知財判例データベース 商標の一部分が要部の場合、この部分の分離観察可否に関わらず要部のみを対比して類否判断することを可能とした事例

基本情報

区分
商標
判断主体
特許法院
当事者
原告 株式会社チャンス産業 vs 被告 個人
事件番号
2017ホ7357
言い渡し日
2018年04月05日
事件の経過
確定

概要

先使用商標「장수돌침대」(チャンス(長寿)石ベッド)の権利者が、「チャンスセン」のように構成されてなる登録商標の権利者を相手に、登録商標が旧商標法第7条第1項第11号(注1)に該当すると主張して登録無効審判を請求した事案において、特許審判院は、本件登録商標は先使用商標と外観が相違し「長期の浪人生」の意味も合わせもち「장수(チャンス)」だけで分離観察されないため、「장수(チャンス)」に分離観察される先使用商標とは呼称および観念が異なり商品出所の誤認・混同および需要者欺瞞のおそれがないという理由で審判請求を棄却したが、特許法院は両標章の要部のみを対比し、本件登録商標がその指定商品に使用される場合、先使用商標権者によって使用されるものと誤認・混同を生じさせ需要者を欺瞞するおそれがあるという理由で登録無効と判断した。

事実関係

原告は1993年頃から先使用商標である「チャンス石ベッド」(以下「先使用商標」という)という標章を付した石ベッド製品(注2)の生産・販売を開始し、TV、ラジオ、新聞、雑誌などを通じて全国的に製品を広告してきた。同製品の1993年から2008年までの国内売上額は合計約2千300億ウォン(約230億円)、支出した広告費は合計約130億ウォン(約13億円)にのぼる。また原告の「チャンス石ベッド」は1995年から1999年までTVホームショッピングのヒット商品に選ばれたほか、コリアタイムズが選ぶベストブランド賞(2002年)、韓国能率協会認証院が選ぶ顧客満足経営最優秀賞(2002年)、優秀電気製品大統領表彰(2004年)、口コミブランド大賞(健康ベッド部門)(2006年)、優秀デザイン商品(2007年)、韓国消費者フォーラム主催・消費者投票により選ばれる「今年のブランド大賞(機能性ベッド部門)」(2007~2014年)などをそれぞれ受賞した。原告は本件登録商標の登録時である2008年当時、全国約100か所の代理店、デパート、オンラインショッピングモールおよびTVホームショッピングなどを通じて先使用商標が付された石ベッド製品を販売し、占有率の面でも、2004年から2008年頃まで継続して国内石ベッド市場で約50%、ウォーターベッド等も含む機能性ベッド市場でも35%ほどの占有率を記録した。さらに2009年12月に韓国ギャラップ調査研究所が実施した「石ベッド商標の認知度および認知形態調査」の結果、先使用商標が認知度首位、「チャンス」が含まれた製品が同一会社の製品と認識される割合も最も高いことが明らかになった。

判決内容

先使用商標の認知度

特許法院は以上の事実関係を認め、先使用商標が付された製品の広告現況、販売期間、販売網、売上および広告規模、ブランド関連受賞実績、市場占有率および認知度などを総合的に考慮してみるとき、先使用商標は本件登録商標の登録決定日である2008年8月26日頃、「石ベッド」と関連して少なくとも一般需要者や取引者に特定人の商品を表示するものと認識される程度には知られていたといえると判断した。

先使用商標と本件登録商標の要部

先使用商標は「石ベッド」を使用商品として「チャンス石ベッド」と構成されているところ、「チャンス(長寿)」部分は「長生きする、寿命が伸びる」などの意味を有する単語であって、指定商品および使用商品の性質を暗示もしくは強調するだけであり、直感させるとまではみられず、標章の前段部に位置し識別力がある一方で、「石ベッド」部分は使用商品の普通名称を表す部分で識別力がない。「チャンス石ベッド」という先使用商標が使用商品である「石ベッド」に使われた期間、メディアに紹介された回数および内容、その広報の程度、市場占有率、市場での認知度など上述の事情に照らしてみるとき、先使用商標のうち識別力がある「チャンス」部分は本件登録商標の指定商品と同じ「石ベッド」と関連して一般需要者に特定人の商品を表示するものと認識され、その識別力がより高まったといえる。これらの点などを総合してみれば、先使用商標において「チャンス」は独立的な識別標識機能を発揮する要部に該当する。

本件登録商標は「チャンス」と「セン」という各文字部分が間隔なしに一連からなっているものの、そのうち「チャンス」部分が商標の前部分に位置しているだけでなく、先使用商標の要部と同一で、同様に強い識別力を有する一方、「セン」部分は接頭辞として「熟していない、水気が残った、未加工の」などの意味を有したり、接尾辞として「学生」の意味を加える語として用いられ、その指定商品である石ベッドなどと関連して識別力が微弱である。さらにたとえ「チャンスセン」が「長期の浪人生」という新しい意味を有するとしても、これは2002年頃に新語として認定され、現在まで標準語としては認められていないだけでなく、本件指定商品である「石ベッド」との関係に照らしてみるとき、一般需要者が否定的な意味を有する上記「チャンスセン」の意味を直感できるとは見難い。一方、被告は「チャンスセントチムデ」のように本件登録商標「チャンスセン」に対象商品を意味する「トチムデ」(土ベッドの意)を間隔なしに構成して本件登録商標を使用した事実を認めることができるが、この場合、一般需要者の立場からは「チャンスセン/トチムデ」よりは「チャンス/セントチムデ」(セントチムデが生土ベッドの意)と認識され、本件登録商標のうち「チャンス」部分の識別力がより強まる。したがって、本件登録商標はその文字部分の「チャンス」と「セン」とが結合した一体としてのみ識別標識機能を発揮するとは見難く、「チャンス」部分が独立的な識別標識機能を発揮する要部といえる。

本件登録商標と先使用商標の類否

本件登録商標は先使用商標と外観が相違するものの、両標章ともに要部が「チャンス」で同じく、その呼称および観念が同一である。したがって本件登録商標が先使用商標の使用商品と同一または類似の商品にともに使用される場合、一般需要者や取引者をして商品の出所に関して誤認・混同を生じさせるおそれがあるので、本件登録商標と先使用商標はその標章が互いに類似する。

本件登録商標が旧商標法第7条第1項第11号で規定する需要者を欺瞞するおそれがある商標に該当するか

本件登録商標はその登録決定日当時、石ベッドと関連して需要者間に特定人の商品を表示するものと認識されていた先使用商標と類似し、その指定商品も先使用商標の使用商品と同一・類似であるか経済的牽連の程度が密接であるため、本件登録商標がその指定商品に使用される場合、先使用商標の権利者である原告によって使用されるものと誤認・混同を生じさせる事情がある。したがって本件登録商標は先使用商標との関係で需要者を欺瞞するおそれがあるので、旧商標法第7条第1項第11号に該当してその登録が無効とならなければならない。

専門家からのアドバイス

特許審判院および特許法院では、ある商標が一体不可分的に構成されているため形式的に分離観察することが自然でない商標の場合には、その商標の一部分が要部として機能するか否かに関わらず、全体として観察されるはずであると判断する傾向にあった。しかし最近大法院が、2015フ1690判決で「商標に要部が存在する場合には、その部分が分離観察されるかを判断する必要なく、要部のみを対比することによって商標の類否を判断できると見なければならない」と明示して以降、全体観察の原則を積極的に適用してきた判断傾向に影響を与えるものと予想され、特許法院がこのような大法院の判例に添う判断をしたという点で、今後もこのような判断傾向が続いていくものと予想される。

日本の知財高裁でも、平成30年3月7日判決(注3)において本件商標「ゲンコツコロッケ」の要部が「ゲンコツ」であると認めて、引用商標「ゲンコツ」と類似すると判断した事例があり、韓国の判決傾向と類似点があるものと思われる。韓国の商標に関して知財戦略を策定する場合には、商標の共通する要部に、識別力がない又は弱い文字が結合されている場合は類似と判断される可能性が大いにあり得るという点で本判決を参考にすることができよう。

ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム

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