知財判例データベース 登録商標の要部である「ソフラン」が先登録商標「SOPRAN 소프란」と類似し、登録無効と判断された事例
基本情報
- 区分
- 商標
- 判断主体
- 特許法院
- 当事者
- 原告 株式会社LG生活健康 vs 被告 ライオン株式会社
- 事件番号
- 2017ホ6316及び2017ホ6323
- 言い渡し日
- 2018年06月08日
- 事件の経過
- 確定
概要
原告は、被告の商標登録第1134863号「」(以下、本件登録商標)が原告の商標登録第65676号「
」(以下、先登録商標)と類似するとして商標登録無効審判を請求したところ棄却されたが、審決取消訴訟において、特許法院は、本件登録商標は要部に該当する「
」が先登録商標と類似し、指定商品も類似して旧商標法第7条第1項第7号に該当するので、その登録が無効とされるべきであると判断した。
事実関係
被告は、日本で1976年から「」標章を繊維柔軟剤製品に使用して相当な売上を上げてきており、2004年には日本で上記標章とアルファベットを結合した商標を登録した。
しかし、被告が韓国特許庁に衣類用柔軟材などを指定商品として1987年に登録した「」商標及び洗濯用柔軟剤などを指定商品として2006年に登録した「
」(ソフラン)商標に対し、原告が2013年に不使用取消審判を請求し、被告が上記商標の使用を証明できなかったことから、上記商標は登録がいずれも取り消された。
被告は2004年に韓国企業と合弁会社を設立して韓国内で製品を販売したが、本件登録商標が使用された被告の製品を韓国内で販売したことはなく、韓国内で本件登録商標が使用された洗濯用柔軟剤などの製品を購入するためには、アマゾンなどウェブサイトを通じて直接海外から購入したり、購入代行会社のサービスを利用するしかなかった。
本件登録商標の出願日に国内の一般需要者や取引者に本件登録商標のうち「」部分が被告が販売する洗濯用柔軟剤などの製品の商標として認識されたと見るだけの何らの資料もなく、従って、本件登録商標の出願日当時、本件登録商標が先登録商標との呼称の類似性にもかかわらず、具体的な商品の出所の誤認・混同を避けることができる程度に韓国内で周知・著名であったとは考えにくい。
本件登録商標の出願日以降、本件登録商標のうち「」部分が表示された被告の製品に接した韓国人需要者が、これを「소프란」(訳注:ソフランのハングル表記の1つ、発音は「ソプラン」)(注1) と記載したブログが存在するところ、一般需要者や取引者は「
」部分が表示された被告の製品を先登録商標と同一に「소프란」(訳注:発音はソプラン)と呼ぶ可能性を排除し難い。
判決内容
関連法理
商標において、要部は、他の構成部分と関係なくその部分だけで一般需要者に著しく認識される独自の識別力のため、他の商標との類否を判断する際に対比の対象になるものなので、商標で要部が存在する場合には、その部分が分離観察されるかを判断する必要なしに要部のみで対比することによって商標の類否を判断することができる。
外観の対比
本件登録商標は、日本語とアルファベットが5段で構成されている一方、先登録商標はアルファベットと韓国語が上下に構成されている。従って、本件登録商標と先登録商標は使用された言語、文字数、構成文字の差などによってその外観が互いに異なる。
呼称及び観念の対比
本件登録商標のうち、「」部分は、日本語の「香り」、「と」、 英語のdeodorant の音訳として脱臭剤などの意味を有する「デオドラント」、及び「の」が結合した部分として、全体的に香りと脱臭剤の意味を有するところ、本件登録商標の指定商品である洗濯用柔軟剤などと関連して品質や用途などを示す部分に過ぎず、識別力がないか微弱な点、本件登録商標の「
」と「
」部分は、外観上、他の文字部分に比べて相対的に大きく濃く表記されているとしても、全体的に香りが豊富であるという意味を有するので、本件登録商標の指定商品である洗濯用柔軟剤などの品質や用途などを示す部分として識別力がないか微弱な点、本件登録商標のうち「
」部分は上記のAroma Richをカタカナで表記したものに過ぎず、先に見たとおり、本件登録商標の指定商品である洗濯用柔軟剤などと関連して識別力がないか微弱な点、一方、本件登録商標のうち「
」部分は特別な意味を有さない造語として本件登録商標の指定商品である洗濯用柔軟剤などとの関係で識別力が存在する点などを総合すれば、本件登録商標のうち「
」部分は一般需要者に著しく認識されて独立的な識別標識機能を発揮する要部に該当すると見るのが妥当である。
本件登録商標の要部である「」は、造語商標として特別な観念が生まれず、先登録商標のうち「SOPRAN」部分及びそのハングルの音訳に該当する「소프란」部分はいずれも造語商標として特別な観念が生まれないので、両者は観念を対比することができない。被告は、本件登録商標の「
」部分はsoftを意味するカタカナの「ソフト」、楽しい様子を意味する「ランラン」、そして被告の会社名である「ライオン」が結合された商標として、全体的に軟らかくて楽しいライオン社の商品という観念を有する一方、先登録商標は被告の商標を模倣した造語商標であって互いに類似しないという趣旨で主張しているが、一般需要者や取引者が特に説明がなくても「
」部分を被告の上記主張のように認識、観念すると見るだけの根拠がないので、被告のこのような主張はさらに詳察する必要なしに理由がない。
本件登録商標の要部である「」は、韓国内の一般需要者の日本語教育水準から見ると「소후란(ソフラン)」と呼称されると見られ、先登録商標はハングル部分から「ソプラン」と呼称されると見られる点、「ソフラン」と「ソプラン」はいずれも3音節で最初の音節と第3音節がそれぞれ「ソ」と「ラン」で同一であり、2番目の音節の差が全体の呼称の聴感に及ぼす影響は他の音節の差より多少低いとみられる点、2番目の音節の初声は「ㅎ(フの子音)」と「ㅍ(プの子音)」で、いずれも無声音に該当し、聴感が類似して区別が容易でなく、一般需要者や取引者が「ㅎ」と「ㅍ」を区別して発音しない場合も頻繁にある点、2番目音節の中声は「ㅜ(フの母音)」と「ㅡ(プの母音)」で、その聴感が類似し、一般需要者や取引者が「ㅜ」と「ㅡ」を区別せずに発音する場合も頻繁にある点などを総合すれば、本件登録商標の要部「
」の呼称である「소후란」と先登録商標の呼称である「소프란」は互いに類似して聴感されるものなので、両商標の要部の呼称は互いに類似する。
対比結果
本件登録商標と先登録商標は外観が類似せず、観念を対比するのは難しいが、要部の呼称が非常に類似して両商標が同一・類似の商品に共に使用される場合、一般需要者や取引者に商品の出所について誤認・混同を引き起こすおそれがあるので、互いに類似の標章に該当する。
専門家からのアドバイス
ジェトロ判例データベースに収録されている事件番号2017ホ7357において、「商標に要部が存在する場合には、その部分が分離観察されるかを判断する必要なく、要部のみを対比することによって商標の類否を判断できると見なければならない」と明らかにした大法院2015フ1690判決を紹介するとともに、このような判断傾向が今後も続くことが予想される旨を述べた。今回の判決も、分離観察されるかを判断せず要部のみで対比して商標の類否を判断した事例である。
一方、特許法院が日本語とアルファベットが結合した商標に対して、日本語のカタカナで構成された「」を要部と判断した点と、これを韓国内の一般需要者の日本語教育水準から見ると「소후란(ソフラン)」と呼称されると判断した点は、日本語を構成要素の一部とする商標の対比に関してひらがなやカタカナを文字として捉える具体的な判断事例としても意義があるといえよう。
注記
-
韓国語では、言語の性格上、英語の「f」の音が「p」の音と同一に発音されたり、両音は同一のハングル表記になることがある。日本語の「ソフラン」の場合も、韓国語上で「f」の部分が「p」として認識されると、「ソプラン(소프란)」となってしまう。
ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム
ジェトロ・ソウル事務所 知的財産チームは、韓国の知的財産に関する各種研究、情報の収集・分析・提供、関係者に対する助言や相談、広報啓発活動、取り締まりの支援などを行っています。各種問い合わせ、相談、訪問をご希望の方はご連絡ください。
担当者:大塚、李(イ)、半田(いずれも日本語可)
E-mail:kos-jetroipr@jetro.go.jp
Tel :+82-2-3210-0195