知財判例データベース 2以上の文字又は図形の結合商標は全体的なイメージとモチーフが類似でも要部が異なれば互いに非類似と言えるか

基本情報

区分
商標
判断主体
特許法院
当事者
原告 スターバックスコーポレーション vs 被告 森永乳業株式会社
事件番号
2017ホ5481
言い渡し日
2017年11月24日
事件の経過
確定

概要

「コーヒー、コーヒー飲料」などを指定商品とする「森永乳業のMt.RAINIER」商標に対し、先登録商標「緑色の円の中に黒い円がある形」、「緑色の円の中に白い円がある形」および先使用商標「STARBUCKS COFFEEの商標」に基づいて請求された無効審判において、特許審判院および特許法院のどちらも両商標は非類似と判断した。

事実関係

被告は1917年に日本で設立された乳製品メーカーで、1990年代初めからコーヒー飲料に「Mt.RAINIER」商標(以下「被告商標」)を使用しはじめた(商品写真参照)。

PREMIA Caffe Latte Caffe Latte

原告は1971年に米国のワシントン州シアトルで創業した、現在世界最大の多国籍コーヒー専門店であり、「緑色の円の中に黒い円がある形」、「緑色の円の中に白い円がある形」商標(以下「原告先登録商標」)を2007年4月24日に商品区分第30類のコーヒーなどを指定商品として韓国特許庁に出願し、2009年1月29日に登録を受け、下記のような「STARBUCKS COFFEE」商標(以下「原告先使用商標」;総称して「原告商標」)を国内外で使用している。

STARBUCKS COFFEEの商標が入った紙コップ

2013年10月10日、被告は被告商標を商品類区分第29類の牛乳および第30類のコーヒーなどの商品に対して出願し、2015年2月17日に登録を受けたところ、原告は2015年12月7日付で被告商標は原告商標と類似するので旧商標法(2016年2月29日法律第14033号で改正される前のもの、以下同じ)第7条第1項第7号、第9号、第11号および第12号に該当するとして無効審判を請求し、特許審判院が被告商標は原告商標と非類似であるため無効事由がないという趣旨の審決をしたのに対し、原告が被告商標は旧商標法第7条第1項第7号および第9号乃至第12号に該当するという理由で特許法院に不服申立をした事件である。

判決内容

旧商標法第7条第1項第7号(注1)に該当するか

関連法理

商標の類否はその外観・呼称および観念を客観的・全体的・離隔的に観察し、その指定商品の取引において一般需要者や取引者が商標に対して感じる直観的認識を基準としてその商品の出所に関して誤認・混同を生じるおそれがあるか否かによって判断しなければならないため、対比される商標間に類似の部分があるとしても、当該商品をめぐる一般的な取引実情、すなわち市場の性質、需要者の財力や知識、注意の程度、専門家か否か、年齢、性別、当該商品の属性と取引方法、取引場所、事後管理の有無、商標の現存および使用状況、商標の周知程度および当該商品との関係、需要者の日常言語生活などを総合的・全体的に考慮して、その部分だけで分離認識される可能性が希薄であったり全体的に観察するとき明確に出所の混同を回避することができる場合には類似商標と言うことができない。 一方、2以上の文字または図形の組み合わせからなる結合商標は、その構成部分全体の外観、呼称、観念を基準に商標の類否を判断するのが原則であるが、商標の中に一般需要者にその商標に関する印象を植え付けたり記憶・連想させることによってその部分だけで独立して商品の出所表示機能を遂行する部分、すなわち要部がある場合は、適切な全体観察の結論を誘導するためには要部をもって商標の類否を対比・判断する必要がある。商標において要部は、他の構成部分に関わらずその部分だけで一般需要者に目立つように認識される独自の識別力のために他の商標との類否判断時に対比の対象になるものであるため、商標に要部が存在するときはその部分が分離観察されるかを判断する必要なく、要部だけで対比することによって商標の類否を判断することができる。そして商標の構成部分が要部かどうかは、その部分が周知・著名かまたは一般需要者に強い印象を与える部分であるか、全体商標において高い比率を占める部分であるか等の要素を判断し、ただしここに他の構成部分と比較した相対的な識別力水準やそれとの結合状態と程度、指定商品との関係、取引実情等までを総合的に考慮して判断しなければならない。

被告商標の要部

被告商標「Mt. RAINIER」のうち外側の円形の下段部分に記載された「ESPRESSO & MILK」および内側の円形に記載された「THE MOUNTAIN OF SEATTLE」はそれぞれ普通名称または顕著な地理的名称に該当して識別力がない。残りの文字「Mt. RAINIER」は最も太い文字で大きく記載されているうえ、中央の山図形は被告商標の中央に大きく描かれているため高い比率を占めるだけでなく、これを見る国内の一般需要者に強い印象を与える部分に該当するといえるので、「Mt. RAINIER」の英文字および山図形は被告商標の要部となる。

被告商標と原告先登録商標間の外観、呼称および観念の対比

被告商標の要部は「Mt. RAINIER」の英文字および山図形といえるため、これを原告先登録商標の標章とそれぞれ対比する場合、その外観において明確な差異がある。また、被告商標はその要部の韓国語読みである「マウンテンレーニア」または「レーニア山」と呼称および観念される一方、原告先登録商標は特別な呼称や観念を有しないので、被告商標と原告先登録商標はその呼称および観念でも差異がある。

小結論

被告商標と原告先登録商標はその標章が類似しないため、被告商標は旧商標法第7条第1項第7号に該当しない。

旧商標法第7条第1項第9号、第11号および第12号(注2)に該当するか

被告商標と原告先使用商標間の外観、呼称および観念の対比

原告先使用商標「 」のうち外側の円形の下段部分と中央部分の左右に表記された「COFFEE」および星印は普通名称または簡単でありふれた標章に該当して識別力がないといえる。残りの文字「STARBUCKS」は太字で大きく記載されているだけでなく、中央にある女性図形は原告先使用商標の中央に大きく描かれているため高い比率を占めるだけでなく、国内の一般需要者に強い印象を与える部分に該当するといえるので、「STARBUCKS」の英文字および女性図形は原告先使用商標において要部となる。 また、被告商標はその要部の韓国語読みである「マウンテンレーニア」または「レーニア山」と呼称および観念される一方、原告先使用商標はその要部の韓国語読みである「スターバックス」と呼称され、「スターバックスコーヒー」または「王冠をかぶった長い髪の女性像」と観念されるため、被告商標と原告先使用商標はその呼称および観念においても差異がある。 したがって、被告商標と原告先使用商標はその標章が類似するといえず、被告商標と原告先使用商標が指定商品の出所に関する誤認・混同を引き起こすおそれがあるとは言い難い。

被告商標の品質誤認の有無

原告は被告商標のうち「THE MOUNTAIN OF SEATTLE」、「Mt. RAINIER」部分はシアトルと関連しているという観念を与えるので、消費者が被告商標を見たとき、コーヒーの都市としてよく知られているシアトルと関連があるものと品質を誤認する可能性があると主張する。しかし原告が1971年にシアトルで初めてコーヒー店をオープンし、「シアトルラテ」という名のインスタントコーヒーを発売した事実、シアトルが世界のコーヒー文化を先導する都市として知られている事実は認めることができるが、このような認定事実だけではシアトルがコーヒーと密接な関わりがある地域という点を超えて、そのコーヒーまたはコーヒー飲料がシアトル産であるとか、ある程度の品質以上のコーヒーであるという品質保証機能があるとまで認めるには不足する。したがって被告商標は品質誤認のおそれがあるという原告の主張は理由がない。

不正の目的の有無

被告は被告商標が使用された商品を販売して2005年に韓貨約2,587億ウォンの売上をあげ、以来2014年まで持続的に上記商品だけでも年間韓貨約4,387億ウォンの売上をあげた事実等に照らしてみても、被告に原告先使用商標に化体された名声にフリーライドしまたはその著名性を希釈化する目的があったとは見難い。

小結論

以上の諸般の事情を総合すれば、被告商標は旧商標法第7条第1項第9号、第11号および第12号に該当しない。

旧商標法第7条第1項第10号(注3)に該当するか

原告が1999年に初めて韓国に進出し、2015年には全国の店舗数が760店に達し、国内のコーヒー市場において業界1位であり、国内の一般人を対象としたブランド認知度調査の結果99.8%が認知していたという事実に照らし、原告先使用商標は被告商標の出願当時に国内でコーヒーなどの需要者だけでなく一般大衆にまで広く知られていたと見る余地がある。 ただし、上述したように被告商標は原告先使用商標とはその外観・呼称・観念の面で明確に区分され、原告の先使用商標が容易に想起されたりこれと密接な関連性が認められて商品の出所に誤認・混同を招くとは見難い。

結論

被告商標は旧商標法第7条第1項第7号、第9号、第10号、第11号または第12号の登録無効事由に該当しないので、特許審判院の審決の取消しを求める原告の請求は理由がない。

専門家からのアドバイス

原告は原告先使用商標をより幅広く保護するための目的で、原告先使用商標の構成部分のうち相対的に識別力が高いとは見難い同心円からなる円形商標部分のみを別途に出願して登録を受けていたものと考えられる。しかし商標の類似判断において最も重要なのは需要者がその商標を見たときに重点的な識別力を有する部分、つまり要部が互いに類似かどうかであるため、原告先登録商標の存在にもかかわらず、法院は被告商標の要部を「Mt. RAINIER」あるいは中心に位置した山図形であるとみて、原告先登録商標とは非類似と判断した。 本件の原告のように、自社の商標をより幅広く保護するための目的で商標の構成要素それぞれについて登録を受けるケースがあるが、実際に個別構成要素の商標登録が商標保護に有用かどうかは、商標の各構成要素の識別力の程度や全体商標の構成態様などによって異なって判断される。自社の商標を幅広く保護するための実効的な方法についてはより慎重かつ専門的な検討が必要といえる。

ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム

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