知財判例データベース 著名商標と類似する標章の使用についてパロディとは言い難く不競法の識別力毀損行為に該当すると判断した事例

基本情報

区分
商標
判断主体
ソウル中央地方法院
当事者
原告 A社 vs 被告 B社
事件番号
2016ガ合36473
言い渡し日
2018年10月04日
事件の経過
原告一部勝、2018年11月30日確定

概要

ソウル中央地方法院は、被告が「クッション化粧品 」のような使用標章記載の標章を使用して製品を製造・販売した行為は不正競争防止法第2条第1号ハ目の識別力毀損行為に該当するため、原告は被告に対して不正競争防止法上の差止請求権と損害賠償請求権を行使することができると判断した。

事実関係

原告は「Louis Vuitton」というブランドで高級バッグ、財布、衣類等の様々な製品を生産し世界各国で販売するフランス法人で、韓国国内では1991年頃に子会社を設立し、当該子会社を通じて製品を輸入・販売している。
原告はいわゆる「LVモノグラム」と呼ばれる[表1]の登録商標の商標権者である。

表1
区分 標章 指定商品
原告の登録商標 第123535号第3件 LVモノグラムの図1 第3類香水等、第14類貴金属製コンパクト等、第18類携帯用化粧品箱等、第21類くし等
原告の登録商標 第109060号第7件 LVモノグラムの図2 第14類貴金属製宝石箱等、第16類紙製及びボール紙製箱等、第18類ハンドバッグ等

原告は2003年頃、[表2]の[図1]のようにLVモノグラムを構成する個別図形を多様なカラーで彩色した「マルチカラーLVモノグラム」と呼ばれる商品標識を使用した製品([図2]参照)を発表し、現在まで生産・販売している(以下、上記LVモノグラム及びマルチカラーLVモノグラムを総称して「本件商品標識」という)。

表2
図1 図2
マルチカラーLVモノグラムの図 マルチカラーLVモノグラムのバッグ マルチカラーLVモノグラムの長財布

被告は化粧品の製造・販売業等を営む会社として、2016年4月頃から同年11月頃まで、[表3]の各製品の前面又は表面の約2/3の面積に表示されている被告の使用標章記載の標章(以下「本件使用標章」という)を使用してクッション化粧品(ファンデーション)98,000点を生産・販売し、販売時に巾着袋と鏡をノベルティとして提供した(以下、クッション化粧品、巾着袋、鏡を総称して「本件各製品」という)。

表3
クッション化粧品 巾着袋
クッション化粧品の写真 巾着袋の写真 鏡の写真

本件商品標識は数十~数百万ウォン(数万~数十万円)のバッグ、財布等に使用され、本件商品標識が使用された原告製品は主に大都市の有名デパートのブランドショップや免税店等で販売される一方、本件使用標章は2万ウォン(2千円)台の中低価格クッション化粧品及びそのノベルティに使用され、本件使用標章が使用された被告製品は地下鉄駅構内の店舗や路面店、オンラインショッピングモール等で販売されている。

判決内容

1. 関連法理

不正競争防止法第2条第1号ハ目 で使用している「国内に広く認識されている」という用語は、「周知の程度」を超えて関係取引者以外に一般公衆の大部分にまで広く知られるようになったいわゆる「著名の程度」にまで至ったことを意味するものと解釈するのが妥当で、「識別力を害する」とは「特定の標識の商品標識や営業標識としての出所表示機能が毀損されること」を意味し、「名声を害する」とは「著名な程度に至った特定の標識を否定的なイメージを有する商品又は営業に使用することにより、その標識が有する良質のイメージ及び価値を毀損させること」をいい、識別力や名声の毀損のためにその商品又は営業標識が必ずしも同種・類似関係又は競争関係にある商品又は営業に用いられなければならないものではない。そして識別力や名声の毀損行為に該当する標識の使用は「商業的使用」を意味するものとして、商品又は営業であることを表示する標識として使用したものでなければ、識別力又は名声の毀損行為に該当しない。

2. 具体的判断

イ. 商標的使用か否か

本件使用標章は本件各製品の前面又は表面の約2/3の面積に表示されているため、本件各製品の装飾的審美感を感じさせる機能をするものとはみられるものの、その一方で①本件商品標識が国内で原告の商品出所を表示する標識として広く認識されている周知・著名商標である点、②本件使用標章が本件各製品に表示された位置及び面積、及び③被告が本件各製品と関連し「ルイヴィトンのバッグを抱えたゾーイ(製品名)」と広告したこともあった点等を総合してみれば、被告は本件使用標章を商品の出所表示のためとしても使用したものとみられる。

ロ. 本件商品標識が国内に広く認識されているか否か

LVモノグラムは国内の法院の判決等を通じて幾度もその周知・著名性が認められたことがあり、原告の製品は最近数年間の売上額だけでも2009年3,721億ウォン、2010年4,273億ウォン、2011年4,973億ウォン相当にのぼる。よって、本件商品標識は国内に広く認識されている原告の商品標識として一般公衆の大部分にまで広く知られた「著名な程度」に至った商標に該当するといえる。

ハ. 本件商品標識と本件使用標章の類否

本件商品標識と本件使用標章を構成する個別図形は[表4]の図形1~4の形状のとおりであり、本件標章のうちマルチカラーLVモノグラムと本件使用標章は白地に前記個別図形が多様なカラーで彩色された形態で構成される。

表4
区分 図形1 図形2 図形3 図形4 彩色された全体
本件商品標識 マルチカラーLVモノグラムの個別形LV マルチカラーLVモノグラムの個別形1 マルチカラーLVモノグラムの個別形2 マルチカラーLVモノグラムの個別形3 マルチカラーLVモノグラムの彩色された全体
本件使用標識 マルチカラーMOBモノグラムの個別形MOB マルチカラーMOBモノグラムの個別形1 マルチカラーMOBモノグラムの個別形2 マルチカラーMOBモノグラムの個別形3 マルチカラーMOBモノグラムの彩色された全体

本件商品標識と本件使用標章とは、文字からなる図形1 においては外観上差異があるが、残り3つの図形においては互いに類似の点が多く、また、様々な図形が規則的・反復的に配列されている商標の場合、その個別図形の細部までを正確に観察し記憶することによって商品の出所を識別するよりは、商標全体が与える印象によって商品の出所を識別するのが一般的であって、取引者や一般需要者に外観上最も強い印象を与え記憶・連想を引き起こす特徴的な部分は、両商標の各個別図形の具体的・細部的な形状というよりは直観的に認識されうる各図形のモチーフ、全体的構成、配列形態及び表現方法等であるといえるため、時と場所を異にして両商標に接する取引者や一般需要者は、以上のような互いに類似する外観上の特徴から強い印象を受けて記憶・連想することにより商品出所に関して誤認・混同を生じるおそれがあるといえる。したがって、本件商品標識と本件使用標章は互いに類似の商標といえる。

ニ. 本件商品標識の識別力又は名声毀損の有無

本件商品標識と類似する商標が本件各製品のように市場で一般的に流通される製品としてありふれて使用されるとすれば、本件商品標識の名声、高級なブランドイメージ及び価値が毀損され、需要者が本件商品標識の製品の購入を回避したり少なくとも躊躇するようになることを容易に推察できる等の事情を総合してみれば、被告の本件使用標章の使用行為により原告の商標として国内に広く認識されている本件商品標識の独特かつ唯一無二の出所表示としての力、又はそのような独特さや唯一無二性から発現される顧客吸引力の減少を招くことが起こり得るため、被告が本件使用標章を使用して本件各製品を生産・販売した行為は本件商品標識の識別力を毀損する行為に該当するといえる。

3. 被告の公正使用の主張に関する判断

イ. 判断基準

商標のパロディは表現の自由により保護される必要性があるが、その性質上、批評ないし風刺の対象になる元の商標をパロディ自体から想起させることから、商標法上の混同の可能性は低いものの、元の商標の名声や識別力が毀損されることが起こり得る。したがって、商標のパロディが商標の公正使用として不正競争防止法の正当な事由に該当すると認められるかどうかは、自己のアイディアを表現するために当該商標を利用しようとするパロディスト(parodist)の利益、パロディを通じた当該商標の利用を許容することによる公衆の利益と商標の使用によって商標権者が受ける不利益とを比較し、公正な取引慣行に符合するかどうか等を総合的に考慮して判断しなければならない。

ロ. 具体的判断

被告は「マイアザーバッグ」との間で本件使用標章等に関するライセンス契約を結び、マイアザーバッグとコラボーレーションした旨を広告した。一方、被告は本件各製品の広告において「ルイヴィトンのバッグを抱えたゾーイという文句を使用して原告の商標・商号を直接的に引用した。また本件各製品の「My Other Bag × THE FACE SHOP」という表示は、一般的にデザイナーの共同作業であることを表す「×」とともに会社名として使用されたものに過ぎず、特定のメッセージを伝える意図で使用されたものとは言い難く、「My Other Bag」という文字とバッグのイラストが同じ面に表示されているため戯画としての意図が明確に表れておらず、原告のバッグのイラストに本件商品標識と類似する本件使用標章を反復的に表示しただけであって被告独自の創作的要素が加味されたとは言い難い。これらの事情を総合してみると、被告は本件商品標識の周知・著名性を利用するための意図で本件使用標章を使用したものとみられ、被告が主張する「ブランド消費、誇示消費を批判し、価値消費、合理的消費を指向する象徴的価値を具現したもの」という等の論評的意味が伝達されるとは言えず、本件商品標識の希釈化が発生することは上述のとおりであるので、被告の本件使用標章の使用が商標のパロディとして公正使用に該当すると言うことはできない。

4. 結論

被告は著名商標である本件各商品標識を模倣し、本件商品標識が有する良質のイメージや顧客吸引力に便乗して利益を得、本件商品標識の価値を希釈化したため、本件使用標章を使用して本件製品を製造・販売した被告の行為は不正競争防止法第2条第1号ハ目の識別力毀損行為に該当する。

専門家からのアドバイス

本件において原告は被告の使用標章による出所混同に対しても主張したが、法院は、原告と被告の間には顧客層の重複等による競業・競合関係が存在するとは言い難く、かつ原告製品と本件各製品はその取引場所、取引方法、取引価格等が互いに異なっている等の理由を示して、本件使用標章は原告製品と同じ出所であるとして混同を生じさせるおそれはないものと判断した。本件は、使用標章により出所混同のおそれはないものの周知・著名性のある商品標識の識別力毀損行為には該当すると判断したという点とともに、被告側の抗弁に基づいて使用標章が商標のパロディとしての公正使用に該当するか否かを判断しつつパロディとは認められない理由を具体的に判示しているという点で、商標のパロディとしての使用について判断を示した先例として意味があるといえる。特に、周知・著名性のある商品標識を使用し、それをパロディ化して別の製品を製造・販売する第三者がいるような場合には、模倣品対策として参考になる判例となろう。

ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム

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