知財判例データベース 商標が先登録商標と指定サービス業にともに使用されても誤認・混同を引き起こさないとした事例

基本情報

区分
商標
判断主体
特許法院
当事者
原告 (株)ウェブゼン vs 被告 特許庁長
事件番号
2017ホ3270
言い渡し日
2017年10月20日
事件の経過
確定

概要

特許庁は、原告が出願した商標上はMU、下はORIGINと書いてある商標画像 (以下「本件商標」)が先登録商標であるORIGINなどと類似であり、旧商標法(2016年2月29日に法律第14033号で改正される前のもの。以下同じ)第7条第1項第7号により登録を受けることができないという理由で登録を拒絶し、特許審判院も同一の理由で原告の審判請求を棄却する審決をしたが、特許法院は、本件商標の構成方法や国内のコンピュータ及びオンラインゲーム業界の実情などを総合的に考慮してみると、本件商標はORIGIN部分だけに分離して観察され得ず、先登録商標と類似でないと判断した事件

事実関係

相当な認知度を有するオンライン・モバイルゲーム開発及び流通会社である原告は、2001年11月19日にPCバージョンのオンラインゲームである「ミューオンライン(MU ONLINE)」をリリースして大きな成功を収め、それ以降、「ミューオンライン」を基盤に「ミューブルー(MU BLUE)」、「ミューレジェンド(MU LEGEND)」、「ミューイグニッション(MU IGNITION)」、「ミューオリジン(MU ORIGIN)」などミュー(MU)シリーズのゲームを続けてリリースしたが、この時、各ゲームについて次の通り上段のMUはそのまま維持し、下段の表記のみ変更する形で使用してきた。

MUの下の表記を変更した商標

原告は、そのうちMU ORIGINゲームに使用される標章である本件商標を商品類区分第9類、第35類及び第41類について出願したが、特許庁と特許審判院でORIGIN等で構成された先登録商標と類似であるという理由で登録が許可されず、これに対して原告は特許法院に不服を申し立てた。

判決内容

(1)標章の類似法理

商標の類否は、その外観・呼称及び観念を客観的・全体的・離隔的に観察し、その指定商品の取引で一般需要者や取引者が商標に対して感じる直観的認識を基準とし、その商品の出所について誤認・混同を引き起こさせるおそれがあるかどうかによって判断すべきなので、対比される商標間に類似の部分があるとしても、当該商品を巡った一般的な取引実情、即ち市場の性質、需要者の財力や知識、注意度、専門家か否か、年齢、性別、当該商品の属性と取引方法、取引場所、事後管理如何、商標の現存及び使用状況、商標の周知性及び当該商品との関係、需要者の日常言語生活などを総合的・全体的に考慮し、その部分のみに分離認識される可能性が希薄であったり全体的に観察すると明確に出所の混同を避けることができる場合には、類似商品であると言えない。

(2)本件商標がORIGIN部分のみに分離認識され得るかどうか

1)コンピュータ・オンラインゲームでの「ORIGIN」という文言の使用実情

ゲーム業界で一つのゲームに対して後続ゲームがシリーズとしてリリースされる場合があるが、この場合、既存のシリーズをオリジナルとしながらも、新たなバージョンであることを示すために既存のゲームの標章に「ORIGIN」という文言を付け加える例がたびたび見られ、これは需要者に本来のゲームの独創的内容を伝えながら新たな後続バージョンのゲームであることを示すものとして認識されている。

2)原告のミューオリジン(MU ORIGIN)ゲーム関連の現況

原告は2015年4月頃にこのゲームをリリースしてから本件商標を使用してきたが、このゲームの2015年の売上高は2,000億ウォンを超え、2015年5月下旬にはグーグルプレイのゲーム売上高1位、2015年10月頃にはアップルのアップストアのゲーム売上高1位に上る等、相当な商業的成功を収めた。また、ゲームに関するニュースや新聞記事では、このゲームが「ミューオリジン」と呼称されており、需要者間でも「ミューオリジン」と呼ばれるのが一般的で、「オリジン」とのみ呼んだ例を見出すことはできない。

3)本件商標がその指定商品及び指定サービス業についてORIGINのみで認識され得るかどうか

本件商標は上段のMUと下段のORIGINが区分されており、互いに分離して観察すると不自然な程度に不可分的に結合していると言うのは難しい。ただし、MU部分は大きく表現された一方、 ORIGIN部分はそれよりはるかに小さい大きさで表現されているところ、一般需要者の注意力を基準とすると、MU部分がさらに顕著に認識されると言える。また、原告は2001頃からORIGIN商標を多様なバージョンのゲームなどに使用してきており、原告が提供するゲームの認知度と商業的成功度、使用期間などに鑑みると、ORIGIN部分はゲーム業界や需要者間で原告や原告が提供するゲームの出所を表示する標章として相当認識されていると言える。従って、商品類区分9類のコンピュータゲームソフトウェア等及び41類のオンラインゲームサービス業と関連しては、ORIGIN部分のみで呼称される可能性は希薄であると言える。
さらに、商品類区分41類のうちゲーム情報提供業と関連してORIGIN部分のみに分離認識される可能性があるかどうかを詳察すると、原告が商取引の対象になるゲーム情報提供業を別途に営んだと言うのは難しいが、「ミューオリジン」という名称のネイバーカフェを開設してゲーム情報を提供しており、その会員数が約23万人に達する点、国内の代表的なゲーム情報提供企業のウェブサイトに「ミューオリジンコミュニティー」が開設されている点などを考慮すると、本件標章がオンラインゲームの名称としてだけでなく、少なくとも該当ゲームの情報が提供される役務ないしサービスを示す名称としても相当知られるようになったと言える点、現在のオンライン及びモバイルゲーム業界の取引実情上、オンラインゲームを制作してリリースすれば、それに伴って当該ゲームに関する各種情報や新たなゲームキャラクタを持続的に提供するのが一般的であり、「ゲーム情報提供業」の場合にも、ORIGIN部分のみで観察される可能性は非常に希薄であると言うのが妥当である。

(3)結論

以上のような諸般の事情を総合してみれば、本件商標は標章全体であるMU、下はORIGINと書いてある商標画像または構成部分のうち標識全体で占める割合が大きく識別力が強いMU部分で呼称されるだけで、ORIGIN部分で分離認識されると言うことはできない。従って、本件商標がORIGINなどの先登録商標と類似であるとして旧商標法第7条第1項第7号に該当すると判断した審決は違法である。

専門家からのアドバイス

商標法は、標識法のうち「独占法」に該当する法律であって、独占法という性格上、独占の内容と限界を線引しなければならず、これを通じて権利者に与えられる独占排他権という権利範囲を明確にしなければならない。ところが、権利範囲の確定において商標制度の目的が商品の出所の混同防止にあるという理由で「混同の実在」という実質概念のみを論じるならば、権利範囲が浮動化し、商標制度の他の理想である商標の簡易迅速かつ定形的な保護が難しくなる。従って、商標法は混同の実在から把握される「具体的・個別的混同」の有無とは別個に、商標と商品が類似であれば「抽象的・一般的混同」が発生するという形式的・画一的な基準に従って法を運営するのが現実である。
このような商標法の理念に鑑みると、商標法上「商品の出所の混同」とは、原則的に「一般的出所の混同」を意味すると見るのが妥当であるが、出所の誤認・混同防止及び具体的事件において妥当な結論のために具体的出所の混同も法的安定性を損なわない範囲で考慮できると言え、最近の判例は具体的出所の混同の有無をより積極的に考慮する傾向を示している。
本件も一般的な商標類似の基準に従うならば、本件商標と先登録商標は類似であると言うのが妥当であるが、具体的出所の混同の可能性まで考慮して両商標が類似でないと判断した事案であって、最近の法院の傾向を如実に反映しているという点で意義がある。

ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム

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