知財判例データベース 拒絶決定後に請求項を削除する補正により新たな拒絶理由が発生する場合には補正却下が不当であると判断した事例

基本情報

区分
特許
判断主体
大法院
当事者
原告(被上告人)JX日鉱日石金属株式会社(特許出願人) vs 被告(上告人)特許庁長
事件番号
2014フ553拒絶決定(特)
言い渡し日
2018年06月28日
事件の経過
上告棄却/原審確定

概要

特許法第51条第1項(注1)は、最後の拒絶理由通知を受けた後及び拒絶決定通知を受けた後になされた補正が新たな拒絶理由を有する場合、その補正は決定をもって却下するとした上で、請求項を削除する補正により新たな拒絶理由が発生する場合には、補正却下から除外すると規定している。「請求項を削除する補正により新たな拒絶理由が発生する場合」を「従属項から削除された請求項をそのまま引用する場合」のように、削除された請求項と直接的に関連する拒絶理由にだけ狭く解釈するか、あるいは請求項を削除する補正を補正却下から除外する趣旨を考慮し、出願人に補正機会を与えることが公平であると認められる程度までを含めて緩やかに解釈できるかが問題になった事案において、大法院は後者の解釈を認めた。

事実関係

出願人は拒絶決定後に不服審判を請求すると共に請求項を補正したが、この時、請求項4及び8を削除して請求項9を下記の通り補正した。

補正前の請求項9:「上記第1項、第2項、第3項、第4項又は第8項のリン含有銅アノード」

補正後の請求項9:「上記第1項、第2項、第3項のリン含有銅アノード」

即ち、出願人は、請求項9において「第4項、第8項」のみを削除したのではなく、「又は」という文句まで削除し、これにより特許法施行令第5条第5項で定めている択一引用の記載要件違背で新たな拒絶理由が発生した。 これについて特許庁は、「又は」まで削除して新たな拒絶理由が発生したことは、請求項を削除する補正により新たな拒絶理由が発生したわけではないという理由で補正却下決定をした。

判決内容

旧特許法第51条第1項が、補正に伴って新たな拒絶理由が発生したと認められればその補正を却下するように規定しながらも「請求項を削除する補正」をその対象から除外している趣旨は、補正に伴って新たな拒絶理由が発生した場合には、その補正を却下することにより新たな拒絶理由に関する拒絶理由通知と更なる補正が繰り返されるのを回避して審査手続の迅速化を図るためであるものの、「請求項を削除する補正」については、それによって新たな拒絶理由が発生するとはいっても、上記のような補正の繰り返しによって審査官の新たな審査による業務量増加や審査手続遅延の問題がほぼ生じない一方で、それに対して拒絶理由を通知して補正の機会を再度付与することによって出願人を保護する必要性が大きいというところにある。

このような規定の趣旨に鑑みると、旧特許法第51条第1項本文が規定する請求項を削除する補正に伴って発生した新たな拒絶理由には、単に「請求項を削除する補正をしながらその削除された請求項を引用していた従属項において引用番号をそのままにすることによって、明細書の記載要件を満たさない記載不備が発生する場合」だけでなく、「請求項を削除する補正をし、その削除された請求項を直・間接的に引用していた従属項を補正する過程において、その引用番号を誤って変更したり、従属項が2以上の項を引用する場合に引用される項の番号間に択一的関係に関する記載が欠落することによって上記のような記載不備が発生した場合」も含まれると見るべきである。 補正後の請求項9において「又は」という記載部分まで削除されるに伴って発生する新たな拒絶理由は、旧特許法第51条第1項本文が補正却下事由から除外している「請求項を削除する補正による拒絶理由」に該当するので、特許庁の審査官が拒絶理由を通知して出願人に補正の機会を付与せずにすぐに補正却下決定をしたことは不適法である。

専門家からのアドバイス

韓国の特許審査手続上、最後の拒絶理由通知を受けた後及び拒絶決定通知を受けた後に当該拒絶理由を克服するための補正をする場合は、その補正が新たな拒絶理由を内包していれば、その補正は決定をもって却下される。従って、もし請求項の補正が不明確な表現を含んでいたり、その他の記載不備の拒絶理由を有する場合、その補正全体が却下されて当該拒絶理由を克服することができなかったとして再度拒絶決定処分が下されるようになる。この場合、出願人は特許審判院に不服審判を提起して補正却下処分の不当性を争うか、あるいは補正後の請求項で新たな分割出願をして審査を持続しなければならないので、追加の費用と時間が必要となる。

補正却下制度は、審査官の新たな審査による業務量増加や審査手続遅延の問題を解決するために導入されたが、そのような問題が生じない補正まで補正却下することによって出願人の保護が不十分になる側面があり、請求項の削除により新たな拒絶理由が発生する場合には例外の扱いとする規定が2009年度に導入され、現在も存続している。特許庁は本件において補正却下の例外規定を厳格に限定して適用したが、大法院は今回の判決を通じて、例外規定の適用はその趣旨に合わせて緩やかに適用すべきであると判断したという点は、頻繁に発生するケースではないが出願人にとっては朗報と言えよう。

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