知財判例データベース 侵害訴訟提起後の消極的権利範囲確認審判に確認の利益があるかどうか

基本情報

区分
特許
判断主体
大法院
当事者
上告人(被告) 実施者 vs 被上告人(原告) 特許権者
事件番号
2016フ328消極的権利範囲確認審判(特)
言い渡し日
2018年02月08日
事件の経過
原告敗訴確定(2018ホ1882)

概要

権利範囲確認審判請求制度の性質と機能、特許法の規定内容と趣旨などに照らすと、侵害訴訟が係属中であり、その訴訟で特許権の効力が及ぶ範囲を確定できるとしても、これを理由として侵害訴訟とは別個に請求された権利範囲確認審判の審判請求の利益が否定されると判断することはできない。

事実関係

原告は、発明の名称を暖房装置とする本件特許第902306号の特許権者であって、被告が実施する発明に対して水原地方法院に特許権侵害差止等を求める訴えを提起した。一方、被告は、上記事件の弁論終結後、判決が言い渡される前に、本件消極的権利範囲確認審判を請求した。特許審判院では、被告の審判請求を認容し、被告が特定した確認対象発明は特許権に属さないと判断した。これを受け原告は特許法院にこの審決に対する取消訴訟を提起し、特許法院は消極的権利範囲確認審判の請求要件を判断するとともに、関連する侵害訴訟が係属中であり、その訴訟で本件特許発明の権利範囲を確定できるにもかかわらず、これとは別途に本件消極的権利範囲確認審判を請求することは審判請求の利益が認められないと判断して原告の請求を認容した。 本件はこれに対して被告が上告したものである。

判決内容

  1. 権利範囲確認審判は、特許権侵害訴訟のように侵害差止請求権や損害賠償請求権の存否のような紛争当事者間の権利関係を最終的に確定する手続ではなく、その手続での判断が侵害訴訟に羈束力を及ぼすものでもなく、簡易かつ速やかに確認対象発明が特許権の客観的な効力範囲に含まれるか否かを判断することにより、当事者間の紛争を予防したり速やかに終結させるのに貢献するという点で固有の機能を有する。
  2. 特許法が権利範囲確認審判と訴訟手続を各手続の開始前後や経過などと関係なく別個の独立した手続として認められることを前提に規定していることも、先に述べた権利範囲確認審判制度の機能を尊重する趣旨と理解することができる。

したがって、権利範囲確認審判請求制度の性質と機能、特許法の規定内容と趣旨などに照らしてみると、侵害訴訟が係属中であり、その訴訟で特許権の効力が及ぶ範囲を確定できるとしても、これを理由として侵害訴訟とは別個に請求された権利範囲確認審判の審判請求の利益が否定されると判断することはできない。

専門家からのアドバイス

本判決は、本データベースに収録されている特許法院2016.1.14言渡2015ホ6824判決の上級審判決である。この特許法院判決時の専門家コメントでは、特許法院の判決を支持するとともに、そのまま大法院で確定することを期待していたが、本判決で破棄差戻しとなった。一方、本判決以外にも侵害訴訟事件と権利範囲確認審判事件がともに進められている状況において、特許法院と大法院は、審決時を基準に関連する侵害訴訟の判決確定前であれば権利範囲確認審判に確認の利益があり、判決が確定したとしても審決取消訴訟で不利な審決を取り消す法律上の利益が存在すると判断して、一貫して審判請求の利益や訴えの利益を否定しない立場をとっている。

本判決の結果を踏まえてみれば、韓国で権利範囲確認審判が残っている限り、このような判断は当分続くものと考えられる。したがって、特許権者としては、韓国で侵害差止や損害賠償などの訴訟を進める場合、消極的権利範囲確認審判がともに進められる可能性を念頭におく必要があり、また、これとは反対に、提訴されそうな場合には、防御手段として消極的権利範囲確認審判を活用することが依然として有用であると言うことができる。

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