知財判例データベース 競合社のマウスウォッシュディスペンサに装着できるマウスウォッシュ製品を製造して、自社製品の販売に利用することは不正競争行為に該当すると判断した事例

基本情報

区分
不正競争
判断主体
ソウル中央地方法院
当事者
原告 株式会社エルシーシー流通 vs 被告 株式会社サミル
事件番号
2017ガ合562146
言い渡し日
2018年06月22日
事件の経過
確定

概要

ソウル中央地方法院は、原告がディスペンサ用マウスウォッシュを販売するために20億ウォン以上の費用をかけて約7万台のマウスウォッシュディスペンサを無償で設置したことは、原告の相当な投資又は労力により作成された成果に該当すると判断し、また、被告が自社のマウスウォッシュ製品を原告のマウスウォッシュディスペンサに使用できる規格で製作し、被告製品の販売に利用する行為は、原告が成し遂げた成果にただ乗りしようとするもので、公正な商取引慣行又は競争秩序に反するだけでなく、原告の経済的利益を侵害するので、不正競争防止及び営業秘密保護に関する法律(以下「不正競争防止法」)第2条第1号ヌ目(条文内容は後述)に該当すると判決した。

事実関係

原告は、韓国で初めて会社、飲食店、ゴルフ場などの多くの人々が利用する施設のトイレにマウスウォッシュディスペンサを設置し、それに装着されるマウスウォッシュを販売する事業を構想し、2003年頃からマウスウォッシュ、コップ、マウスウォッシュディスペンサを製造・販売してきた。しかし、消費者の自発的なマウスウォッシュディスペンサの購入を期待するのが難しく、原告はこれを無償で設置することにし、2003年頃から現在まで国内各地に約7万台のマウスウォッシュディスペンサを設置し、1台当たりの設置費用は約3万ウォンであった。また、原告は2004年にマウスウォッシュ容器について韓国特許庁にデザイン登録を行った。

原告がディスペンサ用マウスウォッシュ市場を開拓するや、後発業者らが市場に参入したが、それらは原告の製品とは相互互換性のない製品であった。しかし、そのうちの一社が原告の製品と互換可能な規格で製品を製作したことから原告は韓国公正取引調停院に調停を申請し、原告のディスペンサに装着できないようマウスウォッシュの容器と紙コップの形態を変更させたこともあった。

被告は、2017年5月頃からマウスウォッシュディスペンサを製造・設置し、容器入りのマウスウォッシュを販売しており、同社製品のチラシに「原告のマウスウォッシュディスペンサに装着可能。ただし、被告のディスペンサへの原告のマウスウォッシュ容器は使用不可」といった要旨の文句が記載されていた。

本件で被告は、自社のマウスウォッシュ容器は原告登録デザインと類似せず、大きさが異なるため原告製品と互換性がなく、マウスウォッシュディスペンサを無償で設置したのは販売促進行為や選択による営業行為に過ぎないので、不正競争防止法の保護対象になり得ず、被告のマウスウォッシュ製品を原告のディスペンサに取りつけることができるという広告は、被告商品を取り扱う卸売商が任意にしたものであって、被告がそのような内容の広告をしたことはないと主張した。

参考
原告製品 被告製品
原告のマウスウォッシュ容器及びディスペンサ 被告のマウスウォッシュ容器及びディスペンサ

判決内容

関連法理

新たな類型の不正競争行為に対する不正競争防止法の適用範囲を拡大するために、既存の限定的、列挙的方式で規定されていた不正競争行為を補う形で補充的一般条項として「他人の相当な投資又は労力により作成された成果等を公正な商取引慣行又は競争秩序に反する方法により自身の営業のために無断で使用することにより、他人の経済的利益を侵害する行為」を不正競争行為の1つとして規定する第2条第1号ヌ目(注1)が新設された。

原告の相当な投資又は労力により作成された成果に該当するか否か

原告は、2003年頃に初めてディスペンサ用マウスウォッシュを販売するためにマウスウォッシュディスペンサを開発し、無料で設置する事業を始めて国内各地に約7万台を設置、その費用は計20億ウォンを超える。原告がディスペンサを設置した場所は会社、飲食店、ゴルフ場などのトイレで、多くの人々が利用する施設であるが、このような施設の管理者からマウスウォッシュディスペンサ設置に関する許諾を受ける過程でも原告は相当な労力を投じたものと見られる。このような原告の投資又は労力の結果として原告は2015年度基準でディスペンサ用マウスウォッシュ市場の占有率58%という成果をあげ、この市場で最大手の地位を維持している。このような事情を考慮すると、原告が国内各地に設置したマウスウォッシュディスペンサは原告の長期間にわたった相当な投資又は労力によって作成された成果に該当すると見るべきである。

被告が原告の成果を無断で使用したか否か

後発競合社が生産・販売するマウスウォッシュ容器は、その高さ、幅、奥行、ボトルの首の直径が原告の容器と顕著に異なり、原告のマウスウォッシュディスペンサへの装着が不可能な事実を認めることができる。しかし、被告の容器はこれら後発競合社とは異なり、上端に若干の力を加えれば、原告のディスペンサに特に問題なく脱着でき、液漏れなどを起こさず十分に排出される事実を認めることができる。

ディスペンサ用マウスウォッシュ製品の営業形態とその市場での原告の地位、他の競合業者の容器の形態、被告の広報及び営業実態、及び被告が容器を他の規格で製作できるにもかかわらず原告のマウスウォッシュディスペンサに装着できる規格で製作するようになった経緯について適当な説明ができない点に照らしてみれば、被告は、自社の製品を原告のディスペンサに使用できるようにすることによって被告製品の販売に利用したということができ、これは原告が設置したディスペンサをそのまま無断で使用して原告が成し遂げた成果にただ乗りしようとするもので、公正な商取引慣行や競争秩序に反する行為として正当化され得ない。

被告が原告の経済的利益を侵害したか否か

被告は、原告が設置したディスペンサを利用できるように自社の製品容器を原告のディスペンサに装着できる規格で生産・販売することによって、原告のディスペンサのみが設置された事業所にも被告の製品を販売して経済的利益を得ており、それにより、その分だけ原告の製品が売れなくしており、原告の経済的利益を侵害した。

結論

被告は、自社製品の販売のために原告のディスペンサに装着できる規格で本件被告のマウスウォッシュ容器を生産・販売したことにより、公正な商取引慣行や競争秩序に反する方法で原告の相当な投資又は労力によって作成された成果である国内に設置された原告のマウスウォッシュディスペンサを無断で使用し、原告の経済的利益を侵害した。したがって、被告の行為は不正競争防止法第2条第1号ヌ目の不正競争行為に該当する。

専門家からのアドバイス

多様な形態で具現される新たな成果物とこれを開発するための労力は法的に保護する必要があるにもかかわらず、特許法、商標法、デザイン保護法等のような既存の知的財産権法と、限定列挙方式をとっていた従来の不正競争防止法の枠組みでは、その保護が十分になされないことがあった。そこで、不正競争防止法の改正を通じて一般条項が導入され、2014年1月31日から施行されてきたわけだが、本事例は不正競争防止法上の一般条項の機能や役割をよく示すものであるといえる。一方、本件で原告は不正競争行為に関する主張とともに、マウスウォッシュ容器に対するデザイン権侵害も主張したのであるが、法院は不正競争防止法第2条第1号ヌ目を適用して判断したことによって、デザイン権侵害の成否については別途に判断しなかった。

不正競争防止法第2条第1号ヌ目は一般に不正競争行為についての補充的一般条項として説明されおり、本判決はこのヌ目の適用を示した事例である。これとともに、本判決は、不正競争行為の認定がデザイン権を含む他の知的財産権の適用よりも優先して判断されうることを示したという点でも、本判決を考慮する意義があるといえよう。

ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム

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