知財判例データベース 容器の形態と標章が類似する商品に対して、業界での一般的な形状、文字商標の呼称の非類似性、商標の長期間使用を考慮して、出所の混同を否定した事例

基本情報

区分
商標
判断主体
ソウル中央地方法院
当事者
債権者 株式会社東亜製薬 vs 債務者 株式会社サムスン製薬
事件番号
2017カ合81326
言い渡し日
2018年01月03日
事件の経過
確定

概要

「박카스 디」(パッカス ディー) 、「박카스 에이」(パッカス エイ)などの商標を使用して疲労回復剤を製造、販売してきた債権者の東亜製薬が、疲労回復剤商品に「박탄」(パッタン)、「박탄F」(パッタンF)などの商標を使用している債務者であるサムスン製薬を相手取って、不正競争防止及び営業保護に関する法律第2条第1号イ目及びロ目に基づいて類似標章使用中止を求める仮処分を申し立てた事件で、「パッカス」と「パッタン」は非類似で、被保全権利についての疎明が不十分であり、両社いずれも長期間にわたって各製品を生産、販売してきた事情に照らして保全の必要性が認められないとして東亜製薬の申立を棄却した。

事実関係

東亜製薬の「パッカス」:ビンタイプ 缶タイプ

サムスン製薬の「パッタン」:ビンタイプ 缶タイプ

東亜製薬(以下、「債権者」とする)は、1963年頃から「パッカス ディー」という名称の疲労回復剤の販売を開始し、2013年頃からはビン製品の「パッカス D」「パッカス F」「パッカス ディカフェ」と輸出用缶製品の「パッカス エイ」を生産、販売している有名製薬会社である。 一方、サムスン製薬(以下、「債務者」とする)は、1972年頃から「パッタン ディー」という名称の疲労回復剤を販売し始め、2003年頃からは「パッタン エフ」というビン製品を、2017年からは海外輸出用として缶製品を生産、輸出している。

債務者の上記のような営業に対して債権者は「債務者が『パッカス』と同一・類似の標章を使用して製品を生産、販売することによって当社の商品や営業と混同を招いているので、このような債務者の行為は不正競争防止法違反である」と主張し、ドリンク製品などへの「パッタン エフ」等の標章使用中止を申し立てた。

判決内容

被保全権利についての判断

関連法理

不正競争防止法第2条第1号イ目は「国内に広く認識されている他人の氏名、商号、商標、商品の容器・包装、その他の他人の商品であることを表示した標識と同一若しくは類似のものを使用し、又は他人の商品と混同を生じさせる行為」を、同条第1号ロ目は「国内に広く認識されている他人の氏名、商号、標章、その他の他人の営業であることを表示する標識と同一又は類似のものを使用して、他人の営業上の施設又は活動と混同を生じさせる行為」を不正競争行為として規定している。

ここで、商品標識または営業標識が同一・類似であるか否かは、同種商品または同種営業に使用された2つの商品標識または営業標識を外観、呼称・観念などの点で全体的・客観的・離隔的に観察して、具体的な取引実情上、一般需要者や取引者が商品または営業出所に対する誤認・混同を引き起こすおそれがあるかによって判断されなければならない。特に、商品標識または営業標識が図形、文様、文字、記号、色など種々の要素からなる場合、その標識の構成要素を恣意的に分けてその一部にのみ焦点をおいて標識の類否を判断するのではなく、商品または営業の出所を表示するのに寄与している一切の資料を考慮して、その標識が需要者ないし取引者に与える印象、記憶、連想などを総合的に観察、比較する、いわゆる全体的観察が必要である(大法院2005. 5. 27. 2004マ737決定等参照)。

同一・類似性に対する判断

まず、債権者と債務者の各製品の形状は、全体的な形状を示す容器の形状が同一または類似し、各使用標章も、(1)青地に白色または銀色の丸い形状が存在し、そのなかに赤色文字で商品名がハングルで記載されている点、(2)丸い形状の上部分には青地に白色または銀色の文字が記載されている点、(3)丸い形状の下の部分には赤色長方形の中に白色で商品名がハングルまたは英語で記載されている点では共通する。

しかしながら、各製品に使用された容器は、ビン製品、缶製品いずれも外国で一般に販売されている疲労回復剤などに普遍的に使用される形態で、それ自体が商品標識または営業標識として機能するといえず、債権者と債務者の各使用標章を詳察すると、(1)文字部分がその主要部分であるといえるが、債権者製品は「박카스(パッカス)」という3音節の単語部分が、債務者製品は「박탄(パッタン)」という2音節の単語部分がその主要部分であって、外観及び呼称の面で顕著な差がある点、(2)それ以外の文字部分は各製品の性能や宣伝文句を記載したものに過ぎず、特に識別力を付与しないといえる点、(3)図形部分である丸い形状においても、債権者使用標章は枠が「歯車形状」の楕円形である一方、債務者使用標章は枠が「刃形状」の円形で差がある点に照らして顕著な差がある。

したがって、債務者製品及び使用標章は、先に述べた共通点によってそれらを全体的に観察したとき、需要者ないし取引者に与える印象、記憶、連想などが債権者製品及び使用標章と類似であるといえる余地があるものの、両当事者は韓国内で長期間にわたって独自の製品を生産、販売してきており、両製品が販売されてきた期間などを考慮してみると、一般需要者や取引者が商品または営業出所に対して誤認・混同を引き起こすおそれがある程度とはいい難いと判断されるので、結局、両製品及び使用標章は不正競争防止法第2条第1号イ目及びロ目に規定された程度に互いに同一または類似であるとは判断されない。

小結論

したがって、両標章は同一・類似でなく、不正競争防止法第2条第1号イ目またはロ目に該当しないので、本件仮処分申立は被保全権利についての疎明が不十分である。

保全の必要性に対する判断

関連法理

全ての保全処分においては、被保全権利と保全の必要性の存在についての疎明がなければならず、この2つは互いに別個の独立した要件であるため、その審理においても相互関係なく独立に審理されなければならず(大法院2007. 7. 26. 2005マ972決定参照)、民事執行法第300条第2項の臨時の地位を定めるための仮処分が必要かどうかは、当該仮処分申立の認容如何による当事者双方の利害得失関係、本案訴訟における将来の勝敗の予想、その他の諸般の事情を考慮して、法院の裁量によって合目的的に決定すべきであり、しかも、仮処分債務者に対して本案判決で命じるのと同じ内容の不作為義務を負わせる、いわゆる満足的仮処分の場合においては、それに対する保全の必要性の有無を判断するにおいて上記で述べたような諸般の事情を参酌して、より一層慎重に決定すべきである(大法院2007. 6.4. 2006マ907決定参照)。

一方、保全処分によって除去されるべき状態が債権者によって長期間放任されてきたときには、保全処分を求める必要性が認められ難い(大法院2005. 8. 19. 2003マ482決定参照)。

具体的判断

債務者は1972年頃から45年以上「パッタン」という名称の疲労回復剤を生産・販売してきており、2003年頃から現在まで「パッタンF」というビン製品を生産しているので、同業界で同一成分の疲労回復剤を販売している債権者としては、そのころ既に債務者製品の存在を認識していたものと判断される。それにもかかわらず、債権者は、本件申立以前は債務者に対してこれといって異議を提起したことがなく、債権者自らも、その期間の間に権利救済を図ることができない何らかの障害があったことを具体的に主張できずにいる。

さらに、債務者製品のうち、缶製品の場合には海外輸出用としてのみ生産されており、韓国内の消費者が債権者製品と混同を引き起こす可能性はないといえ、債権者と債務者が長期間各製品を生産、販売してきた事情などに照らしてみれば、仮に債務者の不正競争行為が認められるとしても、その損害は金銭的に補填され得るといえるだけで、債権者に回復できない損害や切迫した危険が発生するとまでは認め難い。

小結論

したがって、本件仮処分申立は保全の必要性が認められ難いと判断される。

結論

本件申立は、被保全権利についての疎明が不十分であり、保全に対する必要性もないので、これを棄却する。

専門家からのアドバイス

本件において、法院は、両商品に使用された容器の形態及び全体的標章が有するイメージの類似性を認めながらも、容器の形態の普遍性や文字部分の非類似性を考慮して、債権者の被保全権利についての疎明が不十分であると判断した。さらに法院は、債務者が債権者と同業界に従事しながら債権者の商品と同一種類の商品を長期間独自に販売してきたにもかかわらず、具体的な消費者の出所の混同による被害事例が発生したり、債権者の債務者に関する権利行使がなされたりしなかったという具体的な取引実情を考慮して、需要者ないし取引者の間で両商品が区別されてきたとすると共に、被保全権利についての疎明が不十分であると判断し、保全の必要性も否定した。債権者は法院の今回の仮処分決定に対して抗告したが、却下された。

本件は、長期間にわたって債権者、債務者の商品が独自に販売されており、その間法的措置をとらなかったという事情は、(その期間の程度や他の事実関係によって多様なケースがあり得るものの)臨時の地位を定めるための仮処分を通じた法的保護を受けるのが容易でないこともある、という点を如実に表している。したがって、権利者としては、権利行使の際に本案訴訟と仮処分申立のうち、いずれの手段を選択すべきかなどを含めた総合的な検討を行う必要がある。  

ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム

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