知財判例データベース 許可済の医薬品の有効成分と幾何異性体の関係にある有効成分を有する医薬品は存続期間延長の対象となるか

基本情報

区分
特許
判断主体
特許法院
当事者
原告、グラクソ(出願人) vs. 被告、特許庁長
事件番号
2016ホ9035
言い渡し日
2017年12月21日
事件の経過
確定

概要

本件委任条項に記載された医薬品は、従前に許可された医薬品の治療効果と相違する治療効果を有すると同時に、「従前に許可された医薬品と比較して上記のような治療効果を示す部分の化学構造が新しい物質」を有効成分として製造したものであって、最初に品目許可を受けた医薬品であると見るのが妥当であり、存続期間延長の対象となる。

事実関係

原告グラクソは、本件品目許可(注1)と関連して457日要されたことを理由に存続期間延長登録出願をし、これに対して担当審査官は「本件医薬品は薬事法第2条第8号で定めた『新薬』に該当しない」という理由で拒絶決定を下した。原告は、拒絶決定に対する不服審判を請求し、特許審判院は、食薬処(処は日本の省庁に該当)の許可関連事項を詳察すると本件医薬品に限らずレチノイン酸の全ての異性質体は新薬として許可されなかったことが確認されるところ、本件医薬品は薬効を示す活性部分の化学構造が新しい物質を活性成分として含むものとは認められないので、特許法施行令第7条(注2)の対象発明に該当しないという理由で審判請求を棄却した。これに対し、原告は審決取消の訴えを提起した。

判決内容

「薬効を示す活性部分の化学構造が新しい物質」である新物質は、被告の主張のように薬事法上の新薬と見るよりは医薬品の成分中に内在する薬理作用によって(薬理機序が明らかになっていない場合もある)特定疾病に対する治療効果を示す部分の化学構造が新しい物質であると解釈することが文理解釈上自然であると言える。
本件医薬品の有効成分である9-シスレチノイン酸(9-cis retinoic acid)は従前に品目許可を受けた医薬品の有効成分であるトレチノイン、イソトレチノインと幾何異性体(geometric isomer、シス-トランス異性体)の関係にある。幾何異性体は立体構造が互いに異なるため、一般にイオン化等の物理化学的性質や生物学的活性において相当な差がある。
さらに、9-シスレチノイン酸は、トレチノインがレチノイド受容体中のRARにのみ結合するのに対し、RARだけでなくRXRにも結合する。また、レチノイン酸はトレチノインが有しない慢性手湿疹治療効果を有しているが、このような治療効果の差は上記のような作用機序の差に起因するものと言える。
上記で詳察した幾何異性体の一般的な性質、各有効成分の作用及び効果の差に照らしてみると、本件医薬品は従前に品目許可を受けた医薬品と相違する慢性手湿疹治療効果を有すると同時に、「従前に許可された医薬品と比較して上記のような治療効果を示す部分の化学構造が新しい物質」を有効成分として製造したものであり、最初に品目許可を受けた医薬品と見るのが妥当である。

専門家からのアドバイス

本判決は、韓米自由貿易協定後に改正された施行令において、延長登録出願の対象発明の基準を明示したというところに大きな意義がある。本訴訟で特許庁は、改正された施行令は延長登録出願の対象である医薬品を米国特許法と同様に「新薬」に限定したものであり、本件医薬品のように従前の許可により活性及び安全性が既に確認されたことによって、安全性・有効性審査資料の提出が一部免除される「資料提出医薬品」を除外するためのものであると主張したが、法院は、立法趣旨と目的及び規定内容等に照らしてみて、延長登録出願の対象が新薬に限定されると解釈できないと判断した。
「延長登録出願」に対する趣旨が、他の発明とは異なってすぐに実施することができず、実施の許可を受けるための試験には長期間を要するためその期間を補償するものであることを考慮して、薬事法上の「新薬」に限定せずに特定疾病に対する治療効果を示す部分の化学構造が新しい物質までその対象と判断したこの判決は大いに首肯できるものである。
参考までに、日本では2015年11月17日の最高裁言渡2014(行ヒ)356判決において、同一の特許に対して2つの機関承認を得た場合、先行承認と後続承認間の差を検討して用量/用法の差があるため先行承認による医薬品の製造/配布が後続承認の製造/配布を含まない場合に2つの個別の延長登録出願を認めたことがあり、さらに幅広く対象を認めている。

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