知財判例データベース 先行発明の公知について争点となり、医療機器製造品目許可証及びマーケティング用ユーチューブ動画によって公知又は公然実施を認めた事例
基本情報
- 区分
- 特許
- 判断主体
- 特許法院
- 当事者
- 原告A社(特許権者) vs 被告B社(審判請求人)
- 事件番号
- 2017ホ7616登録無効(特)
- 言い渡し日
- 2018年07月20日
- 事件の経過
- 上告理由書不提出棄却
概要
発明は秘密維持義務がない不特定人が認識し得る状態に置かれるだけでも公知となったと言える。医療機器製造品目許可証はたとえ刊行物とはいい難いとしても、食品医薬品安全処(以下「食薬処」とする(注1) )が2012年9月30日に構築した「医療機器電子請願窓口」を通じれば誰でも製造許可製品に関する情報を閲覧できるので、食薬処長が許可証として交付した以上は、その内容が秘密維持義務がない不特定多数の者に知られる状態に置かれていたと言える。
事実関係
被告(審判請求人)は、発明の名称を「電熱を用いるお灸治療器用充電器」とする本件特許が先行発明1~4により容易に発明できるため進歩性が否定され、また、本件特許は無権利者による冒認出願に該当すると主張して無効審判を請求した。特許審判院は、先行発明1、3により進歩性が否定されるという理由で無効審決を下し、これを不服として特許権者は特許法院に審決取消訴訟を提起した。
判決内容
- 原告は、被告が独自に開発した「セトゥム(Cettum)」という医療機器の製造品目許可証はソウル地方食品医薬品安全庁長が発行した医療機器製造品目許可証として申請人に発行されるものであって、許可証に記載された発行日以降に誰でも製造許可製品に関する情報を閲覧できるというわけではないので、その内容が公知となったとはいえないと主張する。しかし、発明は秘密維持義務がない不特定人が認識できる状態に置かれただけでも公知となったと言えるものであり、医療機器製造品目許可証はたとえ刊行物とはいい難いとしても、 食薬処が2012年9月30日に構築した「医療機器電子請願窓口」を通じて誰でも製造許可製品に関する情報を閲覧できるので、食薬処長が許可証として交付した以上は、その内容が秘密維持義務がない不特定多数の者に知られる状態に置かれていたことから、2013年12月3日頃に公知となったと判断される。
また、原告は、ユーチューブ動画資料は公知日を確認できないので先行技術として認められないと主張する。被告のセトゥム製品を販売するハンサン・メディクスが掲示したユーチューブ動画とキャプチャ画面については、ユーチューブ動画の最初のアップロード日が2015年6月9日となっているところ、セトゥム製品を販売しようとするハンサン・メディクスが製品の開封及び説明に関する動画を非公開に設定する理由がなく、本件特許発明の出願日の前に被告が開発した製品であるセトゥムに関する広告が種々のメディアに掲載された事実に照らしてみても、上記ユーチューブ動画が非公開に設定されたといい難く、その頃に公知となったと判断される。
先行発明3は「セトゥム」という被告が開発したお灸治療器製品であり、公知となるかどうかについての争いがあったが、刊行物とはいえないとしても医療機器製造品目許可証が発行された以上は、秘密維持義務がない不特定人が認識し得る状態に置かれていたといえる。同様に当該製品の開封及び説明に関するユーチューブ動画及び関連の新聞広告を見ても、これは特許発明の出願前に販売されて公知又は公然実施された発明と認められる。
- 先行発明3と本件特許発明を比較すると、本件特許請求項1の充電受け台には充電端子以外にも通信端子が突き出ているが、先行発明3の充電受け台には通信端子が設けられていない。しかし、このような相違点は、先行発明3に「クレードル」という外部お灸器用充電器が現に設けられており、充電器のお灸器受け台の横には充電中に赤色ランプが点き充電が完了すると緑色ランプに変わる構成があり、これはクレードル本体が「充電端子」を通じてお灸器内部のバッテリの電圧あるいは電流をお灸器から受け取って充電状態であることを表示するものとして「充電端子」には電力の伝送だけでなくお灸器と外部充電器の間で電力に関する信号を伝送する機能が現に存在しているといえ、このような構成はバッテリ信号ではなく他の信号を送受信する場合にそれに伴って新たに「通信端子」を設けることができるという点を示唆しているということから、容易に克服され得るものである。
また、本件請求項1は温度及び時間調節器を備えているが、先行発明3は温度調節のみを行うという点、及び請求項1は充電器本体において通信端子を通じてお灸治療器発熱体の温度及び時間を変更設定するが、先行発明3はお灸器自体の上面のスイッチで制御部を通じてお灸器の発熱温度を43~45°の間で変更設定することが選択可能であるという点で相違する。しかし、先行発明4は、個別のお灸治療器ではなくお灸器の電源を供給する「治療器本体」側に温度調節装置と時間調節装置が置かれて個別のお灸治療器の温度と作動時間を調節するという発想を提供しており、先行発明3のお灸器には温度と作動時間を制御するための構成が現に備わっているので、先行発明3に先行発明4のようなお灸器の外部で温度や作動時間を制御する発想を結び付ける場合、当業者は外部充電装置においてお灸器で温度制御と時間制御をできるようにする構成を容易に導き出すことができるといえ、特に技術的困難性なしに克服され得るものであるといえる。
専門家からのアドバイス
優先日前の公然実施は、刊行物による公知と共に、特許無効主張の重要な根拠として使用される。韓国において公然実施が認められるためには、(i)製品、技術などが対象特許発明の特許出願前に不特定の者が知り得る状況で実施されたという事実と、(ii)該当製品、技術などと特許発明とが同一であることを証明しなければならない。本件では優先日前に食品医薬品安全処長が発行した医療機器製造品目許可証がたとえ刊行物とはいえないとしても、許可証の発行後は誰でもその製造許可製品に関する情報を閲覧できるので、公然と実施された発明として認められるとし、法院の従来の見解を再確認した。
進歩性に関しては、主な先行発明との構成上の相違にもかかわらず、特許発明の構成に想到し得る技術思想(本件では、お灸器の温度、時間などの制御をお灸器の内部ではなく外部装置からお灸器との通信を通じて行うという発想)が他の先行技術文献に開示されているという点、及び主な先行発明にもそのような示唆点があることを理由に進歩性が否定された。
複数の先行発明を引用して特許発明の進歩性を判断することについての判例の立場は、その引用技術を組み合わせ又は結合すれば当該特許発明に想到し得るという暗示や動機が先行発明に提示されている等の付加的要件が必要ということが大法院判例の見解であるため、たとえ他の先行技術文献に特許発明の技術構成に関する技術思想が公知であるとしても無条件に進歩性が否定されるわけではないであろう。
権利者の立場としては、特許発明の技術思想が他の先行技術文献に開示されているという指摘を受けた場合には、直ちにクレームの減縮を考えるのではなく、引用技術の組み合わせ又は結合の暗示や動機があるか否かを検討することが有効であるといえる。さらには、主な先行発明において他の先行技術文献に開示された技術思想を実際に具現する手段は数えきれない程多くあり得、そのような数多くの可能な手段から必ずしも特許発明において選択した特定技術構成に到達することが容易ではないといった主張や立証努力を検討してみることも重要であろう。
注記
-
2013年3月、「食品医薬品安全庁」からの昇格により「食品医薬品安全処」とされた。
ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム
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