知財判例データベース 呼称が同じ韓国語商標と英文商標の権利者が、英文商標と類似の商標を使用して他人の商標と混同を生じさせた場合、韓国語商標も取り消しになり得るか

基本情報

区分
商標
判断主体
特許法院
当事者
原告 株式会社イェラン vs. 被告 個人
事件番号
2017ホ2543, 2017ホ2550(併合)
言い渡し日
2017年10月20日
事件の経過
大法院で原告敗訴部分破棄差戻し特許法院2018ホ3550原告勝(登録取消)2018. 8. 28.確定

概要

「食器、陶磁器」等を指定商品とする「YELANG 」商標および「イェランのハングル」商標の登録を保有している被告あるいは専用使用権者による「YELANG CERAMIC(上段に陶磁器の形を表した紫色の図形があり、その下にYELANG CERAMICと書いてある)」商標の使用行為は、訴外株式会社イェラン&CO(以下「イェラン&CO」)の「YELANG&CO(上段に陶磁器の形を表した紫色の図形があり、その下にYELANG & COと書いてある)」商標との関係で需要者に混同を生じさせるとして争われた登録取消について、特許法院は「YELANG&CO」が特定人の出所表示として認識されるという点を認め「YELANG 」商標の不正使用を認めたが、「イェランのハングル」商標については不正使用とはみられないと判断した。

事実関係

YELANG 」商標(以下「被告登録商標1」)および「イェランのハングル」商標(以下「被告登録商標2」)(以下総称して「被告登録商標」)の専用使用権者である「イェランセラミック」は、「YELANG CERAMIC(上段に陶磁器の形を表した紫色の図形があり、その下にYELANG CERAMICと書いてある)」商標(以下「実使用商標」)をインターネットホームページおよび食器・陶磁器製品のカタログなどに使用していた。原告は2017年1月2日、被告登録商標に対し、被告および/または専用使用権者による実使用商標の使用行為は訴外イェラン&COの「YELANG & CO(上段に陶磁器の形を表した紫色の図形があり、その下にYELANG & COと書いてある)」商標(以下「対象商標」)との関係で需要者に混同を生じさせるとして旧商標法第73条第1項第8号(注1)に基づき不正使用取消審判を請求したが、特許審判院は対象商標が特定人の出所表示として認識されないため需要者の混同のおそれがないとして原告の審判請求をいずれも棄却した。これに対し原告は特許法院に審決取消訴訟を提起した。

判決内容

(1)対象商標が実使用商標との関係で他人の商標に該当するか
被告登録商標が旧商標法第73条第1項第8号に該当するためには、対象商標が実使用商標との関係で「他人の商標」に該当しなければならないが、被告と対象商標の使用者であるイェラン&COとの間にはある程度経済的牽連関係がある状況という点で、果してイェラン&COが被告との関係で他人に該当するかが問題となる。
被告が直接創作した多数の食器類関連デザインに関して、イェラン&COを登録権利者としてデザイン登録が出願・登録された点、イェラン&COの本店住所地と被告住所地が一致する点、イェラン&COとロッテホームショッピングが主催したイベントと関連して製作された感謝状にイェラン&COの代表理事として被告の氏名が表示された点、イェラン&COの社員が被告を社長と呼んで被告に業務報告をした点等は認められるが、イェラン&COの法人登記簿に被告が代表理事または理事としてまったく登載されていない点、イェラン&COの企業信用分析報告書にも2010年2月2日当時代表者が他人で、その者らがイェラン&COの発行株式のうちそれぞれ65%、35%を保有していると記載されている点等に照らしてみれば、被告がイェラン&COの実質的経営者であるとは断定し難い。また、イェラン&COは被告および専用使用権者とは別個の法人格なのでイェラン&COが使用した対象商標に化体された信用など対象商標に関する権利はイェラン&COに帰属されるもので、かりに被告がイェラン&COの実質的経営者であるとしても、そのような事情だけでイェラン&COに帰属された対象商標に関する権利が被告や専用使用権者に承継されると見ることはできない。したがって対象商標は実使用商標との関係で他人の商標に該当する。

(2)対象商標が特定人の出所表示として認識されたか
旧商標法第73条第1項第8号は実使用商標の使用が需要者をして対象商標が使用された商品との間に商品出所の誤認・混同を生じさせるおそれが客観的に存在したことを要件とするため、実使用商標が使用された当時、対象商標が周知・著名な状態に至っていたことまでは要しないが、少なくとも実際に使用され需要者にある程度は知られていなければならない。
ここで、イェラン&COは毎月の生産量が約30万個にのぼる事実、イェラン&COの売上額は年間40~75億ウォンに達し、家庭用陶磁器の国内総生産額(約1,412億ウォン)を基準としたときその約4.39%を占めている事実などを総合してみれば、実使用商標が使用された当時、対象商標は需要者に特定人の業務に関連した商品を表示するものとしてある程度知られていたとみるのが妥当である。

(3)実使用商標の使用が被告登録商標1の不正使用に該当するか
旧商標法第73条第1項第8号は、商標使用権者が商標制度の本来の目的に反して登録商標をその使用権の範囲を超えて不正に使用することができないように規制することにより商品取引の安全を図り、他人の商標の信用や名声への便乗行為を防止して取引者と需要者の利益を保護することはもちろん、他の商標を使用する人の営業上の信用および権益も併せて保護しようとすることにその趣旨がある(大法院2005年6月16日言渡し2002フ1225全員合議体判決参照)。よって、実使用商標が登録商標を対象商標と同一または類似に見えるように変形したものであって、その使用により対象商標との関係で登録商標をそのまま使用した場合よりも需要者が商品出所を誤認・混同するおそれがより高まったとすれば、旧商標法第73条第1項第8号で定めた不正使用を理由とする商標登録取消審判においてはその実使用商標の使用を登録商標と類似の商標の使用とみることができる(大法院2013年12月26日言渡し2012フ1521判決など参照)。
ここで、実使用商標と対象商標間の商品出所に関する誤認・混同のおそれの有無について判断すると、(1)実使用商標と対象商標は下段の文字部分のみがそれぞれ「CERAMIC」、「&CO」で異なるだけで、どちらも上段に陶磁器の形を表した紫色の図形が配置された点、中央に配置された部分がアルファベット大文字からなり、書体が同一で、その色も同じオレンジ色である点、上段の図形部分と中段・下段の各文字部分が3段併記され、各部分の相対的大きさもほぼ同じである点等から非常に類似する点、(2)実使用商標のうち「CERAMIC」部分は実使用商標の使用商品である食器、陶磁器の原材料または陶磁器そのものを表すものとして識別力がなく、対象商標のうち「&CO」部分もやはり株式会社を意味する英単語「Corporation」の略字「CO」を表示したものとみられ識別力が微弱な点等に照らし、実使用商標と対象商標は標章が非常に類似して同一・類似の商品にともに使用される場合、需要者が商品出所を誤認・混同するおそれが高いとみられる。
また、実使用商標が被告登録商標1を類似するように変形して使用したものとみることができるかついて判断すれば、(1)被告登録商標1は「YELANG」というアルファベットのみからなる文字標章である一方、実使用商標「上段に陶磁器の形を表した紫色の図形があり、その下にYELANG CERAMICと書いてある商標」は「YELANG 」という文字部分の上段と下段にそれぞれ「陶磁器の形を表した紫色」のような図形部分と「CERAMIC 」という文字部分が付加された標章である点、(2)図形部分との構成形態、残りの部分の識別力などを考慮するとき、実使用商標は「YELANG」部分だけで分離認識されたり、少なくとも「YELANG」部分が実使用商標において中心的識別力を有する要部になるとみるのが妥当である点、(3)ところが実使用商標のうち「YELANG」部分と被告登録商標1は文字が同一で、書体もほとんど同じであるため、両者は実質的に同一である点などを総合的に考慮すれば、実使用商標は被告登録商標1を対象商標と類似に見えるように変形して使用したものであって、それにより対象商標との関係で登録商標をそのまま使用した場合よりも需要者が商品出所を誤認・混同するおそれがより高まったとみるのが妥当であることから、実使用商標は商標法第73条第1項第8号の観点から被告登録商標1と類似の商標に該当する。
したがって、専用使用権者の実使用商標の使用は被告登録商標1の専用使用権者による被告登録商標1の不正使用に該当するので、被告登録商標1は商標法第73条第1項第8号本文に該当する。

(4)実使用商標の使用が被告登録商標2の不正使用に該当するか
被告登録商標2は韓国語のみからなる「イェランのハングル」という標章である。ところが実使用商標の文字部分がアルファベットのみで表記された点から推察して、これはアルファベットのみで表示された被告登録商標1を対象商標と類似に見えるように変形したものとみられ、商標法第73条第1項第8号の立法趣旨を考慮すれば、実使用商標に対して被告登録商標2を対象商標と類似に見えるように変形したものであるとまでは見難い。つまり、商標法第73条第1項第8号所定の不正使用の観点からみると、被告登録商標2と実使用標章は類似とは見難い。したがって、被告登録商標2はさらに詳察するまでもなく商標法第73条第1項第8号に該当しない。

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