知財判例データベース 特許発明の通常実施権者に対し専用品を製作・納品した行為が間接侵害と言えないと判示した事例

基本情報

区分
特許
判断主体
大法院
当事者
原告 A社(特許権者) vs 被告 B社
事件番号
2017ダ290095損害賠償(知)
言い渡し日
2019年02月28日
事件の経過
上告棄却/原審確定

概要

大法院は、方法の発明に関する特許権者から許可を得た実施権者が、その方法の発明である特許発明の実施にのみ使用される物(以下、「専用品」)の製作を第三者に依頼し、そこから専用品の供給を受けて方法の発明を実施する場合において、そのような第三者の専用品の生産・譲渡等の行為は、特許権の間接侵害に該当するとは言えないと判示した。

事実関係

原告は、「摩擦移動溶接方法及び摩擦移動溶接用プローブ」を発明の名称とする特許発明の特許権者である。原告は、(訴訟の当事者ではない)C社と通常実施権契約を締結したが、契約内容には「C社が他の者にライセンスを許諾できない」という規定が含まれていた。通常実施権を契約後、特許権の存続期間中に、C社からの依頼により被告(B社)は、C社に十数年間にわたり摩擦撹拌溶接機を数十台製作し、納品した。被告がC社に供給した摩擦撹拌溶接機は、原告の特許発明の実施にのみ使用される装置である。このような被告の行為に対して、原告は特許権侵害による損害賠償請求訴訟を提起した。原告は、1審では一部勝訴したが2審の特許法院で敗訴し、これを不服として大法院に上告した。

特許法院では、被告がC社に摩擦撹拌溶接機を製作・納品した行為と、その過程で摩擦撹拌溶接機を検収・試演した行為が原告の特許権を侵害する又は侵害したと見なされるとする原告の主張に対して、次の通り判断した。

まず、被告の摩擦撹拌溶接機を製作・納品する行為が方法の発明の専用品を生産・譲渡する行為に該当し間接侵害が成立するか否かに関して、特許法院は、方法の発明に係る通常実施権者が自ら専用品を生産して方法の発明を実施する場合にこれを間接侵害と認定するようになれば、通常実施権者に不当な制約を加える結果をもたらすので、間接侵害と見なすことができないとした上で、同様に通常実施権者が第三者を介して専用品の供給を受けて方法の発明を実施する場合にも、間接侵害に該当すると言えないと判断した。すなわち、特許法院は、一般に特許権者は現に実施契約を締結する際において第三者からの専用品の提供を受けて特許を実施することまでを予想して実施料を策定できる反面、第三者の製作・納品行為までを間接侵害と見なした場合には特許権を不当に拡大する結果をもたらすという点を理由として挙げた。また、特許法院は、原告とC社との通常実施権の実施契約に記載された、C社が第三者にライセンスを許諾できないという規定は、C社がsub-licenseをすることができないということに過ぎず、第三者からの専用品の提供を受けて実施することまで禁止するものとは言えないと判断した。

次に、被告がC社に向けて摩擦撹拌溶接機を製作・納品する過程で摩擦撹拌溶接機が約定した性能を発揮するかを確認するために特許発明を使用して検収・試演した行為に関して、特許法院は、検収・試演行為は製作・納品行為に不可分的に伴うものであるので、製作・納品行為が間接侵害に該当しない以上、検収・試演行為が別途に間接侵害又は直接侵害が成立するとは言えないと判断した。

大法院は、以上の特許法院の判断を支持し下記の通り判示した。

判決内容

被告がC社からの依頼によりC社に向けて特許発明の専用品である摩擦撹拌溶接機を製作・納品した行為が特許発明の間接侵害に該当するかに関連して、大法院は、まず間接侵害の法理の運用範囲について次の通り示した。

「特許法第127条第2号は、特許が方法の発明である場合、その方法の実施にのみ使用する物を生産・譲渡・貸渡し若しくは輸入し、又はその物の譲渡若しくは貸渡しの申出をする行為を業として行う場合には、特許権又は専用実施権を侵害したものと見なすと規定している。このような間接侵害制度は、あくまでも特許権が不当に拡大されない範囲でその実効性を確保しようとするものである(大法院2015.7.23.言渡2014ダ42110判決)」

続いて、大法院は、第三者の専用品の生産・譲渡等の行為を特許権の間接侵害と認めた場合、実施権者の実施権に不当な制約を加えることになり特許権が不当に拡大される結果をもたらすという点と、特許権者は実施権を設定する際に、第三者からの専用品の供給を受けて方法の発明を実施することまでを予想して実施料を策定するなどの方法により当該特許権の価値に相当する利益を回収できるので、実施権者が第三者から専用品の供給を受けたからといって特許権者の独占的利益が新たに侵害されるとも言い難いという点を挙げて、方法の発明に関する特許権者から許可を得た実施権者が第三者に専用品の製作を依頼し、そこから専用品の供給を受けて方法の発明を実施する場合において、そのような第三者の専用品の生産・譲渡等の行為は、特許権の間接侵害に該当すると言えないと判断した。

また、被告の摩擦撹拌溶接機の検収・試演行為において特許発明を使用した点が侵害になるかに関連して、大法院は、上記特許法院の判断理由、すなわち、被告がC社に向けて摩擦撹拌溶接機を製作・納品する行為が原告の特許権を侵害するものと言えない以上、そのような製作・納品行為に必須で伴う上記のような検収・試演行為が別途に本件特許発明に係る原告の特許権を侵害するものとは言い難いという特許法院の判断を支持した。

専門家からのアドバイス

大法院は、間接侵害の運用範囲については、特許権が不当に拡大されずにその実効性が確保される程度で認められるべきであるという立場を取っている。

たとえば、過去に間接侵害を不成立とした大法院判決として、半製品を国内で生産して輸出し、その完成品が国外で生産されている場合に、半製品の生産が物の発明の間接侵害に該当するか否かが争われた事件もあり、大法院は、特許権の属地主義の原則上、特許法第127条第1号の「その物の生産にのみ使用する物」でいう「生産」とは国内での生産を意味し、生産が国外で行われた場合には、その前段階の行為が国内で行われても間接侵害が成立しないと判示している(大法院2015.7.23.言渡2014ダ42110判決)。

本判決は、特許発明の実施権者がその発明を実施するために第三者から専用品の供給を受ける行為について特許権の間接侵害とは認められないという大法院の立場を示したものであるが、現実的に、実施権者が特許発明の実施に必要な専用品を第三者との契約を通じて供給を受けることは珍しくないと思われる。こうした点を踏まえて、特許権者が実施契約を締結する際には、契約条件として適切な実施料を策定する必要があると思われる。

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