知財判例データベース 出願商標の「N’EX」部分は「成田エクスプレス」と直感又は呼称されず、先登録商標の要部「NEX」と類似と判断した事例

基本情報

区分
商標
判断主体
特許法院
当事者
原告 A社 vs 被告 特許庁長
事件番号
2018ホ6375
言い渡し日
2019年02月01日
事件の経過
確定

概要

特許法院は、指定役務を「鉄道運送業、運送予約業、旅行斡旋業」などとする本件出願サービスマークについて、その標章N’EX 東京往復チケットのハングルN’EX 東京往復チケットのハングルのうち「N’EX」部分が造語として識別力があるとともに、「東京往復チケット」部分は役務の性質や用途の表示に該当して識別力がないため「N’EX」部分が要部に該当し、先登録(商標)サービスマーク1乃至4の要部に該当する「NEX」又は「ネクス」と対比したとき外観・称呼が同一又は類似で旧商標法第7条第1項第7号に該当するため、サービスマーク登録を受けることができないと判断した。

事実関係

本件出願サービスマークの対比対象となる「先登録(商標)サービスマーク1乃至4」(以下、「各先登録サービスマーク」という)の標章及び指定役務は次のとおりである。

項目 先登録 サービスマーク1 先登録 サービスマーク2 先登録 サービスマーク3 先登録 サービスマーク4
標章 NEXTOUR NEXTOUR.CO.KRインターネット旅行百貨店のハングル 株式会社ネクスツアーのハングル
株式会社ネクスツアー
nextour
指定役務 旅行斡旋業等 旅行斡旋業等 旅行斡旋業等 旅行斡旋業等

権利者: W社(各先登録サービスマークの権利者は同一人)

判決内容

関連法理

商標において要部は、他の構成部分に関わらずその部分だけで一般需要者の目を引いて認識される独自の識別力により他の商標との類否判断時に対比の対象となるものであるため、商標において要部が存在する場合にはその部分が分離観察されるかを問う必要なく、要部のみを対比することにより商標の類否を判断することができる。そして一般需要者が想起する商標の意味内容はその商標を見て直観的に理解できるものでなければならず、深思熟考し又は辞書で調べてはじめてその意味がわかるものは考慮対象にならない。このような法理は、旧商標法第2条第3項によりサービスマークにも同様に適用される。

本件出願サービスマークと各先登録サービスマークの要部

本件出願サービスマークの「N’EX」部分は英語辞典などに登載されていない造語であって、その指定役務と関連して識別力があるが、「東京往復チケット」部分は需要者や取引者に「東京を往復するチケット」と直感されると言えるため役務の性質や用途の表示に該当して識別力がない。本件出願サービスマークでは「N’EX」部分が目を引いて認識され役務の出所表示機能を遂行する要部に該当すると考えるのが妥当である。

各先登録サービスマークの標章のうち「NEX」又は「nex」は、英語で「売店」「海軍PX」という意味や、ラテン語で「殺し、死、被殺者の血」という意味などがあるが、深思熟考し又は辞書で調べずにそれらの意味を直感することは難しいと言えるため、韓国の需要者や取引者には造語として認識されると思われ、これを韓国語で表記した「ネクス」も同様である。したがって、各先登録サービスマークの「NEX」「nex」又は「ネクス」部分は、需要者及び取引者の目を引いて認識され識別標識として機能を発揮する要部に該当すると言うのが妥当である。一方、「TOUR」「tour」及び「ツアー」部分は「観光、一周、旅行」等の意味に直感されると認められ、その指定役務と関連して用途乃至目的などを表す記述的標章に該当するだけでなく、これを特定人に独占させることも適当でない。

本件出願サービスマークと各先登録サービスマークの類否

外観において、本件出願サービスマークと先登録サービスマークとを全体的に対比してみると、両者は外観面で差異がある。しかし要部に該当する「N’EX」と「NEX」又は「nex」とを対比すると、両者はアルファベット大文字「N」「E」「X」又はその小文字「n」「e」「x」からなるという点で共通する一方で、本件出願サービスマークの要部には識別力がないか微弱なアポストロフィーが「N」の後ろに打たれている点、先登録サービスマーク2の要部では「x」がやや図案化されている点で異なるが、このような差異が共通点を凌駕するほどに各要部の外観に大きな違いを与えるとは言えないため、本件出願サービスマークと先登録サービスマーク1, 2及び先登録商標サービスマーク4は各要部の外観が類似すると言うのが妥当である。

観念において、本件出願サービスマークの要部「N’EX」と各先登録サービスマークの要部「NEX」、nex、「ネクス」、「nex」とはいずれも造語であるため両者の観念は対比し難いが、外観及び称呼が類似することにより認識される観念も類似すると言える。これについて原告は、本件出願サービスマークの要部「N’EX」は「成田エクスプレス(Narita Express)」の略称として「成田エクスプレス」と観念されるため、造語に過ぎない各先登録サービスマークの要部とは観念が類似しないと主張する。しかし「N’EX」は英語辞典に登載されている単語ではなく、韓国で広く用いられる単語でもない。また「NEX」は日本のソニーの「Eマウントシステム」の商標名として知られているだけでなく、中国Vivoのスマートフォンの商品名としても使われており、「nex」はLED TVの商品出所標識として使用されている。インターネット百科事典「ナムウィキ(namu.wiki)」では「成田エクスプレス」に関して「通称N’EX(Narita Express)と呼ばれるが、これは列車に記されているだけで実際に呼ぶ人はいない。」と説明されているが、このような点に照らしてみると、「N’EX」は「Narita Express」の列車にのみ表示されているだけで、実際の取引界ではあまり使用されてない標章と言える。成田空港から出国する年間約73万人の韓国人のうち12%が「成田エクスプレス」を利用したとしても、その数は年間約87,600人(=73万人×12%)程度に過ぎず、原告の韓国語ウェブサイトの訪問者数が年間約100万人としても、ウェブサイトの特性上、重複訪問が相当数存在するものとみられるため、このような利用実績乃至訪問実績に基づき韓国の需要者や取引者に「N’EX」が「成田エクスプレス」の略称として広く知られているとする主張は認め難い。これらの事実等を総合すれば、別途の説明なしに韓国の需要者や取引者が「N’EX」のうち「N」が「Narita」を、「EX」が「Express」をそれぞれ意味すると直感するとか、「N’EX」を「成田エクスプレス」の略称又は略語として直感するとは言い難い。

称呼において、一般的に英語式表現ではアポストロフィーがある場合これを省略したまま前後の文字を続けて発音する点を考慮すれば、韓国の需要者や取引者は本件出願サービスマークの要部である「N’EX」を「ネクス」又は「エヌイーエックス」と呼称するはずであり、先登録サービスマーク1, 2及び先登録商標サービスマーク4の各要部もまた「ネクス」あるいは「エヌイーエックス」と呼称されると言え、先登録サービスマーク3の要部は「ネクス」と呼称されると言える。したがって本件出願サービスマークの要部と各先登録サービスマークの要部は称呼が同一である。

結論

本件出願サービスマークは各先登録サービスマークと標章が類似し、その指定役務が各先登録サービスマークの指定役務と同一・類似であるため、本件出願サービスマークは各先登録サービスマークとの関係で旧商標法第7条第1項第7号に該当しサービスマーク登録を受けることができない。

専門家からのアドバイス

韓国大法院は、商標の類否に関し「商標において要部が存在する場合には、その部分が分離観察されるかを問う必要なく要部のみを対比することにより商標の類否を判断できる」という判断基準を示している。関連する判決として、ジェトロ判例データベースに収録されている事件番号2017ホ7357や事件番号2017ホ6316及び2017ホ6323があり、今回の特許法院の判決もこのような大法院の判断基準に従ったものと言える。

一般に標章の類否判断について、日本の裁判所は全体観察に重点をおいているのに対し、韓国の法院は、全体観察を基本としながらも要部観察を通して類否を判断しているという点から日本の裁判所に比べ類似範囲を広く判断する傾向があると言われている。こうした点も、本判決を理解する上での参考となろう。

ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム

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