知財判例データベース 均等侵害の第2要件(作用効果の同一性)と第1要件(課題解決原理の同一性)との関係を明確に提示した事例

基本情報

区分
特許
判断主体
大法院
当事者
原告A(特許権者) vs 被告B(侵害被疑者)
事件番号
2018ダ267252特許侵害差止及び損害賠償請求
言い渡し日
2019年01月31日
事件の経過
上告棄却/原審確定

概要

既存の大法院判決では、均等侵害の第2要件である作用効果の同一性を判断するのにおいて、(1)特許発明と侵害製品の間において均等であるどうかが問題視される構成要素の個別の機能や役割を比較して判断すべきなのか、あるいは(2)第1要件である課題解決原理の同一性の判断で考慮された特許発明の技術思想の核心に関連する効果が侵害製品でも具現されているかにより判断すべきなのかについて不明確な面もあった中で、本判決は、これについての大法院の見解を明確に提示した。

事実関係

原告は、「直接加圧式溶湯鍛造装置」を発明の名称とする特許第403568号の特許権者である。被告の実施製品(以下「被告製品」)は、原告特許の請求項1の発明(以下「特許発明」)における「保温用電気加熱装置」の代わりに「ガス加熱装置」(ガストーチを用いた加熱装置)を備えた点でのみ差がある。原告は、被告製品に対して均等侵害を主張しながら侵害訴訟を提起した。

原告主張の要旨:

被告製品の「ガス加熱装置」は溶湯が一定温度以下の金型に接触して冷却されるのを防止するために金型の温度を高めたり維持させようとするものであって、特許発明の「保温用電気加熱装置」と比較して課題解決原理が同一であり、作用効果も実質的に同一であって、両者を置き換えることも容易なので、均等侵害に該当する。

原審法院(特許法院)の判断:

特許法院は、(i)特許発明の「保温用電気加熱装置」は、明細書の記載と「保温」の意味を総合すれば、作業中断時にも金型の温度を一定に維持することによって金型の再稼働時に金型の加熱に要される時間を減らすことを課題解決原理とし、かつ、そのような効果を奏するのに比べ、(ii)被告製品は、金型の初期稼働時にのみ「ガス加熱装置」を設置して金型の温度を上昇させ、初期加熱を終えた後にはガス加熱装置を除去するものであって、金型の温度を維持する機能がないので、特許発明の「保温用電気加熱装置」と作用効果が同一であるとは認定し難い(非侵害)。

これに対し、原告が上告を提起した。

判決内容

大法院は、均等侵害の積極的3要件(注1)のうち、第1要件(課題解決原理の同一性)について既存の判例の法理(注2)に言及した後、第2要件(作用効果の同一性)について、次のような法理を提示した。

作用効果が実質的に同一か否かは、先行技術で解決されていなかった技術課題として特許発明が解決した課題を侵害製品等も解決するかを中心に判断すべきである。従って、発明の詳細な説明の記載と出願当時の公知技術などを参酌して把握される特許発明に特有の解決手段が基礎とする技術思想の核心が侵害製品などでも具現されているのであれば、作用効果が実質的に同一であると判断することが原則である。

しかし、上記のような技術思想の核心が特許発明の出願当時、既に公知となっているか、またはそれと異ならないものに過ぎない場合には、このような技術思想の核心が特許発明に特有であるとは言えず、特許発明が先行技術により解決されていない技術課題を解決したと言うこともできない。このようなときは、特許発明の技術思想の核心が侵害製品などで具現されているかをもって作用効果が実質的に同一であるか否かを判断することができず、均等であるかどうかが問題視されている構成要素の個別の機能や役割などを比較して判断すべきである。

(注1) 一般に、第1要件は課題解決原理の同一性、第2要件は作用効果の同一性、第3要件は置換の容易性と呼ぶ。 本データベースに収録されている大法院2019.1.31.言渡2017フ424判決、特許法院2016.6.30言渡2015ホ4804判決を参照されたい。

(注2)第1要件(課題解決原理の同一性)として提示された法理は、次のとおりである。 「侵害製品と特許発明の課題解決原理が同一か否かを判断するときは、特許請求の範囲に記載された構成の一部を形式的に抽出するのではなく、明細書に記載された発明の詳細な説明の記載と出願当時の公知技術などを参酌して先行技術と対比してみると、特許発明に特有の解決手段が基礎としている技術思想の核心が何であるかを実質的に探求して判断すべきである」

大法院は、上記法理に基づいて判断するとき、本件特許発明の明細書から把握される「上・下部金型の両方向から加圧して鍛造効果を向上させる」という技術思想は、特許発明の出願当時に公知となっていた先行技術に示されていて、特許発明に特有であるとは言えないので、上記技術思想が被告製品に具現されているかを基準に作用効果の同一性を判断することはできず、特許発明の「保温用電気加熱装置」と被告製品の「ガス加熱装置」の個別の機能や役割などを比較して作用効果の同一性を判断すべきであると判示した。大法院は、両者は機能などで差があるので、作用効果の同一性がないと判断した(非侵害)。

専門家からのアドバイス

本判決については、大法院が同日付で言い渡した2017フ424判決(以下「424判決」という。JETROデータベースに収録済み) を併せて考察すると、韓国の均等侵害の判断基準をより明確に把握することができよう。424判決は、当該特許発明の明細書から把握される技術思想の核心が先行技術により公知となっていない場合において、それが当該特許発明に特有であると判断されたものであったといえる。その上で、大法院は、被告製品において(構成要素の置換にもかかわらず、)特許発明特有の技術思想の核心が具現されているので、作用効果も特許発明と実質的に同一であると判断した。即ち、作用効果の同一性の範囲を幅広く認めたのである。

これに対し、本判決では、特許発明の明細書から把握される技術思想の核心が先行技術により公知となっており、当該特許発明に特有であるとは認められなかった事例であるといえる。この場合において、大法院は、被告製品において置き換えられた構成要素と特許発明の構成要素間の個別の機能や役割を比較して作用効果の同一性を判断すべきであるとして、作用効果の同一性の範囲を狭く認定したものである。

技術手段の多様化に伴い、文言侵害には該当しないものの、均等侵害が争点になる事例が今後も増えるであろうと予想される。本判決が示唆するように、均等侵害を判断する場合には、当該特許発明と侵害製品との1対1の比較だけでは不十分であり、出願当時の先行技術などを幅広く検討して的確な分析をする必要があろう。

ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム

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