知財判例データベース 結合商標の後登録商標が先登録商標と同じ部分を含んでいても、誤認・混同のおそれがなければ非類似といえるか
基本情報
- 区分
- 商標
- 判断主体
- 特許法院
- 当事者
- 原告 オリンパスベンチャースリミッテッド(英国) vs 被告 株式会社フォックスコリア
- 事件番号
- 2017ホ5368
- 言い渡し日
- 2017年11月03日
- 事件の経過
- 上告審係属中
概要
第12類の自転車などを指定商品とする「」商標に対し、第12類の自転車などを指定商品として先登録された「
」商標と類似するとして請求された登録無効審判において、特許審判院は両標章が類似することを理由に認容審決をしたが、審決取消訴訟において、特許法院は原告商標の構成方法や関連商品分野の実情などを総合的に考慮してみるとき、FOX部分だけに分離して観察されないため先登録商標と類似しないと判断した。
事実関係
被告株式会社フォックスコリアは下図のように自転車、自転車衣類、自転車用品などに「FOX」もしくは「FOXRIDER」または図案化したFなどの標章を付して使用している。
原告は25年間ヨーロッパで多様な形態の原告商標(下図参照)をマウンテンバイクに使用してきた英国の自転車メーカーMuddyfox Limitedの子会社として、世界各国で原告商標に関する登録を保有している会社である。
原告は2014年9月18日に「MUDDYFOX」という文字商標を商品類区分第12類に属する自転車などの商品に出願して2015年9月1日に登録を受け、これに対し被告は2016年1月27日、原告商標は先登録商標と類似するため旧商標法第7条第1項第7号(注1)に該当するとして無効審判を請求し、特許審判院は被告の主張を受け入れて原告商標は無効に該当する旨の審決をした。これに対し原告が特許法院に不服を申し立てた事件である。
判決内容
関連法理
商標の要部法理
商標の構成部分が要部かどうかは、その部分が周知・著名であったり一般需要者に強い印象を与える部分であるか、全体商標において高い比率を占める部分であるか等の要素を考慮し、ただしここに他の構成部分と比較した相対的な識別力水準や、それとの結合状態と程度、指定商品との関係、取引実情等までを総合的に考慮して判断しなければならない。
標章の類似法理
商標の類否は、その外観・呼称および観念を客観的・全体的・離隔的に観察し、その指定商品の取引において一般需要者や取引者が商標に対して感じる直観的認識を基準として、その商品の出所に関して誤認・混同を生じさせるおそれがあるか否かによって判断するべきであるため、対比される商標間に類似の部分があるとしても、該当商品をめぐる一般的な取引実情、つまり市場の性質、需要者の財力や知識、注意の程度、専門家であるかどうか、年齢、性別、当該商品の属性と取引方法、取引場所、事後管理の要否、商標の現存および使用状況、商標の周知程度および当該商品との関係、需要者の日常言語生活などを総合的・全体的に考慮し、その部分だけで分離認識される可能性が希薄だったり、全体的に観察するとき明確に出所の混同を避けることができる場合には類似商品と言うことができない。
両商標の類否
マウンテンバイク(MTB)業界での「FOX」という用語の使用実情
- 先登録商標を除いても、本件登録商標の出願以前に、その指定商品と同一・類似の商品類に




- 一方、1974年頃に設立された米国所在のフォックスファクトリーインコーポレイテッドは、1978年頃から「
」商標を付した各種自転車、自転車アクセサリおよび関連衣類製品を全世界54カ国に販売してきており、韓国国内での売上額も2005年頃の約4.3億ウォンから2008年頃には17.6億ウォンと急激に増加し、国内の自転車専門雑誌やインターネットなどでも常に製品広告が掲載される等、特に国内マウンテンバイク分野では上記商標「
」はかなりの認知度を有している事実がある。
原告商標の使用現況
原告商標は、原告の親会社であるMuddyfox Limitedによってマウンテンバイク(MTB)、マウンテンバイク用シューズ、アクセサリ、衣類などの商品に付されて使用されてきた商標として、その商標が付された靴などの商品が国内のオンラインショッピングモール等でも広告・販売されてきた。また韓国では原告商標と同じ商標が1989年4月21日にその指定商品を「第37類自転車、自転車のリム、自転車用ペダル、自転車用車輪、自転車用タイヤ、自転車用チューブ」として出願され、1990年3月26日付で商標権設定登録された。
原告商標がその指定商品について「FOX」のみで認識されるかどうか
原告商標は「MUDDY」部分と「FOX」部分とがスペースなしに1つの単語として結合しており、これにより各単語が有する意味以上の新しい観念が形成されたものとみる余地もある点、「MUDDY」は5字のアルファベットからなり、3字のアルファベットからなる「FOX」より標章全体において高い比率を占め、その位置も標章の前段に配置されている点、被告商標の標章「FOX」が国内の取引現実において被告の標識として広く知られているとみる事情もない点、原告商標は「マディ」と「フォックス」とに分離されたり「フォックス」のみで呼称されるよりは「マディフォックス」という1つの単語で呼称・認識されるものとみられる点などを総合してみれば、原告商標が「FOX」部分のみで認識される可能性は希薄とみるのが妥当である。
結論
したがって、両標章を対比すれば、「MUDDYFOX」は「マディフォックス」と発音され、「フォックス」と呼称される先登録商標とはその呼称および外観面で相違し、その観念も同一ではないので、両標章が同一・類似の指定商品にともに使用されても、一般需要者や取引者間にその商品の出所に関する誤認・混同が引き起こされるおそれがあるとは言い難いところ、結局、両標章は類似しないと言える。したがって、原告商標が旧商標法第7条第1項第7号に該当すると判断した本件審決は違法である。
専門家からのアドバイス
商標法上、「類似」は権利範囲を特定するための一つの抽象化された記述的基準として、混同という実質概念から昇華され形式化された形式概念である。このような商標類似概念の導入により、混同が実在するかを問わず、類似によって発生する「混同可能性(likelihood of confusion)」があれば登録商標の差止権が及ぶというのが原則的な姿である。
ただし、判例は出所の誤認・混同防止および具体的事件において妥当な結論を導出するために、混同が実在するかを考慮することもあるという点を明確にしており、最近の判例は混同が実在するかを積極的に考慮する傾向を示している。本案もまた、混同が実在するかを両商標の類似性判断の重要な要素として考慮したという点で、最近の法院の傾向に合致する判例という点で意味がある。一方、本件は被告が上告して大法院に係属中であり、大法院で特許法院の判断をどのように判断するか注目される。
注記
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第7条(商標登録を受けることができない商標)
(1)次の各号のいずれかに該当する商標は、第6条にかかわらず、商標登録を受けることができない。
7.先の出願による他人の登録商標(地理的表示登録団体標章を除く)と同一又は類似の商標であってその指定商品と同一又は類似の商品に使用する商標
ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム
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