知財判例データベース 特許プールに登録されている特許の実施権者が利害関係人であるかどうか
基本情報
- 区分
- 特許
- 判断主体
- 特許法院
- 当事者
- 原告 特許権者(アイベックスPTホールディングス) vs 被告 審判請求人(サムスン電子)
- 事件番号
- 2017ホ2727無効審判(特)
- 言い渡し日
- 2017年10月27日
- 事件の経過
- 上告棄却(確定)(2017フ2819)
概要
特許権に対して実施権の設定を受けたとしても、実施権者が何らの制限もなく実施の許諾を受けて特許権そのものを取得したも同然であると言うことができたり、当事者間に組合関係が成立する等により実施権者が特許権者とその法律上利害関係を同じくして不利益がない等の特別な事情がない限り、原則的に実施権者は、当該特許発明の権利存続によって法律上不利益を被り、その消滅について直接的かつ現実的な利害関係を有する者に該当するとした事例。
事実関係
被告は原告(特許権者)の韓国特許第1,492,105号に対して特許無効審判を請求し、特許審判院は認容審決(無効)を下したが、特許権者は特許法院において、被告が実施権者であって無効審判を請求する直接的かつ現実的な利害関係がないと主張して争った。
判決内容
判断基準
無効審判を請求できる利害関係人とは、無効とされるべき特許発明の権利存続によって法律上、ある不利益を受けたり受けるおそれがあり、その消滅について直接的かつ現実的な利害関係を有する者をいう。実施権者の特許発明の使用はあくまでも実施料の支払いを条件としたり、実施期間、実施地域、実施範囲などの設定行為で定めた範囲内に制限される。また、既に登録された特許発明が存在する場合、たとえその特許発明に登録無効原因が存在するとしても、それに関する無効審決が確定するまではその特許発明は一旦有効に存続し、むやみにその存在を否定できないので、当該特許発明の権利存続によって不利益を受けたり受けるおそれがある者は、まず特許権者から実施権の設定を受けて特許発明を実施しておき、特許発明の有効性を争うことについては先送りしておくこともできる。
検討
- 原告は動画関連の標準特許プールであるMPEG LAのHEVCライセンスプログラムに本件特許権を登載してライセンサーとして登録されている事実及び被告もHEVCライセンスプログラムにライセンサー兼ライセンシーとして登録されている事実は認められる。しかし、本件特許発明が動画関連の標準特許プールであるHEVCライセンスプログラムに登載されている点に照らし、被告が本件特許発明を実施していたり実施する可能性があるので、たとえ被告がHEVCライセンスプログラムにライセンシーとして登録されて本件特許発明の通常実施権の付与を受けたも同然であるとしても、法理に照らして本件特許発明に対する無効審判を請求できる利害関係人に該当すると言うのが妥当である。
- これに対して原告は、(i)原告とMPEG LA間のHEVCライセンス契約によると、原告が本件ライセンス契約を終了するとしても、被告は本件特許権の存続期間は完全かつ有効な実施権を有するので、原告から権利の対抗を受けたり、業務上損害を受けるおそれがなく、(ii)本件特許権が無効にされても、被告はHEVCライセンスプログラムによる実施料支払い義務を免れたり、実施料支払額が減少することなく同一に実施料を支払わなければならず、(iii)標準特許プールに加入するライセンサーとライセンシー間の不要な紛争なく合理的なロイヤリティ基準に従って標準特許を活用するという信頼利益を保護する必要があると主張する。
- しかし、次のような点に照らしてみると、原告の上記主張は受け入れられない。(i)本件ライセンス契約が特許権者の通知によって終了する場合に実施権者の実施権が完全な効力を維持するという趣旨は、本件特許権が有効であることを前提としたものである。本件特許権が無効になる場合には、本件ライセンス契約は失効して被告としては何ら制限なく本件特許発明を実施できるようになる。(ii)被告はHEVCライセンスプログラムのライセンシー兼ライセンサーなので、本件特許権が無効にされれば、被告及び他のライセンサーに実施料がさらに配当される可能性がある。(iii)本件ライセンス契約ないしMPEG LA特許プールに含まれた特許権に関する不争議合意が含まれていると言える資料もない。
専門家からのアドバイス
特許権の有償「実施権者」については、「実施料支払い債務」を逃れるために無効審判を請求する法律上の利益があるというのが法院の確立した見解である。本判決は、当事者間の個別の契約だけでなく、特許プールに登録されている場合にも、ライセンシーが無効審判を請求する「利害関係」が認められるという点、特許プールに告示されたライセンス契約の内容上、不争議合意が含まれていると言えないと判断したという点等で注目に値する。 本件判決では、被告がMPEG LAの特許プールに登録された他社の特許に対して無効審判を請求し、その無効審決が確定してMPEG LAの特許プールの特許リストから外れた事情が引用されている。特許プールは費用/時間の面で個別に交渉することがままならない場合に実施料を確保する手段として活用されてもいるが、この事例で見られるように、特許プールに登録されたライセンシーから無効審判が請求される可能性があるという点について今一度留意しておく必要があると言えよう。
ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム
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