このような法理に基づいて、特許法院は、次の通り、サポート要件を満たすと判断した。
本件請求項1に係る発明の特許請求の範囲には「両側開口の内周面には雌連結具が設けられる中空の連通管」、「駆動部の連通管に設けられる雌連結具に結合する雄連結具を設けて構成した複数の供給管」と記載されており、構造上、駆動部の両方に供給管が連結される構成を前提としているという点を認めることができ、駆動部が供給管の正に中央に位置する場合とそうでない場合まで含まれるという点を認めることができる。
明細書の発明の詳細な説明には、「駆動部の位置が中央ではない場合(供給管が駆動部を介して両側に対称とならない場合)」については明示的に記載されていないが、当業者は駆動部を供給管全体の中央ではない所に設けたい場合、駆動部を基準に両方の供給管の長さを異なるように調節でき、本件請求項1に係る発明の供給管は分節された供給管と連結部材をブロックのように連結した形態なので長さの調節はさらに容易であって、このような点は明細書の発明の詳細な説明で具体的な構成をあえて提示していなくとも当業者が特に困難なく把握することができる。従って、本件請求項1に係る発明は特許法第42条第4項第1号に違背しない。
なお、特許発明の進歩性が否定されるという理由により本件の審決は取り消された。
専門家からのアドバイス
特許法院は、被告(特許権者)の主張とは異なる理由によって、サポート要件を満たすと判断した。即ち、被告は対象特許の請求項1に係る発明を発明の詳細な説明や図面に開示された内容によって狭く解釈してサポート要件を満たす旨を主張したのであるが、特許法院は、そのような特許請求の範囲の解釈を受け入れず、その代わりに、請求項1に文言的に含まれる範囲の一部が発明の詳細な説明に明示的に記載されていなくても、出願時の技術水準から見た時にそれが容易に把握できるという理由でサポート要件を満たすと判断したのである。
これは、請求項に係る発明が発明の詳細な説明よりその範囲が広いという理由でサポート要件の充足性が争点となる場合には、そのサポート要件への対応の仕方が特許請求の範囲の解釈に影響を及ぼし得るという点を示したものであり、特許権者は、こうした点を踏まえてサポート要件への対応に慎重を期す必要があるものといえよう。
サポート要件の充足性が争点となった過去の事例として、大法院が「出願時の技術常識に照らしてみても発明の詳細な説明に開示された内容を特許請求の範囲に記載された発明の範囲まで拡張又は一般化できない場合には、その特許請求の範囲は発明の詳細な説明によって裏付けられるといえない」(大法院2006年5月11日言渡2004フ1120判決)と判示したケースがある。一方、特許法院の判決としては、発明の詳細な説明に上部ベルトと下部ベルトからなる実施例のみを開示しながら、独立項に「移送手段」という上位概念を用いて請求し、その従属項に上部ベルトと下部ベルトからなる構成を具体化して請求した特許請求の範囲に対して、「従属項を考慮すると、発明の詳細な説明の記載は独立項である請求項1ではなく従属項を裏付けるものであり、従属項の構成を含む上位概念として請求項1の「移送手段」がいかなる構成を有するかについては発明の詳細な説明に開示されていないので、サポート要件に違背する」と判断した事例もある(特許法院2007年1月25日言渡2006ホ4734判決、確定)。
このような過去の事例を総合してみると、発明の詳細な説明に開示した実施例を上位概念化して請求項を作成する場合には、原則的に、出願時の技術水準や技術常識に照らして発明の詳細な説明から拡張又は一般化できる範囲であるのかについて、まず慎重に検討すべきといえる。特に、独立項と従属項により特許請求の範囲を構成しながら独立項を上位概念を用いて作成するような場合には、上位概念を裏付ける多様な実施例を記載すべきかを考慮すべきであり、多様な実施例を記載したかどうかにより、後日、権利行使の可否や権利範囲を左右する可能性がある点に留意することが望ましいといえよう。
ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム
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