知財判例データベース 登録商標の構成のうち一部のみを使用する場合、取引通念上、同一性がある商標を使用していたとは言えないと判断され、その登録が取り消された事例

基本情報

区分
商標
判断主体
特許法院
当事者
原告 A社(商標権者) vs 被告 B社
事件番号
2018ホ6580
言い渡し日
2019年02月25日
事件の経過
確定

概要

特許法院は、本件登録商標「suumのハングル表示とsuumの併記」に対する不使用取消の成否に関連し、本件登録商標は「円形態の図形」、ハングル文字「숨」(英文字 SUUMのハングル音訳)、英文字「SUUM」の3つの部分がいずれも独自の要部として機能できる商標に該当するだけでなく、上記3つの部分が密接に関連して全体的な外観を形成して識別力が認められるものであると判断し、このような点に鑑みると、上記3つの部分のうち一部のみを使用する場合には、本件登録商標と取引通念上、同一性のある商標の使用とは言えないので、本件登録商標の登録が取り消されるべきであると判断した。

事実関係

B社(被告)は、特許審判院に商標権者であるA社(原告)に対して商標登録取消審判を請求しながら、本件登録商標は、その指定商品の全部について取消審判の請求日前に継続して3年以上、国内で使用された事実がないので、旧商標法第73条第1項第3号の規定によりその登録が取り消されるべきであるとともに、商標権者である原告が故意に本件登録商標と類似の実使用商標を使用することにより需要者に特定人の商標として知られている被告の比較対象商標と誤認・混同を招いたので、旧商標法第73条第1項第2号の規定によりその登録が取り消されるべきである旨を主張した。これに対し、特許審判院は、本件登録商標は旧商標法第73条第1項第3号に該当するという理由で被告の審判請求を認容する審決をした。

判決内容

1. 関連法理

旧商標法第73条第1項第3号は、「商標権者・専用使用権者又は通常使用権者のいずれもが正当な理由がないのに登録商標をその指定商品に対して取消審判の請求日前に継続して3年以上国内において使用していない場合」において、審判によりその商標登録を取り消すことができるよう規定している。ここで、商標の「使用」とは、旧商標法第2条第1項第11号で規定している(1)商品又は商品の包装に商標を表示する行為、(2)商品又は商品の包装に商標を表示したものを譲渡し、若しくは引き渡し、又はその目的で展示・輸出若しくは輸入する行為、(3)商品に関する広告・定価表・取引書類・看板又は標札に商標を表示し、展示し、又は頒布する行為のうちのいずれか1つに該当する行為をいう。また、登録商標を使用するとは、登録商標と同一の商標を使用した場合を言い、類似商品を使用した場合は含まれないが、同一の商標には登録商標そのものだけでなく、取引通念上、登録商標と同一と見ることができる形態の商標も含まれる(大法院2013. 9. 26.言渡2012フ2463全員合議体判決参照)、とされる。

2. 具体的判断

商標権者である原告の一部の製品に「suumの文字」(英文字「SUUM」)乃至「ハングル文字숨 」(ハングル文字「숨」)が表示されている事実は認められるが、本件登録商標は手書きのような不規則な形態の円を無作為に幾重にも重ねた形状である特異な「円形態の図形」と、特異な書体で書かれたハングル文字「숨」、及び高低を違えて書かれた英文字「SUUM」の3つの部分がいずれも独自の要部として機能できる商標に該当するだけでなく、本件登録商標の全体的な構成、形態などに照らして、上記3つの部分が密接に関連して全体的な外観を形成し、識別力が認められると判断される点に鑑みると、特異な「円形態の図形」、ハングル文字「숨」、又は英文字「SUUM」のうち一部のみを使用する場合には、本件登録商標と取引通念上、同一性のある商標の使用とは認められない。

原告が提出した証拠資料のいずれを見ても、本件登録商標と同一の商標が本件審判の請求日前3年以内にその指定商品のいずれかに使用されたことを証明するには不十分であり、他にこれを認める証拠がないので、本件登録商標は旧商標法第73条第1項第3号に該当する。

専門家からのアドバイス

本件に関連する判決として、過去に韓国大法院の全員合議体による判決がある(大法院2013. 9. 26.言渡2012フ2463判決)。この2013年の大法院判決は、(不使用による商標登録取消に関連して、登録商標自体それだけでなく、取引通念上、登録商標と同一と見ることができる形態の商標も商標の使用と認められるという既存の法理を確認した上で)英文字とそれに該当するハングル音訳が併記された登録商標の場合、その英単語自体の意味から認識される観念以外には、その結合によって新たな観念が生じず、英文字部分とハングル音訳部分のいずれかの部分が省略されたまま使用されたとしても、一般需要者や取引者に、通常、登録商標そのものと同一に呼称されるものとして認めることができる限り、2つの文字のうち1つだけ使用しても正当な登録商標の使用と言うことができるとして、その登録が取消対象にならないと判断している。これは、不使用取消審判に対する登録商標の使用判断において英文字及びハングルを2段併記した登録商標の場合、そのうち英文字又はハングルのみを使用したときに登録商標の正当な使用と認めてこなかった既存の判例を変更するものであった。

上記太字で示した判示部分から読み取れるように、大法院判決の見解は、英文字及びハングルを2段併記した登録商標のうち英文字又はハングルのみを使用することは、無条件に登録商標の正当な使用に該当すると言っているわけではない。すなわち、呼称又は観念が相違する英文字とハングルを結合した商標を登録しておきながら、その一部分のみを使用することは、登録商標の正当な使用とは認められない可能性があるということである。

本件は、特異な「円形態の図形」、ハングル文字「숨」、英文字「SUUM」が結合した登録商標の正当な使用について判断したものであって、特許法院は、外観を含む全体的な判断を通じて本件登録商標うちの一部、即ち、英文字又はそれに該当するハングル音訳の部分が使用されていたとしても、取引通念上、本件登録商標と同一性のある商標の使用とは言えないと判断している。こうした本件の事例は、結合商標からなる登録商標の構成のうち一部を使用する場合において、それが取引通念上、登録商標と同一と見みられる形態の商標使用であるか否かを具体的に判断するような局面で参考にできると思われる。

ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム

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