知財判例データベース 複数の先行発明による進歩性否定のためには先行発明に構成要素を結合して当該発明に想到し得る暗示等の存在が必要か

基本情報

区分
特許
判断主体
特許法院
当事者
原告 特許権者(テボン) vs 被告 審判請求人(新世代)
事件番号
2017ホ4228無効審判(特)
言い渡し日
2018年02月08日
事件の経過
審理不続行棄却(確定)

概要

通常の技術者がいくつかの先行発明から一部構成要素を分離した後、これを組合わせまたは結合して容易に発明することができ、その進歩性が否定されて特許登録を受けることができないとするためには、単にそのような組合わせまたは結合により請求項の構成に想到し得るというだけでは不十分で、通常の技術者が容易にそのような試行をすることができ、その結果を予測できると言えるだけの事情、即ち、先行発明にそのような構成要素を組合わせまたは結合すれば、当該発明に想到し得るという暗示、動機などが提示されていたり、当該発明が公知となった構成要素を公知の方法で組合わせまたは結合したものに過ぎず、それによる効果も知られていたり予測可能な程度にとどまる等、出願当時の技術水準、技術常識、当該技術分野の基本的課題、発展傾向、当該業界の要求などに照らしてみて、通常の技術者が容易にそのような結合に想到し得ると認めることができる場合でなければならない。

事実関係

審判請求人は発明の名称を「医療用及び生理用吸収体」とする本件特許(韓国特許第940223号)に対して無効審判を請求し、特許審判院は先行発明1から進歩性が否定されるという理由で請求を認容した。しかし、特許権者はこれを不服として特許法院に審決取消訴訟を提起し、審判請求人は訴訟の中で先行発明1または先行発明1と4の結合により進歩性が否定されるという主張をした。

判決内容

本件発明 先行発明1(韓国特許公開2008-91117)
本件発明の平坦型吸収体の図面 先行発明のカバー物質を有する吸収複合体の図面

女性用挿入型生理用品であるタンポンの場合、人体内に長く留まることにより経血を吸収するが、このような吸収及び排出過程で吸収層をなす繊維が脱落して人体内に残らないようにしなければならない。このために本件発明と先行発明は液体透過層(液体透過用カバー)が吸収層(吸収複合体)を完全に囲むようにして吸収層(吸収複合体)が女性の膣の内壁と直接接触したり人体内部に露出されるのを防ぐ。ところが、具体的な解決手段において、本件発明はまず液体透過層(12)の上端と下端が吸収層(11)を取り囲むように重ねた後、これを長手方向に巻いて円柱状吸収体を作る一方、先行発明1は液体透過用カバー(130)が吸収複合体(12)の外側全周を取り囲むように丸く巻いた後、カバーの残余部分をタンポンの本体端部内に押し込んで吸収複合体を封入する。

このような具体的解決手段の差によって、本件発明は液体透過層(12)により吸収層(11)を封入した部分が円柱状吸収体(1)の内側に丸く巻かれて位置するようになり、本体端部から内に押し込む方式で封入する先行発明1に比べ、より安定的に吸収層の露出とそれによる吸収層繊維の脱落を防止できる。吸収体が経血を吸収すると、体積が膨張して封入が多少緩くなり得る点、タンポンが主に身体活動が多い日に用いられて長時間体内に留まる点などを考慮すると、このような効果の差がさらに重要になる。 審判請求人は、通常の技術者が先行発明4の親水性の外部層が吸収体である挿入層を完全に取り囲む構成を結合して差異を容易に克服できると主張する。

しかし、先行発明4は初期に吸収された血液が凝固してタンポンの繊維が塞がることによって経血が早期に漏出するのを防止するために、吸収性繊維からなったベット(20')に微細波形を形成する前処理をして経血を効果的に吸収する一方、早期漏出のおそれを減少させようとしたものである。

先行発明4の図
ベッド、外部層、挿入層などの位置を示した図面

これは挿入層(24)の吸収力が強かったり、膣の粘膜表面に接触することが望ましくないためであると判断され、これにより吸収体である挿入層(24)の繊維脱落を防ごうと意図したものではない。通常の技術者としては、先行発明4の外部層(21)とベット(20)の結合体が挿入層(24)を取り囲むように重ねる構成を通じて挿入層の繊維の脱落を防ごうとする本件発明の技術的課題を認識できず、先行発明1の液体透過用カバーと吸収複合体に先行発明4の上記構成を適用する何ら動機がない。

専門家からのアドバイス

韓国大法院は2007年9月6日言渡2005フ3284判決(いわゆる「フォームファクタ判決」)で「特許発明の進歩性の有無を判断するにおいては、請求項に記載された複数の構成を分解した後、それぞれ分解された個別構成要素が公知となったものかどうかのみを判断してはならず、特有の課題解決原理に基づいて有機的に結合した全体としての構成の困難性を判断すべきであり、この時、結合した構成全体としての発明が有する特有の効果も共に考慮しなければならない」とし、「いくつかの先行技術文献を引用して特許発明の進歩性を判断するにおいては、その引用される技術を組合わせまたは結合すれば、当該特許発明に想到し得るという暗示、動機などが先行技術文献に提示されていたり、そうでなくても当該特許発明の出願当時の技術水準、技術常識、当該技術分野の基本的課題、発展傾向、当該業界の要求などに照らしてみて、その技術分野に通常の知識を有する者が容易にそのような結合に想到し得ると認めることができる場合には、当該特許発明の進歩性は否定される」と判示した。

今回の特許法院判決は、具体的な判示は同一でないが、上記大法院判例に従ったものであって、先行発明の結合が容易かどうかについて具体的な基準を提示している。特に主な先行発明(主引例)に他の先行発明(副引例)の構成を結合する動機があるかを判断するにおいて、主な先行発明の解決課題と他の先行発明の解決課題を具体的に検討しており、組合わせまたは結合で請求項の構成に想到し得ることを示すだけでは進歩性が否定されると判断できないことを明確にしている。

一方、日本の知財高裁2017年5月31日言渡2016(行ケ)10150判決では、先行技術要素の任意選択を禁止する判断をしたが、副引例に示された構成が副引例全体の教示に比べて特に重要な要素ではないので、あえて当該構成が選択される理由がないという趣旨であったところ、日本と韓国の最近の特許実務は進歩性否定の判断をするにおいて合理的な水準の立証を要求する点においては、ある程度、軌を一にするものと見られる。

今回の判決は最近の特許法院の判断傾向を示しており、このような傾向の韓国の特許実務を考慮すると、特許権者または特許の無効を主張する者は、先行発明の結合による進歩性否定が問題になる時、組合わせまたは結合により請求項の構成に想到し得るかに関する検討にとどまらず、先行発明の具体的な技術的課題、当該構成の技術的意義などを多角度から綿密に検討してみる必要があると言えよう。

ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム

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