知財判例データベース 「AMERICAN UNIVERSITY」は全体として新たな観念と識別力を形成しており商標登録できると判断した事例

基本情報

区分
商標
判断主体
大法院
当事者
アメリカンユニバーシティ vs 特許庁長
事件番号
2015フ1454(注1)
言い渡し日
2018年06月21日
事件の経過
大法院2018. 6. 21.言渡2015フ1454 判決確定(登録)

概要

指定役務を大学教育業及びこれに関する講座提供業等とし、標章を「AMERICAN UNIVERSITY」とする本件出願サービスマークに対して商標法第6条第1項第4号(顕著な地理的名称)、第7号(その他識別力がない標章)に該当するという理由で拒絶の判断がされた特許庁の決定および審決に関連して、特許法院は、本件出願サービスマークに対して顕著な地理的名称である「AMERICAN」と学校の種類を指す「UNIVERSITY」が結合して「米国の大学」という観念を導出するにとどまらず、不可分的に結合して全体として米国ワシントンD.C.に位置する大学の名称として一般需要者に認識され、新たな識別力を形成しているので、商標法第6条第1項第4号及び第7号に該当しないと判断し、これを大法院は全員合議体で特許法院判決を確定する内容の上告棄却判決を言い渡した。

事実関係

本件出願サービスマークは米国Washington D.C.に位置する総合大学の名称でもある。AMERICAN UNIVERSITY(以下「本件大学」)は1893年に設立されて以来、120年以上、上記名称を学校名として使用しており、米国国内の大学と海外研修プログラムを運営したり、共同で複数学位課程を運営している。

インターネットポータルサイトであるネイバー外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますで「AMERICAN UNIVERSITY」を検索すると、2013年6月17日現在、59,761件のブログ検索結果、22,770件のカフェ(コミュニティーサイト)検索結果、5,876件の知識iN(ソーシャルQ&A)検索結果が示される。その大部分は、本件大学と関連した内容であって、海外留学等に関心がある者が本件大学に関する情報等を得るために「AMERICAN UNIVERSITY」を頻繁に検索していることが分かる。

本件大学の沿革、学生数、大学施設、国内外での知名度、ポータルサイトで検索される「AMERICAN UNIVERSITY」の実際の使用内訳等に照らしてみるとき、本件出願サービスマークは指定役務である大学教育業等と関連して米国留学準備生等の需要者に原告が運営する本件大学の名称として相当知られていると言うことができる。

判決内容

関連法理

顕著な地理的名称、その略語または地図のみからなる商標またはサービスマークは登録を受けることができない。このような商標は、その顕著性と周知性のために商標の識別力を認めることができず、特定個人に独占使用権を付与しないようにすることに立法趣旨がある。これに照らしてみると、上記規定は顕著な地理的名称等が他の識別力のない標章と結合している商標にも適用され得る。しかし、そのような結合で本来の顕著な地理的名称等を離れて新たな観念を生んだり、新たな識別力を形成する場合には、商標として登録できる。顕著な地理的名称と標章が結合した商標に新たな観念や新たな識別力が生じる場合は多種多様なので、具体的な事案において個別に新たな観念や識別力が生じたかを判断すべきである。顕著な地理的名称が大学を意味する単語と結合している商標に対しても同様の法理が適用される。従って、このような商標が顕著な地理的名称と大学という単語の結合で本来の顕著な地理的名称を離れて新たな観念を生んだり、新たな識別力を形成した場合には、商標登録をすることができる。この場合、顕著な地理的名称と大学という単語の結合だけで無条件に新たな観念や識別力が生じると言うことはできない。大法院は従来このような態度をとっていたと言うことができる。大法院2015年1月29日言渡2014フ2283判決は、上記法理に基づいて「ソウル大学校のハングル表記」という商標が旧商標法第6条第1項第4号に該当しないと判断した原審判決を維持したが、該当事件の原審はその理由の1つに、上記商標は顕著な地理的名称である「ソウル」と「大学校」が結合して単に「ソウルにある大学」という意味ではなく、「ソウル特別市冠岳区等に所在している国立総合大学校」という新たな観念を形成しているという点を挙げている。大法院判決は原審判決の理由を引用し、上記条項に関する法理を誤解していないと判断しているが、上記法理に背馳すると言うことができず、これを変更する理由がない。

本件出願サービスマークが旧商標法第6条第1項第4号及び第7号に該当するかどうか

本件出願サービスマークの「AMERICAN」部分は「米国の」等の意味があり、需要者に米国を直感させる顕著な地理的名称に該当し、「UNIVERSITY」部分は「大学」または「大学校」という意味があり、本件出願サービスマークの指定役務である「大学教育業、教授業」との関係で記述的標章に該当する。しかし、本件大学は米国ワシントンD.C.に位置する総合大学で、1893年に設立されて以来、120年以上「AMERICAN UNIVERSITY」を校名として使用しており、大学の沿革、学生数、大学施設、国内外での認知度、ポータルサイトで検索される「AMERICAN UNIVERSITY」の実際の使用内訳等に照らしてみれば、「AMERICAN UNIVERSITY」という出願サービスマークは指定役務である大学教育業等と関連し、米国留学準備生をはじめとした需要者に原告が運営する本件大学の名称として相当知られていると言うことができる。従って、本件出願サービスマークは「AMERICAN」と「UNIVERSITY」が結合して全体として新たな観念を形成しており、さらに指定役務である大学教育業等と関連して新たな識別力を形成しているので、旧商標法第6条第1項第4号、第7号に該当しない。

別個意見1(注2)

顕著な地理的名称に大学を意味する単語が結合した標章が商標として登録を受けることができるかどうかは、そのような結合によって本来の顕著な地理的名称を離れて新たな観念を生んだり、新たな識別力を形成すると見られるかにかかっている。ところが、多数意見はこのような判断基準を前提としながらも、具体的検討に至ってはこのような点について詳察せず、需要者に相当知られていると言うことができるかという点について詳察し、これを根拠として旧商標法第6条第1項第4号の適用が排除されるという結論を下している。旧商標法第6条第1項第4号の該当性の判断基準になる標章の構成による識別力は、標章そのものの「本質的な識別力」であって、同条第2項が規定している「使用による識別力」と明確に区分される。多数意見はこの点を混同している。本件出願サービスマークは「AMERICAN」と「UNIVERSITY」が結合して全体として新たな観念を生んだり、新たな識別力を形成しているので、旧商標法第6条第1項第4号、第7号に該当しない。上告を棄却すべきであるという結論では多数意見と意見を同じくするが、その具体的な理由は異にするので、別個意見としてこれを明らかにしておく。

別個意見2

顕著な地理的名称と大学を意味する単語が結合した標章が、大学の固有業務である大学教育業等と関連して登録出願されたのであれば、このような標章はそれ自体で商標登録を受けるのに十分な本質的識別力を備えたものと言うことができるので、商標登録が可能である。

多数意見に対する補充意見

別個意見1は、顕著な地理的名称と結合した大学の名称に対しては一律的に旧商標法第6条第1項第4号に該当しないと解釈して上記規定の適用範囲を過度に限定し、商標法全体との均衡を崩すものであって、同意できない。商標法の領域で顕著な地理的名称と結合した識別力のない標章に対して大学の名称であるという理由だけで登録を許容するならば、一般の商標権者との公平性を損なうようになる。従って、本件出願サービスマークが本来の地理的意味ではなく、本件大学のような特定の大学を意味するものと認識されるためには、韓国の需要者の認識に基づいて特定大学としての新たな観念や新たな識別力を形成したものと理解する多数意見がより合理的なアプローチ方式であると言える。

専門家からのアドバイス

顕著な地理的名称に対して商標登録を許容していない旧商標法第6条第1項第4号(現行商標法第33条第1項第4号)は、韓国と中国以外にはほぼ見られない特異な立法例に属する。韓国では以前から地理的名称を商標の構成として使用する事例が多く、特に地理的名称を識別力がない業種名等と結合して構成した標章に対して商標登録が可能か否かに関して紛争が少なくなかった。

今回の判決は、顕著な地理的名称が含まれた結合商標の識別力の有無及び商標登録の可否に関し、大法院が全員合議体を通じて大法院の見解と具体的な判断基準を提示したという点で大きな意義があると言えよう。

ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム

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